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ちょっと待てぃ!そのグラフから何を読む?データを見るときに気にして欲しい5つのチェックポイント

SNSに流れる雑多な情報をあなたは正しく読み取れていますか?Twitterのトレンドやバズっている情報とユーザーの反応を眺めるのが趣味の私ですが、グラフや図表などのデータに対するユーザーの反応を見ると、「グラフの解釈がやや直感的すぎるのでは?」と感じるリプライをしている方が様々なシチュエーションで見受けられます。

私もグラフや図表を見るとき文脈を把握できなかったり、よくわからないままなんとなく良いこと・悪いことと受け取っていた時代があったので気持ちがよくわかるんですよね。

ただ、社会人として仕事をする中、データの読み取りや解釈の失敗により洒落にならん損害を被った経験(コンプライアンスの関係で詳細は省かせてください)から、最低限データを確認するときにチェックすべきポイントを学び、それ以来同様の失敗は無くなりました。

データを正しく読み取れると「(1)単純化されたデータに隠されたこちらに不利な情報を見抜ける」ので、お仕事や私生活で高い買い物をする時などの重要な意思決定で困らなくなったり、「(2)世の中には不安を煽る情報で溢れているけれど、変に悲観的にならなくて良い」ので日常にハッピーな時間が増えたりします

現代のSNSで単純化された情報が蔓延る社会では特に(2)が重要なポイントだと思います。不安を煽られすぎて悪い大人に騙されたりしてもよく無いので、メンタルってばかにできないんですよね。

私は経済学や統計学に精通している人間ではございませんし、一般教養も年相応程度にも持ち合わせておりません。

それでも、直感に訴えるグラフや図表を視認した時、直感に訴えるよくできたグラフだからこそ「ちょっと待てぃ!」が必要だと言いたいんです。

この記事では、比較的バズりやすい「年収」や「給与」に関する情報を例に、SNSで流れてくる情報を脊髄反射で勘違いしない程度にデータを読み解くためのポイントをまとめました。

そんなに小難しい話を堅苦しくする予定でも無いので、気軽に目を通していただけたら幸いです。

直近で気になったツイートとグラフの例

注:私はケイ THE ただの雑学おじさん様の主張や人格を否定したいわけでも、悪く言いたいわけでもなく、あくまでグラフの使い方について気になった例として引用しているだけなので、絶対にケイ THE ただの雑学おじさん様に否定的な文書を送るなどの行為はしないでください。

このツイートは

に対するレスで、つまり

【ひかりん@婚活くま】
主張:最近の婚活女子がパートナーに求める年収は350万円くらいまで下がっている
仮説:日本が貧乏になってきているから

に対して

【ケイ THE ただの雑学おじさん】
主張:給料が下がってきているようです
根拠:実質賃金推移の国際比較グラフ

という文脈です。

婚活女子の求める年収に関してはエビデンスを求めに行くような事ではないと個人的に考えていますし、主題からずれるので、あくまで文脈として把握してください。

本題に戻ります。

この文脈で実質賃金推移の国際比較グラフが出てくるのは不自然である事に気づきますか?

そう、給料と実質賃金って相関関係無いんですよね。

【実質賃金】
実質賃金(じっしつちんぎん)とは、労働者が労働に応じて取った賃金が、実際の社会においてどれだけの物品の購入に使えるかを示す値である。賃金から消費者物価指数を除することで求められる。このときの賃金、すなわち貨幣で受け取った賃金そのもののことを名目賃金(めいもくちんぎん)という。

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

なので、ここで「ちょっと待てぃ!なんでそのグラフが今関係あるんじゃい?」を入れる必要があります。例えば、婚活女性がパートナーに求める給与と平均給与の推移と比較をしたいのであれば、以下のグラフが便利です(国税庁のHPを確認すると、昭和62年くらいまで掘れます)。

画像1

(参考:国税庁:H30年分 民間給与実態統計調査

こちらは「国税庁:H30年分 民間給与実態統計調査」からの引用です。

(a)婚活女性がパートナーに求める給与の変化
(b)日本人の平均給与の変化

を比較してみると、(a)の具体的な時系列が不明瞭ですが、過去10年で変化したと仮定した時に

(a)¥10,000,000→¥3,500,000(35%)
(b)¥4,300,000→¥4,410,000(103%)

という変化なので、「(a)と(b)に相関関係も因果関係もなさそうだ」ととりあえず判断しても良さそうですね

本件で引用した例に対するアクティビティを見て、少し気になったので解説してみました。

「じゃあ、なんで(a)は1000万円から350万円に変化したのだ!」

については、蛇足になりますが一応別の資料を用いて話します。蛇足なので飛ばしちゃっても問題ないです。

-----蛇足 ~ 婚活女性がパートナーに求める給与の変化に対する仮説-----

蛇足なのでサクッといきましょう

用いる資料は「厚生労働省:2015年 社会保障・人口問題基本調査)です。

このような情報について調べるときは、

(1)仮説ありきでデータを探す
(2)データを読み解いて仮説を立てる

のどちらかなのですが、今回は(1)で行きましょう。

主題 :婚活女性がパートナーに求める給与はなぜ下がったのか
仮説1  :日本人の給与が全体的に下がったから←×
仮説2 :日本人夫婦の生活様式に何らかの変化があったから

仮説1が外れたので、今度は仮説2「日本人夫婦の生活様式になんらかの変化があったから」を証明すべくデータを探しましょう。すると、

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(参考:厚生労働省:2015年 社会保障・人口問題基本調査

女性が結婚相手の条件として「経済力」を考慮/重視する割合の変数は変わりませんね。もう少し見ていきましょう。

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(参考:厚生労働省:2015年 社会保障・人口問題基本調査

ようやく参考になりそうな情報が見つかりました。2010年データが最新なのが心許ないですが、上の図「専業主婦コース」の数値変化が顕著です。

【女性の予定ライフコース】では、「専業主婦コース」を生きる予定の女子性が1987年→2010年で約23%→9.1%に変化しており、2020年現在は2010年と比較してもさらに下がっているであろうと考えられます。

なので、

かつて婚活女性がパートナーに求める年収が1000万円だった時代は専業主婦であることを前提にした給与であり、夫婦の収入がダブルインカムを前提と変化したため2020年現在の婚活女性がパートナーに求める年収は350万円に変化した。

と、相関ではなく因果で考えると自然ですね。この主張を強めるのであれば、女性の平均年収推移データを並べてみると良いでしょう。

ひかりん@婚活くま】さんの元ツイートに対するレスでも収入がダブルインカム前提に変化したが故のものであると主張する方は大勢いましたが、私もその考えに賛同します。

本筋と相当外れましたね。戻りましょう。

データを見るときに疑うべき4つのポイント

ここまでのデータ引用を見て「なるほど!」と思った方。もっと疑ってください。というわけで、データを見るときに疑うべきポイントを解説していきましょう。ようやく本題ですね(本題の方が短くなりそう)。

データを見る時に疑うべきチェックポイントは4つです。とりあえずSNSのタイムラインに流れてくる情報を咀嚼する程度なら4つだけ抑えれば問題ないでしょう。

チェックポイント
・今何の話してる?
・いつの話してる?
・このデータ誰が何のためにまとめたの?
・何を基準にしてるの?
・データの母集団は?

これだけ抑えてください。面白そうなデータが流れてきたら「ちょっと待てぃ!」と自分を呼び止めて、このチェックポイントだけは絶対にチェックしましょう。

データのチェックポイント1:今何の話してる?

みんな大好きだし私も大好きなお金の話がタイムラインに流れてくる時に特に注意したいポイント「今何の話してる?」です。

先ほど引用した例では、給与の話をしようとしているのに実質賃金のデータを持ってきている状況でしたね。この辺りの「給与」「年収」「手取り」「所得」が相当面倒なんですよ。

「日本人の年収が下がってる」と言いながら所得のグラフが流れてくることも多いので、以下の情報を覚えておくと便利です。

給与/給料
給与/給料は基本的に税引き前の総額を示す場合が多い。年収XX万円とか、月収XX万円とかはこの給与/給料の話。

年収
年収は給与/給料と同様の数値の切り分けが「年」の場合の話。

月収
月収は給与/給料と同様の数値の切り分けが「月」の場合の話。

所得☆
所得が一番面倒な上、よく使われるのですが、所得≠給与であることは絶対に覚えてください。

「収入」から「必要経費」を引いて残った額が、「所得」です。住民税の計算は「所得」により行います。

引用:東京都北区 「収入」と「所得」の違いは何ですか?

です。一般的なサラリーマンの場合は年間給与から給与所得控除などを引いた後の金額が所得になります。

手取り
振り込まれる金額。手取りの話をする時は「月」で切り分けて話すのが基本。年間手取り金額の話をするならば「手取り年収」と言い直した方が通じる。

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お金のデータは感情を刺激しやすい傾向があるので、お金の話を見た時こそ「ちょっと待てぃ!今何の話ダァ!?」とチェックしてみましょう。

データのチェックポイント2:いつの話してる?

データを見る時、いつの話をしてるかも重要ですよね。

先ほどの婚活女性のパートナーに求める年収変化についての考察で利用したデータを見てみると、

画像3

(参考:厚生労働省:2015年 社会保障・人口問題基本調査

「参考データ作成が2015年って古いな。しかも2010年までしか情報無いじゃん!」となります。それが自然です。

今回は根拠足り得るデータが不足していたので、上記のデータから推測させていただきましたが、本来であれば私の主張にも疑ってかかるくらいがちょうど良いと思います。

なので、最近の話をしている時に持ち出されたデータを見るときは「ちょっと待てぃ!いつの話ダァ!?」とチェックしてみましょう。

データのチェックポイント3:このデータ誰が何のためにまとめたの?

データってまとめるにいたる目的があるんですよね。

私がこの記事を書いている理由は、データを勘違いして怒らなくて良いことに怒ったり、悲しむ必要のないことに悲しんだりしている人が少しでも減れば良いなと思っているからです。

これは個人的な趣味で運用しているnoteなので、仮説検証やエビデンスチェックなどはそこまで必要ないのですが、これを仕事で行うとしたらまた話は異なります。

仕事でこれをしたい場合は「一般データの理解度と幸福度の相関グラフ」みたいなものを作って、この課題が解決されるとどのような利益を得れるのかみたいな仮説を上司やクライアントに証明する必要がありますよね。

例えば、先ほどの「実質賃金指数の推移の国際比較」は全労連が日本の最低賃金をあげることを目的に作ったグラフのようです。

彼らの主張を通すために彼らが作ったグラフであるため、日本は他国と比較すると国民が賃金の低さに疲弊している国であることを証明するためのバイアスがかかっていることを前提に見る必要があります。

確かに数値は客観的なものです。しかし、その数値を資料にする過程で作者の主観が混ざってくるものと言うことも同時に覚えておかなくてはなりません。

なので、極端に何かを落としたり持ち上げたりしているデータをみたときは「ちょっと待てぃ!これは誰が何のために作ったものだ?」と立ち止まってみてください。

データのチェックポイント4:何を基準にしてるの?

データを見るときは基準を明確にする必要があります。先ほどの例でも、ケイ THE ただの雑学おじさん様のツイートに対して

え!このグラフ…日本ダントツで低いじゃないですか!号泣

という勘違いが発生していました。

画像5

参考:実質賃金指数の推移の国際比較

これはあくまで1997年を100としたときの変化量が記載されているだけなので、日本人の収入が低いわけではないんですよね。海外の年収と日本の年収を比較する場合は平均消費支出や物価などと比較するとわかりやすいと思います。

日本国内で「年収」と言っても、

・一流大卒 ITベンチャー勤務 東京都内在中 年収1000万 賃貸 家賃補助無し
・一流大卒 大手メーカー勤務 茨城県北部在中 年収600万 社宅 家賃補助無し
・高卒 地元就職 群馬県南部在中 年収300万 持家

では比較が難しいんです。物価が違えば収入の価値も変わるので、都道府県別最低賃金推移などのデータを見るときは、基準を何とするかを考えた方が良いでしょう。

データのチェックポイント5:データの母集団は?

これはすごい当たり前なのですが、データの母集団は非常に重要です。Twitterアンケートをとってみるとわかりやすいのですが、Twitterアンケートは自分をフォローしている人間が拡散の母集団としているため結果にバイアスがかかり、一般的な主張のエビデンスとしてはどうしても弱くなります。

私は統計学の専門で無いのでサンプルに関する詳しい情報は以下のサイトをご覧ください。

->統計学を使った適切なサンプル数の求め方とは?

とにかく、明らかに偏ってるようなデータを見た場合は母集団を確認しましょう。

世の中を見る視点が少し変わると面白いですね

長くなりましたが、簡単なデータを見るときにちょっと気にして欲しいチェックポイントは以上です。データをよく見てみればそんなに怒るようなことでもなかったり、悲しむ必要がなかったりすることはたくさんあると思います。

私も統計学は未履修で計算も得意な方では無く、データを勘違いする時代がありましたが、意思知的にチェックをすることである程度のデータは勘違いせず読み解けるようになりました。

今回紹介したチェックポイントはそんなに難しいものでは無いけれど、覚えて実践するだけで割といろんなところで役に立つので、コスパの良い知見だと思います。

ちなみに、ファクトチェックの重要性を説いている著書「FACT FULNESS」をおすすめしたいです......大好きな本なんですよ。Amazonリンクを貼るので興味があったら読んでみてください。

最後にもう一度注意ですが、私はケイ THE ただの雑学おじさん様の主張や人格を否定したいわけでも、悪く言いたいわけでもなく、あくまでグラフの使い方について気になった例として引用しているだけなので、絶対にケイ THE ただの雑学おじさん様に否定的な文書を送るなどの行為はしないでください。

6000字程度の長文でしたが、ご拝読ありがとうございました。シェア&スキ&フォローしていただけたらとっても嬉しいです。


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