「大赤字のローカル線はなくなって当然?」採算以外のローカル線の価値を定量化し、最南端のローカル線の活性化に挑む。ソーシャルアクティビストの生き様ドキュメンタリー 中原晋司さん(中原水産)パート2

中原晋司さん(中原水産株式会社 代表取締役) 
聞き手 山田英治(社会の広告社)

〜この記事は上記動画の書き起こしです〜

中原さん)(ローカル線を存続させる)対策としては、まず“鉄道の価値”とは何かというところを、地元と私も含めて押さえないといけないかなと思っています。単なる採算、鉄道の運輸収入の採算だけであれば、どこのローカル線も大赤字ですよね。とっととなくすべしみたいな。それは論理的に正しいと思うのです。

ただ、私がやっていて、例えば指宿枕崎線(いぶすきまくらざきせん)に鉄道が走っていることによって、結構メディアに枕崎が紹介され、(その紹介では)鉄道に乗ってというものがあり、それこそ広告に換算すると、結構な額になるということが分かりました。

それから、その鉄道で来た人がお金を落としていく経済効果など、その地域のためのいろいろな効果もあることから、鉄道は広告塔のような形になります。これを無視して、単に鉄道に乗っている人が少ないという理由で(廃止せよ!で)はなく、こうした効果を含めて地域が支えていくという姿勢があれば、存続ができるのではないかと思ったのですよね。

そのため、逆にその価値が見えないまま地域が支えることもできないため、やはり価値を定量化し、わかった上で地域が支えるのか、支えないのかというところに持っていくところに意味があるのかなと思っています。


【地域総力で公共交通のアイデア出し。住み続けられる町づくりのために】


山田)昨日、イベントに参加させていただきましたが、どういった趣旨でされていたものになるのですか?

中原さん)鹿児島県の指宿や枕崎がある南薩エリアを所轄する南薩地域振興局の事業です。やはり県も危機感を持って公共交通として鉄道をどうするかというところで、地元が支えないと駄目だという仮説を県も持っていらっしゃるみたいなのですね。

それをワークショップという形で4回会議して、地元の鉄道の活性に興味があるような住民の方々に具体的なアイデアを出してもらい、現状を伝えるということを事業としてやっています。その事業の受託・運営を中原水産が任せていただいたということです。

山田)昨日、僕も参加させていただきました。住民の方がいろいろな電車のアイデアを出してワークショップをしていて、すごく盛り上がっていましたよね。

中原さん)今までは、どう住民が関わっていいのか分からないという状態でした。住民も仕事があり、いろいろなことがあります。鉄道会社に対しては、行政と鉄道会社がどうするかという活性化策は出していたのです。しかし、やはり行政の人は商売しているわけではないため、商売している人や地域で普段、鉄道に接する人たちも含めて、どうしていくのかということを地域総力でやらないと、なかなか充実してこないのですよね。

そのため、そういった意味では、ありそうでない会議といいますか。地域住民が主体となり、行政の方とJRの方も次から次へと意見を出してきました。やはり地域住民が真ん中に入ることによって、より(意見が)出てくるのかなというところをすごく感じました。

山田)昨日もそうですよね、JR九州の方と県の方、市の方、そして地域の方。そのメンバーで地域鉄道をどうする?みたいな話というものは面白く、いい会だなと思いますね。

中原さん)やっぱり地域住民一人一人が力を合わせて盛り上げていかないと、たぶん、到底無理ではないかという状況なのですよね。

山田)なかなか地方に行くと、枕崎もきっとそうだと思いますが、車社会で、もう全然電車に乗らないよと。別にそれが廃線してもしなくても関係ないのでは?という方もかなり多いと思うのですが、こちらはどうでしょう?

中原さん)車でいろいろなところに行くのは便利なのですが、私がすごく心配なことは、運転できなくなる、もしくは何かの事情で運転できない人というのはいると思うのです。その人たちにとって住み良い街ではなくなった瞬間に、都会の公共交通が発達するところに、たぶん移住せざるを得ないという状況になっていると思うのですね。

今、例えば車利用で普通にガソリンを入れて運転していますけれども、世界の状況が変わっていって、ガソリンがもしなくなったら、車社会ができないではないですか。そのため、何かそういうものもひっくるめて、町として公共交通が充実しているということは、一つの町の便利さの指標になると思っていて、今ある世の中が当たり前だと思わない方がいいなと思っています。

もちろん車社会を享受しながらも、そうではない、もうちょっとコンパクトな町を作る。CO2を廃止するという問題もありますので。公共交通はクリーンなものが多いため、できるだけ環境にも優しいような世の中にしていくためには、ローカルの場所・田舎の場所でも考えていく必要があるのかなと思っています。

山田)電車に乗れないから電車をなくしてしまいました、そして、バスになりました。今度はバスの運転手が不足して担い手がいないため、大変だということを聞きますよね。減便になって、バスも走らない。タクシーの運転手もいなくなる。相乗りにしますか、など。そのため、何がこの地域にとってベターかということはみんなで話しつつ、残されるものは多様な選択肢を残しておくということですよね。

中原さん)そうだと思います。その鉄道を必ずしも残さなければならないという思いでやっているわけでは実はないのです。鉄道は一つの手段で、広告塔として、私はすごく価値があると思っているのですが、移動手段としては、やはり大量輸送のため、人口が少ない中で、鉄道だけがベストかというとそんなことは全くないのですね。

その町づくりの中で、例えば鉄道をその広告塔として使えるのであれば、観光客を誘致したりして、他のいろいろな移動についてはタクシーやバスがある中で、今後の自動運転やライドシェアもひっくるめて(考える)。技術はどんどん革新していきますので。もしかしたら今、例えば空飛ぶ車などが実用化されようとしていますが、ヘリポートみたいな場所があれば、枕崎から鹿児島までたぶん10分とかそこらで行けるのですよね。

それが安い値段でできるとしたら、枕崎の価値があがるでしょうし。それもひっくるめて、視野を広くして、移動手段というものを地域が意識しておくということはすごく大事かなと思います。

公共交通というのは、移動手段なのですよね。やはり一番根本にあるのは、町をどうするか、町づくりをどうするかという話で、これからどんどん人口も減っていくため、いろいろなインフラを地域の各所に隅々まで行き渡らせることはたぶん無理だと思うのです。そうした中、一度住んだ家に住み続けたいという思いもある中で、町づくりとして最適なものは何かを考えることですね。

枕崎は本当にコンパクトな町であるため、ある程度、市街地に集中させて病院や買い物が充実できれば、歩いていけると思います。ポテンシャルがあるため、それに参加できる人はすればいいのかなと思います。その中で、その町の中の移動手段と、例えば鹿児島市みたいなところとの移動手段というものを主体的に考えていくことが必要なのかなと思っています。


【「大赤字なのにノスタルジーで残すな!」という声も。でも最後に決めるのは地域】


山田)中原さんは今、全国で同じように廃線の危機に陥っているローカル線のいろいろな協議会にも参加されるなどで、意見の共有をされていると思うのですが、当事者の方たちと定期的にお話しされているのですか?

中原さん)そうですね、やっぱり現場のローカル線に行って、そこに関わっている人たちとの話し合いをしたりしています。最近はこうした人同士で、いろいろな連携が始まっていて、サミットのようなものに参加しています。

あと私たちも、南九州の宮崎県や熊本県のローカル線のJRの方たちと一緒に情報交換をオンライン上で始めています。ちょうど人吉の肥薩線での水害の1、2日ほど前にオンラインミーティングをしました。人吉が水害を受けた時にお手伝いをするなど、人的な支援や知恵の共有を始めております。

山田)全国でも廃線はしょうがないかなと地域住民が思う中で、それに対して「いやいや、違う価値がちゃんと地域のローカル線にはあるぞ!」というところで立ち上がられている方がいらっしゃっているということですよね?

中原さん)いると思います。あとは、理論武装みたいなところがまだ発展途上かなと我々も含めて思いますね。やはりどうしても誤解されるのが「こんな大赤字なのにノスタルジーで残すな!」みたいな声は、もうごもっともなのですよ。

しかし、やはりさっき言った広告効果や地域に残す価値というのは、地域が決める話です。例えば、何かを維持することに費用がかかります。それに対してメリットが上回れば、残す価値があるという話なのですが、それを決めるのは各地域なのですよね。

そのため、その地域が判断する材料というものについては、まだまだ研究の余地があるかなと思っています。指宿枕崎線で今回のワークショップでも、いろいろな効果や価値をなるべく文字や数字で出すようにしました。それをどんどんブラッシュアップしていって、地域がいろいろ判断するための材料を作っていきたいなと思っていますね。


【指宿枕崎線と地域の価値を最大化するためのキーワード 「マイレール意識」】


山田)今、指宿枕崎線は残す価値があるということで、中原さんは活動されていますが、それは具体的にどういった価値になるのでしょうか?先ほど、観光的な価値という話がありましたが、そういったところですか?

中原さん)やっぱり観光的な価値はあるなと思っています。例えば特に景色やグルメ、おもてなしみたいなもので、もうちょっと単価の高い商品・サービスを提供できると思っております。本当に少ない人数でやった場合でも、単価が高くて、それでちゃんと運営が回るみたいな状況に持っていければ、それ自体が観光価値のような事業にもなりますし、その地域でそれだけ高額なサービスをしているという価値が上がることにもなります。

そのため、そこをまずちょっと増やしていきたいと思います。やっぱり「貨物」がキーワードかなと思っておりまして。今の指宿枕崎線というのは、実は荷物を乗せるに耐え得るような線路の基盤ではないのですよね。

そこは理解しているのですが、これだけトラック運転手不足やいろいろな問題が起こってきて、かつ、どうしても明日中に届けなければいけないというわけではないのなら、鉄道をちゃんと使って低コストに届けるサービスのようなものを作り込んでいければ、まだまだ鉄道というのは、いろいろなものを乗せられる余地はあると思っています。

何かそのあたりもひっくるめて、価値を最大化できるようなアクションを考えていくことが大事かなと思っています。

山田)あと昨日、イベントのディスカッションの中で子供たち、高校生たちを巻き込んでいきたいというお話をされていたと思うのですが、そういったことを今後考えられているのですか?主なお客さんは通学で使う高校生ですものね。

中原さん)この地域の沿線に水産高校や機械系高校、農業高校などがいろいろあります。今後、観光的な要素があることや、ものを売るなどの企画をすることが、この地域の人たちが生き残っていくための一つの大事な産業になると思っています。それを高校のカリキュラムに入れるなどの企画やプロジェクトの立ち上げを考えています。

例えば、高校生が自ら企画して、そのおもてなしまでやるということをやれば、結構いい経験になると思いますし、教育コンテンツとして鉄道が使えるということにもなるため、そこはぜひ積極的にやっていきたいなと思っています。

山田)ありがとうございます。ヨーロッパだと上下分離方式、つまり鉄道の保守の部分は、行政、国が全部管理しますから、あとの上は民間企業で持ってください、ということが一般的だと聞いたことがあるのですが、それは合っていますか?

中原さん)それは合っていますね。しかも、その上の方は結構自由に鉄道会社が乗り入れられることになっています。例えば、JR九州がJR西日本に走らせることができるなどですね。それで競争も起きているということがあります。それから国が、例えば、フランスですと「交通権」があります。

フランスは農業国であるため、地域に住んでもらわないと困るのですよね。そのため、例えばスーパーや学校、公共インフラに対しては、150円といった値段で行ける権利が認められたりしています。そのあたりは町が真剣に考えなければいけないということで、(交通の)整備をしたり、助成されたりしますね。

山田)「交通権」ですか?人権のような感じで俺は移動する権利がある、ということですね。そのためには、国がちゃんとサポートしていかなければいけない。鉄道の線路そのものは道と同じであるため、それは国が管理する。最低限のインフラという意識がちゃんとあるということですね。交通はインフラであり、それが人々の権利であるという考え方があると。

中原さん)その他、その事例でいくと、イギリスでは保存鉄道というのが100個くらいあります。結局、国も支えながら、でも運営はちゃんと給料のある職員とボランティアによって支えられていて、その給料をもらっている職員は結構ファイナンス(資金調達や運用など)に長けているのです。

例えば、クラウドファンディングだけではなく、その遺産相続からもお金を引っ張ってきて、ちゃんと(ファイナンスで)稼ぎながら、ボランティアもうまく活用している。結構、日本のローカル線の支え手にはボランティアが多いのですが、有給職員がファイナンスしているなどということはないですよね。

そのため、お金の集め方とかそういうこともあると思うのですよね、結構ね。ですので、そのあたりが発達してくると生き残れるものは生き残れるのではないかと思います。何か価値の見える化という観点では、広告効果のような定量化できるものがありますが、自分達の「マイレール意識」は(定量化が)なかなか難しいですよね?

山田)「マイレール意識」ですか。

中原さん)自分たちの鉄道だからやはり大好き、そのため掃除もする、草刈りもするといったような。そうした意識も活用していかないと厳しいと思うのですよね。それだけに頼っているとダメですが、やはり取り入れていかなければいけないということで、そのバランスをうまくやれるといいかなと思います。

山田)「マイレール意識」、なるほど。「マイレール意識」を持つ人がそれぞれのローカル線の中で増えていけば、鉄道も守られる可能性が上がってくるという感じですか。

中原さん)枕崎は結構クラファン的な意識が実は結構あリます。例えば、みなと祭りにあがる3尺玉という花火が何百万円もするのですが、全部市民の寄付によってなされているのですよね。枕崎のため、枕崎を盛り上げるためだったらお金を出すのですよね。この駅舎もそうです、市民の寄付でできているので。

山田)そうなのですか。

中原さん)そのため、“枕崎プライド”みたいなものはすごくあるのですよ。それをちょっと鉄道に振り分けていただければ。やはり鉄道で最南端とは(なかなか)名乗れませんし、稚内からユーチューバーがわざわざ終点のために枕崎に来るのですよ。もうそこまで、ネットの効果まで入れたら、とてつもない経済効果だと思うのです。つまり、そこを理解すれば、鉄道を残したいという気持ちが高まるはずなのですよ。

山田)枕崎の“ポテンシャル力”というのを知らなかったですよね。お茶が実はすごいぞとか、あとカツオの売り上げが日本で・・・

中原さん)カツオの水揚げが2位で、かつお節は日本一。黒豚の一番はじめのブランド豚は枕崎です。

山田)鶏刺し地鶏や焼酎の酒造メーカー、大手酒造メーカーもあり、それを鉄道に持ってくれば、絶対にすごい観光列車はできて、その観光客も誘致できるのではないかと思います。

中原さん)ワイントレインというのがアメリカのカリフォルニア州のナパバレーというところにあります。ゆっくりブドウ畑の横を走って、列車の車内では美味しいワインと食事ができて、かつ駅のすぐ隣には醸造所があって、そこにも行けるという感じで、それって町づくりですよね。例えば今、指宿枕崎線の沿線に芋畑やお茶畑はそれほど見えないのですが、あえて植えるという感じにするなど。

また、指宿枕崎線沿線で駅からすぐ行ける蔵もあるのです。ちょっと遠くても、アクセスをちゃんと整備することです。枕崎の強みというのは、食べ物であれば、どこでも食べられるのですが、作っている現場というのは、現場でしかできないため、そこにいかに来ていただくか、という点が大切だと思います。

山田)ちょっと楽しみですね。中原さん、今後、1、2年の間でなにか予定されていることなどありますか?

中原さん)予定としては、イベント列車を実現化したいなというところで、私は、“焼酎列車”というのを提案しています。それを何らかの形で、実際に走らせることをしたいなという感じですね。

山田)それは鹿児島中央からもう飲み始めるということですか?

中原さん)鹿児島中央からか、指宿からか決めなければいけないのですが、少なくとも3時間飲んだとしても全然いけるような内容にしていきたいと思います。

山田)それで、そのつまみにはあれですか。枕崎の名物がどんどんつまみで投入されると。

中原さん)そうですね。かつおやお芋など、いろいろなお漬物や沿線の枕崎近辺のものを出していければいいかなと思います。

山田)最後のシメは、かつお節の出汁ですか?

中原さん)出汁のドリンクも出したいと思っています。


【ローカル線を考えることで、より人間らしい、より良い生き方の選択肢が生まれる】


中原さん)私は、ローカル線のあり方について考えることはやはり、社会問題として考えることでもあると思っています。日本人は結局、経済的な豊かさを求めて都市部に出て行ったわけですよね。でも(都市部は)環境問題があるなどの点から、日本人が今後、小都市や地方で暮らしていくというのは、一つの選択肢としてあります。

環境にいいことをしているという点では、地方の枕崎はかつお節だって全部リサイクルしていますし。何かいいことというのは、結構地方にチャンスがあって、一人間として関わるのであれば、たぶん地方はそういうことができると思うのですよね。それを世の中に発信していくべきだと私は思っているのです。

ただ、その一方で、経済的に過疎化が進んでしまったがために起こっている、特に公共交通の問題を解決しないと、やはり都市部に流出するような形になります。今後、日本人が多様な生き方をしていくにあたって(地方交通のあり方について考えることは)一つの大事な問題だと思っています。それを解決することで、日本人がより人間らしい、より良い生き方をするという選択肢が生まれるかどうかの瀬戸際だと思っています。

残念ながら、地方にはこういうことを考えられる人が少ないのですよね。ローカル線でもやはり何か束になってまとめて考えるなどしていかないと、なかなかその活動を維持するだけでも大変なので。もう衰退しかかっている瀬戸際ですので、こうやって取り上げていただくことは非常にありがたいことですし、(地域交通のあり方について考える)人たちを増やしていかないといけないと思います。


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中原晋司さんインタビュー動画 パート1はこちらです。
https://x.gd/pYSlf

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