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【後編】お花と植物、自然のモノを幸せに変える仕事対談。ふたりのクリエイターの目線に映る景色とは?

こちらは対談の【後編】記事です。【前編】記事はこちらからご覧ください。

ー 本企画では、Life Green Planner 森田 紗都姫(もりた さつき)さん。フラワースタイリスト 大貫清香(おおぬき さやか)さんのお二人の対談をお届けします。「花・植物を扱うお仕事」という共通点と、一方でそれぞれ「企画をするプランナー」「コーディネートするスタイリスト」と異なる肩書をお持ちです。前編に引き続き、それぞれの仕事の違いやその芯にある考え方についてお伺いしました。

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森田 紗都姫(もりた さつき)
Life Green planner
ガーデンデザイナー/グリーンコーディネーター
植物と人をつなぎ、双方にとってより良い環境づくりをすることを目標に、
商業施設や公共スペース、個人邸などの室内外のグリーンをプランニング。
ガーデンデザインスクールでの講師活動のほかイベント企画、商品企画、書籍の制作などグリーンにまつわる様々な取り組みを行う。
https://www.studio-yamamori.com/

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大貫清香(おおぬき さやか)
flower stylist
2013年にle coeulを設立。ウエディングのflower stylingを始め、日常生活のお花の提案広告のアートディレクション、スタイリングなど活動は多岐に渡る。
https://www.le-coeul.com/

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寄り添うことで、カタチになる。

大貫 昨年お手伝いした結婚式の話で、当初は2020年3月に挙式開催予定だったんです。それがコロナウィルスの影響で3月から8月に延期になり、それがまた延期となって最終的に11月下旬に。その間も花嫁さんとずっと連絡を取り合っていたんですね。季節を跨いだこともあって、春に持ちたいブーケと秋に持ちたいブーケももちろん違ってくるし、半年以上も間が空くことで気持ちもだんだん変わってきたり。ビジネスライクでお付き合いするのであれば、打ち合わせの回数もコンパクトにして、なるべく事務的な工数も減らしたいと考えるじゃないですか。

森田 うんうん。

大貫 けれど、花嫁さんの気持ちを考えると「絶対ここも合わせて変更したいだろうな」とか、「本当はプランを変えたいけど言えないんじゃないかな」とか。なので、相手の本当の気持ちを探るためにも、お打ち合わせのお誘いをしたんですね。すると、お打ち合わせの最中に、その花嫁さんが泣いてしまって。聞くと、何度も式が延期になる中で、スケジュール調整をしてくれている親戚や友達、準備手配をしてくれている業者さんに対して謝り続けていたらしいんです。

森田 なるほど…。実は辛い思いを抱えられていたんですね…。

大貫 本来結婚式ってすごく幸せなもので、準備も楽しいはずのものなのに、どうしようもない状況の中で、それでも謝らなきゃいけないって辛いじゃないですか。だからお話や気持ちを「聞く」、例えそれだけだったとしても花嫁さんにとって救われる部分があったり、気持ちを分け合える相手になることってすごく重要だと思うんです。本来の私の仕事はお花のことだけだとしても、メンタルに寄り添ってあげないと、って。
コロナウイルスのことに限らず、結婚式の準備ってご両親の反対があったり、旦那さんと喧嘩したり、色々あるんですよ。「ドレスはこれに決めようと思うんですけど、大貫さんはどう思いますか?」とか、「この演出ってどうするのが良いですか?」とか。新郎新婦からすれば全てが人生に一度の大切な決断なので、お花以外のことでもしっかり耳を傾けて、気持ちを汲み取りながら意見をお伝えしたり。ビジネスだけで考えれば工数外のことなのかもしれないけれど、そういったことが1つのチームとしての信頼関係に繋がって、最終的に素晴らしい式を迎えるためのお手伝いになるのかなと思っています。

森田 大貫さんのお仕事への姿勢がすごく伺えます。その人のその時しかない時間に寄り添う姿勢に背筋が伸びる思いです。

大貫 もちろんこういったケースばかりではないですけどね。お仕事がお忙しい方であれば、一回だけお打ち合わせをして、次に会うのは結婚式当日で!という方もいらっしゃいますし(笑)

森田 相手にとっての一番良い形で寄り添い方を変えながらお仕事されてるんですね。

大貫 そうですね、それが本当に寄り添えているかどうかは最中には正直分からないんですけど、私のできる限り、といつも大事にしている考え方です。

森田 素敵です。お聞きしていて、大貫さんにお仕事を頼みたくなる人たちの気持ちがよく分かります。

大貫 嬉しいです、ありがとうござます。

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生きているからこそ、感じ取れるエネルギーがある。

― お二人のお花や植物を通じた仕事観をお伺いしていると、やはり相手の気持ちにどう影響を届けることができるか、人生のワンシーンにどのような価値を添えていくか、という根底の考え方に深く共通するものを感じますね。ここで、もう一つお伺いしたいことがあります。造花などの人工物も選択肢として多く取り扱われることが世の中ではあるかと思います。お二人のように生物(なまもの)を扱われている方の目線で、人工物と生物(なまもの)の違いについて、どういった考えがあるのかお聞きしたいです。いかがでしょうか?

大貫 広告撮影の現場などで、実際に造花が扱われていることはもちろんあります。色覚上では生のお花も造花もそこまで違いが無かったり、むしろ造花の方が発色が良い場合もあったり。だからこそ「写真上、綺麗に見えるから造花でも全然いい。」という考えを持っている方も少なくありません。

森田 価格でみても造花の方が予算もコンパクトに収まることの方が多いですし、作り物なので時間経過や日光の影響も受けませんもんね。その合理性は理解できるんですけど…。

大貫 そうなんですよね。それこそ昨今、結婚式は挙げず、フォトウェディングでお写真だけを残す方も増えていて。そうするとお花の演出も写真の仕上がりに大きな影響を与えるのでブーケの存在も重要なんですが、意外とそこにこだわり持たれている方は多くない印象を持っています。造花やドライフラワーのレンタルブーケを持たれる方が圧倒的に多いんですよね。もちろんお写真としてはとても素敵な仕上がりになるんですけど、個人としてはそこに違和感をやはり感じていて。
「ビジネス視点で考えたら造花やドライの物にも手を出した方がいいのかな」とか色々葛藤もあって。でも、そうじゃないよなとか、、それぞれの良さはあるけれどやっぱり私は生花の良さを伝えていきたいと思っています。

森田 私もやっぱり”生きている植物”が好きですね。例え見た目上は一緒かもしれないけれど、生きているからこそ、その空間に流れるエネルギーや空気があると思うんです。それは写真や映像で切り取ったとしても、必ず残るものだと感じています。造花の持つ「変わらないこと」の良さも理解はしつつ、それでも生きているからこその「時間とともに生まれる変化」に感情が動いたり、見る度に何かを感じ取ったりするのだと思うんですよね。

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大貫 とても共感します。いずれ枯れるからこそ、存在感や美しさを際立って感じられるのかなと感じたりもします。それに「お花の元気が無いな、水が無くなったのかな?日照時間が足りていないのかな?」とか、ふとした時に植物の変化に目を向けることや時間を費やすことが、気持ちの余裕や心の豊かさにも繋がるんだろうなと思います。

森田 もう、その通りです!私の個人的な意見ですけど、毎日の生活の中でお花を愛でたり植物に水をあげたりする時間を大切にしている方って、豊かで魅力的な方が多い印象があります。それに実は、コロナ禍になってから園芸センターの売り上げが過去最高を記録していたりもするんです。物理的に時間ができたからなのか、もしくはお家でできることが限られている中で、潜在的な欲求としてでたものなのか。それでもお花や植物を購入する方が増えたことは事実ですし、とても嬉しかったことでもあります。だからこそ「花や植物を愛でる」という習慣のハードルをもっともっと下げられるように、発信をしていけたらいいなと思っているんです。

大貫 ペットとはまた違う、ふわっとした優しい気持ちになれますよね。植物を触ったり香りを嗅いでみたり、みずみずしさを感じたり。向こうが何か答えてくれるわけでもないし、しゃべれるわけでもないけれども。言語化し難い「良さ」を感じますよね。

森田 実際に、「植物があると、なんかいいよね」っていうのは、共感でもあり、植物業界の一つの課題でもあると感じていて。これを明確に伝えられることで、新たに植物を楽しむことにトライできる人が増えてくれると思っています。最近ではエビデンスとして、「植物に触れているとストレスを感じた時に分泌される物質量が減る」という研究結果が出ていたり、医学的効果が確認されることも増えている印象です。そういった視点を仕事の中に取り入れていくことも、私のミッションだと感じていますね。

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大貫 色々な角度から、ハードルを下げる提案を届けていかないといけないですよね。ワークショップで実際にお花を一緒に触ってみたり、ケアの仕方を学んでみたり。

森田 そうですね。育てて食べてみたり、植物をアクセサリーにクラフトしてみたり。あとは「オフィスの植栽にあったあのお花綺麗だったな」とか「こんな花言葉があるんだ、プレゼントにピッタリだ!」とか。そうして植物にふれる時間や経験が、植物のある生活へのハードルを少しずつ下げてくれるんだと思います。生きている植物の力を信じているからこそ、そういった機会をたくさん提案できるようになりたいんですよね。

大貫 選択肢があれば、相手の価値観や好み、条件や状況に応じて、楽しみ方や取り入れやすいステップもご提示できますし、1人でも多くの方に植物のもつ「良さ」を実感していただきたいですね。

森田 大貫さんのおっしゃられていた「寄り添う」姿勢ですね。選択肢があるからこそ、寄り添える機会も増えるのではないかなと思います。私たち自身が植物から感じ取っているもの、与えてもらっているものを、みなさんにもお届けできるよう、これからも頑張りたいと思います。

― ありがとうございました。お仕事のお話から、植物に対するお考えまで、たくさんお話をお伺いしました。相手に「寄り添う」という価値観の一つの答えをいただけたのではないか、と感じております。また、この対談をきっかけに、お花や植物への興味が私自身より湧きました。前編と後編をお楽しみいただきました読者の皆様にも、何か新しいヒントやきっかけがお届けできれば幸いです。