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【前編】お花と植物、自然のモノを幸せに変える仕事対談。ふたりのクリエイターの目線に映る景色とは?

ー 本企画では、Life Green Planner 森田 紗都姫(もりた さつき)さん。フラワースタイリスト 大貫清香(おおぬき さやか)さんのお二人の対談をお届けします。「花・植物を扱うお仕事」という共通点と、一方でそれぞれ「企画をするプランナー」「コーディネートするスタイリスト」と異なる肩書をお持ちです。それぞれの仕事の違いやその芯にある考え方についてお伺いしました。

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森田 紗都姫(もりた さつき)
Life Green planner
ガーデンデザイナー/グリーンコーディネーター
植物と人をつなぎ、双方にとってより良い環境づくりをすることを目標に、
商業施設や公共スペース、個人邸などの室内外のグリーンをプランニング。
ガーデンデザインスクールでの講師活動のほかイベント企画、商品企画、書籍の制作などグリーンにまつわる様々な取り組みを行う。
https://www.studio-yamamori.com/

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大貫清香(おおぬき さやか)
flower stylist
2013年にle coeulを設立。ウエディングのflower stylingを始め、日常生活のお花の提案広告のアートディレクション、スタイリングなど活動は多岐に渡る。

― お二人は「お花と植物」と、一見すると同じ業界のお仕事のイメージもありつつ、それぞれ「プランニング」「コーディネート」と、主とする領域が異なっております。本日はその領域の違いやお仕事への考え方をお伺いしたいと思います。それではまず、お二人の仕事の内容や領域について教えていただけますでしょうか?

大貫 結婚式の会場装花のデザインや花嫁様のブーケ制作など、コーディネーターとしてお仕事をさせていただいたり、広告のお仕事ではコーディネートに限らず、アートディレクターとしてモデルさんが着る衣装やメイク、お花を含めた小物のスタイリングまでトータルでディレクションさせていただくこともあります。基本的には、お客様とのお打ち合わせからお花選び、制作現場のセッティングまでを全て担当しています。最近では、化粧品の広告制作スタイリングをさせていただいたり、幅広くお仕事をしています。式場空間や広告写真の中にある世界観をどう見せるか、を考えて形にするお仕事ですね。

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森田 幅広く担当されているんですね!お花の業界でお仕事をされてどれくらいになるんですか?

大貫 15年になります。フリーランスとして1人でやり始めてからは7年目ですね。森田さんはどういったお仕事をされているんですか?

森田 私は植物を手段に、個人住宅や店舗、商業施設、公共のスペースなどの外構デザインのプラニングや、インドアグリーンのコーディネートなどのお仕事を中心にさせていただいています。それ以外には、植物関連のイベントや商品開発のプランニング、書籍の制作など、植物にまつわる色々なことに取り組んでいるような形です。業界歴では、大貫さんに比べたらまだまだですが、現在6年になります。

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小さい頃からの「好き」を諦め切れない、2人に共通するキャリアチェンジへの決断。

森田 ちなみに大貫さんは、どのようなきっかけで今のお仕事に携わるようになったんですか?

大貫 実は初めからこの業界で働いていたわけではなく、元々はOLをしていたんですよ。小さい時からお花が大好きで、習いに行ったりもしていたんですけど、いざ仕事にしてしまうと逆に嫌いになっちゃうかもしれないなぁ…と考えていて、ずっと選択肢からは外していたんです。けれど自分の結婚式の時に、空間や結婚式自体にものすごく感動して。それをきっかけに「やっぱりお花の仕事がしたい!」と決心がついて、OLを辞めてこの世界に飛び込んだんです。

森田 へぇー!一気に踏み込んだんですね!しかもご結婚をされた後の決断ってすごいです。

大貫 そうなんです。当時は結婚したばかりなのに、生活リズムも大きく変わってしまって。土日が仕事に、平日が休みになったり、帰りも急に遅くなったりと主人にはすごく迷惑をかけました…。ただ、すごくサポートもしてくれて本当にありがたかったです。OLの仕事にモヤモヤとしていたこともあり、あの時、思い切って行動ができてよかったなと思いますね。森田さんはどういったきっかけで?

森田 私も小さい頃からお花や植物が大好きで。ディズニーランドに行くよりも大きい園芸センターに行く方が、テンションの上がる子でした(笑)すごく探究心があったというわけではなく、ただ見るのがすごく楽しかったんです。当時ダイソーで100円の観葉植物が売られ始めた時も、お母さんに「ダイソーに連れて行って!」とたくさんせがんでいた記憶があります(笑)

大貫 可愛い(笑)

森田 ただ、大貫さんと同じく、お花や植物を仕事に出来るような感覚は全く無くて、出版社に就職したんです。仕事は充実していたんですけど、ふと「これからもこの仕事をずっと続けていけるかな?もしこの仕事をパタっと辞めてしまったとき、私には何が残るのかな?」と考えるタイミングがあって。だったら、大好きな植物の選び方やお手入れの仕方とか、将来仕事を辞めたとしても自分の知識として残るようなことをする方が、これからの私自身の暮らしもより楽しくなるんじゃないかな!と思い。それがきっかけで転職をしました。

大貫 お互い「好き」な気持ちが、当時の状況を飛び越えていった感じですね!

森田 そうですね。当時は大きな決断でしたけど、あの時思い切って踏み出してよかったなと思います。

「好き」なことをするためには、しんどい思いや大変なことが付き物!?

― お二人とも全く別業界から一気に今の世界に飛び込んだんですね!?それぞれどういったプロセスを経て、今の働き方にたどり着いたんですか?

大貫 最初はお花なんか一切触らせてもらえなくて、お店の掃き掃除であったりお花が入っていた段ボールを永遠につぶし続けるとか、そういった雑用仕事ばかりでしたね。それで、いざ結婚式のお花の部署に入ることができたんですけど、月曜日から水曜日は、ガラスの花器をひたすら磨くとか、キャンドルをひたすら詰めるお仕事。木曜日金曜日は、週末に向けてお花を作っていくんですけど、私は先輩たちがお花を作るのを横目で見ながら、ひたすら掃き掃除を、という感じでした。そんな中で時々、運良くお花を少し触らせてもらえるタイミングがあって、そういうのを続けていると、ある日人手が足りないタイミングで案件のお花を手伝わせてもらうことができたり。

森田 えー!シビアな環境ですね…。

大貫 そうなんです。掃除仕事をしながら、「こういう風にお花を挿したら綺麗に見えるんだ」とか「そういう手順で作るんだ」とか、先輩の仕事を盗み見して、それで見様見真似で自分でやってみて。そういった積み重ねを繰り返す中で、携われるお仕事の規模が徐々に大きくなっていったり、あとは年に何回かテスト研修のようなものがあって、それに合格していくと現場でも認めてもらえるようになったりと。結婚式で言うと、ブーケ作りが1番の砦みたいなところがあるんですね。なので、最終的にお客様の担当について、お打ち合わせ、デザイン提案、ブーケ制作までをできることがゴールで、そこに向かって頑張っていく、というような流れでした。

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森田 過酷ですね…。

大貫 めちゃくちゃ過酷でしたね(笑)体育会系な環境でした。

森田 お花屋さんは華やかな業界だと思っていたので驚きました…。美容師の下積み時代のようで、結構カルチャーショックを受けました…。

大貫 決して華やかなことばかりじゃないんですよ。結婚式のお仕事も表舞台には立たず裏方ですしね。結婚式当日もずっと大きなホテルの暗い裏導線を大きな荷物を持って歩き続けていますからね(笑)森田さんのお仕事はどういった過程があったんですか?

森田 そうですね、私も本当に未経験で、何から始めたらいいのか分からないところからスタートしました。紆余曲折あり、東京エリアのグリーンのメンテナンススタッフとして横浜の会社に転職したんですけれど、そこが結構スパルタな会社でして…。

大貫 森田さんも過酷な環境が…!

森田 そうなんです(笑)これが大貫さんとはまた違うタイプの過酷さで。入社2日目でいきなり、百貨店のお花屋さんの店長に1ヶ月間限定でなり。

大貫 いきなりですか!?

森田 はい…。知識も業務理解もままならない状態で、人生で初めての市場仕入れや店舗運営業務を経験して。その1ヶ月後には、天王洲アイル駅周辺一帯のランドスケープ担当になり…。訳も分からないまま、そこで有名建築士さんの設計事務所の方もいらっしゃる会議に出るようになって。もちろん建築の仕事経験も知識も無いので、「パーゴラ」と言われてもまずパーゴラ自体が何のことを言っているのかわからない、みたいな状況でした。そこからランドスケープデザインのことも本で勉強をし始め、働きながら学校にも通い始めて、なんとかギリギリでやっていく、という感じで。右も左も分からないままOJT(*)で周りの環境がめまぐるしく変わり、怒涛の日々が始まりましたね。

OJT:On-the-Job Training(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)の略称。職場で実務をさせることで行う従業員の職業教育のこと。企業内で行われるトレーニング手法、企業内教育手法の一種。

大貫 なるほど…。私とは逆ですね、いきなり現場で始まって叩き上げのような形で。

森田 そうですね。会社の規模や組織形態によって仕組みも異なるでしょうけど、私の場合は、小さい組織だったこともあり、最初から大きな責任を背負った状態の業務ばかりでした。もうストレスでやばい時期とか沢山ありましたね…。

大貫 分かります、私も疲れ果てて泣きながら帰ったりしていました…。今となっては懐かしいですけど、当時は辛かったですね。「好き」なことを仕事に選んだつもりが、こんなに苦しい思いをするなんて、と(笑)

森田 やりたいことをするためには、しんどい思いや大変なことも付き物なんだな、乗り越えていかないといけないんだなと、思いますね。

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枠に収まらない「肩書迷子」

― お二人ともベクトルは違えど、同じ叩き上げのような形で過酷な状況を乗り越えて今があるんですね。華やかなイメージがあったのでかなり衝撃を受けました。今回お話をお伺いする上で、ご自身の仕事領域についてアンケートを取らせていただきまして、大貫さんは「コーディネート」、森田さんは「プランニング」だと回答をいただきました。お二人がどういった背景や考え方の元にこの答えを導いたのか、お聞きしたいです。

大貫 私が自分自身の仕事領域を「コーディネート」と言ったのは、結婚式全体に対してバランスをとってデザインしていく仕事だと思っているからです。例えば結婚式における「花嫁さん」の場合、花嫁さんという対象の人に対して「どういったものが似合うか」を考えるのはもちろんのこと、さらに全体を俯瞰して見た時に、会場や演出があって、ドレスやメイクもある中で、お花はほんの一部にしか過ぎないので、そこに対してのどういう見せ方をすれば対象となる「花嫁さん」が綺麗に見えるのかを考えて、実際に手を動かしていくんです。私から見るとプランニングというお仕事は、コーディネートの要素も含め、0から物事を組み立てていく印象があります。なので、私は1を100にしていくコーディネートなのかなと考えています。

森田 その話はすごく納得できます。私はプランニングが自身の仕事領域かなと思いつつも、つい最近まで「肩書迷子」になっていまして…。

― 肩書迷子!?

森田 はい(笑)色々な領域のお仕事を経験していく中で、自分のことを何と名乗るべきなんだろう?と思うことが増えてきたんです。デザイナーとプランナーとコーディネーター、この3つで悩むことが多く。その中で、まず自分はデザイナーではないなと思う理由として、デザイナーの方ってヒアリングした相手がいて、例え情報や素材が無かったとしても生み出すことができる人なのかな、と思っていて。それが本当のクリエイティブだと思う一方で、私には相手がいて、その相手の事業に対する課題が明確にある中で、それを解決するモノコトを提案する仕事をしているイメージなんです。本当の0から何かを生み出すことや創造することは出来ていないので、私はプランナーだと思ったんですよね。

大貫 うんうん、なるほど。

森田 コーディネーターではないと思う理由としては、先ほど大貫さんがおっしゃったように、コーディネーターはお客様の要望をヒアリングした上で、最後の「自分の手で作り上げる」ことができるイメージがあります。それで言うと私は、決して自分の手で仕上げていくプロフェッショナルではないですし、どちらかと言うと企画の座組みを考えて、どんな人と一緒に作り上げていけば実現できるのかを考えることが多く、それが一番好きだったりもするので、であればプラニングが仕事なんだと思います。

大貫 ただ、領域は違えど共通点や頷けるところはすごくありますよね。

森田 そうですよね。自分自身のことを語る上で、肩書きだけでは収まらないことって本当に多いですよね。

大貫 そうなんですよ。ちなみに私も実は肩書迷子で、名刺も2枚作ることにしましたもん(笑)実は全くお花を使わないお仕事もあるので、そっちの場合はお花の肩書きを辞めようと思って。今は「フラワースタイリスト」と「スタイリスト」の2つの肩書を持つことにしています。

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コーディネートもプランニングも、大切なことは共通して「相手の本当の声を聞くこと」だ。

― 肩書きで仕事領域を測られることも少なくない時代の中で、自分自身の領域を言語化することはやはり簡単ではありませんね。お二人が各領域をどういった視点で解釈されているのかがよく分かりました。その上で、それぞれのお仕事における、軸やポリシー、マイルールのようなものはありますか?「プランニング」も「コーディネート」も、あらゆる業界で共通する仕事領域だからこそ、業界問わず通ずる価値観がありそうに思います。

大貫 私は、仕事と考えすぎないことを大切にしていますね。やはり結婚式って、人の人生においてすごく大切なものなので、仕事として割り切ってしまうと、それだけで処理できないことがすごく沢山あるんですよ。特に感情的なものだったり。新郎新婦のお二人の気持ちに触れるものだからこそですね。あとは慣れないこと。仕事をこなしてしまわないようにしています。

森田 なるほど。

大貫 以前に所属していた会社では、こなす部分がどうしても出てきてしまっていて。朝から晩の中で、どれだけ結婚式を効率的に事故なく完了させることができるか、が目標になっていたというか、「一定以上の満足感を提供しつつ、いかに無事にさばいていくか」という空気感もあり、それを分かりつつも疑問に思うところがありました。だから独立してからは、仕事として割り切らずに一人一人と向き合っていこうと。結婚式のスタイルもそこに込める想いも皆さんもちろん違うので、1組ごとに丁寧に、初めてやる仕事の時のように心を込めて、注意を払って、という心構えを大切にしています。すごく疲れている時はこうしちゃえばいいや!と思いそうになることもゼロじゃないですけど、そういう時は自分に言い聞かせて初心に戻るようにしていますね。

森田 背筋が伸びますね。

大貫 いえいえ。森田さんはいかがですか?

森田 私は具体的に2つあります。1つは、最近、肩書として「Life Green Planner(ライフグリーンプランナー)」と言うようにしているんですけど、植物側と人側の双方の環境を良くしていきたいという視点を常に持つようにしています。植物を用いて空間づくりの仕事をしていく中で、それこそ大貫さんのおっしゃった慣れじゃないですけど、植物側のことをあんまり考えられていないかもしれないと思い始めまして。例えば、レンタルグリーンや、イベントで使用したグリーンたちは、その期間が終わるとすぐ撤去して捨ててしまうことが、この業界ではよくあるじゃないですか?

大貫 そうですね。その時を彩る役目で使われることが多いですからね。

森田 はい。そういう点から考え方を見直していかなくては、と去年から考えるようになり、双方の環境を良くするための選択肢をどうすれば形にできるか模索しています。2つ目は、「聞くことと思いやり」をすごく重要視しています。「私のことをすごく理解してくれているな」とお客様に感じてもらえるように。そのためには、相手の言葉や心の声を聞く努力がとても重要で、さらにそこから生まれた企画をどのように相手に伝えるかを考える必要があります。なので、企画のコンセプトを作る際には、相手の気持ちを理解した上で、私の想いを届けるラブレターを書くつもりで想像力を働かせることを大切にしています。

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大貫 「ラブレターを書くつもりで」っていう考え方も表現もとても素敵ですし、森田さんのお仕事への姿勢がそれだけでも見えてきますね!

森田 ありがとうございます。実際、プランニングをする時間よりも、相手のお話を聞く時間の方が圧倒的に長いんですよね。このプランがあることで、相手の暮らしにどれくらいの変化をお届けすることができるかを考え抜くためには、ある程度の情報が見えている状態でないと分からないことが沢山あるじゃないですか。
例えば、「庭に人工芝を入れて虫が来ない木を一本植えてください」と言われても、それが本当の望みなのか、現実的なところで考えてそうおっしゃっているのか、深掘りをしなくては分からないと。いざお話を聞いてみると、本当は共働きで忙しく余裕がないから、芝のメンテナンスができる自信が無いことや、理想は子どもたちと菜園を作って、育てた野菜を一緒に食べたいと思っていることが見えてきたりするんですね。お客様の中で選択肢を狭めてしまうことがとてもあるので、だからこそ、相手が目指している理想の暮らしや在り方が理解できると、新しい解決方法をご提案できたりするんです。もちろんご予算や収支のことも考えつつですが、メンテナンスをローにした状態でも成立する植物やお野菜の品種をご提案しながら、一緒に形にできることを考えていきます。あくまでデザインもプランニングも手段なので、「聞く」というところに重きを置いて「あなたの望みはこれですよね?」とラブレターのつもりでお伝えしたらとても響いてくれたり。そういった瞬間がすごく嬉しいですね。

大貫 相手の本当の声を聞く、というのはとても共感できます。私も仕事をする上で、重要視している部分ですね。それこそ、昨今のコロナ禍においては、結婚式をやむを得ず延期や中止にする新郎新婦も多く、その中で色々な葛藤や悲しみがあって、そんなご本人の思いも含めてお話を聞くことで、私のお仕事に対する姿勢や考え方も変わってきたような気がしています。

森田 そのお話すごく聞きたいです!

この続きは、近日公開の【後編】記事へ。大貫さん、森田さんのよりパーソナルな仕事観や業界の課題とこれからについて、より深いお話へと続きます。