創作『かざぐるま』[第14話]

[第14話]颯太

 
 春稀へ。
 
 これを渡す頃には、文字も読めるくらい回復していると祈って、書きます。もしも…もう読めないとしても、春稀に伝えたいことを書くので、受け取ってほしいです。自分勝手で、ごめん。

 まず、春稀に、何もしてあげられなくて、SOSを出していたことに気づいていたのに…何もできなくて、本当にごめんなさい。俺は逃げていました。もっと春稀に寄り添っていれば、と後悔しています。春稀のことを突き放した最低な自分が、憎いです。でもこれは今だから言えるのであって…。当時、俺は精神的に疲れてしまっていて、アイさんという人のところへ逃げていました。現実から簡単に目を背けていました。これは本当に反省しています。反省しても、反省しきれません。
 アイさんは高1からの知り合いです。最初は雑談をしたり、相談にのってもらったりという関係でした。実際に会うようになってからは、ライブによく行きました。それから何か月か経って、関係を持ちました。その後もその関係は最近まで続いていました。俺は何度も何度も、アイさんと会うことをやめようとしました。でもいつしかアイさんは俺にとって、いなくてはならない存在になっていました。俺は彼に、非日常と癒しを求めていたのだと思います。そして、俺は彼を人生の先輩として尊敬していました。でも俺は春稀がいるのに、アイさんとの関係を切れなかった。これは俺の罪です。今まで春稀にどれほどつらい思いをさせていたかと思うと、胸がつぶれそうになります。ごめんなさい。本当に、ごめんなさい。
 今後アイさんと関わることはありません。連絡先も全部消しました。彼ももう日本にいないはずです。俺は彼との関係を完全に断ち切りました。
 それだけ言われても、きっと春稀は困ると思います。不満そうな顔をしながらも何も言わない、春稀の顔が浮かびます。…そもそも春稀のそういう顔を知っている時点で、俺はつくづくひどい奴だなと感じます。思い返せば春稀が俺に本音を話してくれてたのって、随分昔のことなんじゃないかな。いつしか当たり障りのない会話ばかりになって、それが普通になっていたね。お互い傷つけないように、変に気を遣っていたね。でもこれからは、ちゃんと、伝えたいことは隠さないで話したい。

 前置きが長くなってしまった。今後のことについて書きます。
 まずは春稀が一日でも早く回復するよう、俺は毎日祈っています。これからも病院にお見舞いに行きます。まだ春稀のお姉さんには俺たちの関係について言っていないのだけど…、俺はアルバイトを増やして、春稀のためのお金を用意したいです。就職してからも、きちんと責任は取りたいから、定期的にお金を送ります。これからずっと、春稀のために…、償いをしていきたいです。こんな状況になってしまったのは、俺の責任なので。

 春稀のことは今でも変わらず、かけがえのない、一番大切な人だと思っています。言葉で伝えるのはちょっと恥ずかしいけれど、俺は、そう思っています。あの教室で出会ったときから、春稀は俺にとって特別な存在です。だから、「好きだよ」って言われたときは、すごく嬉しかったんだよ。あまり顔に出ていなかったかもしれないけど。
 春稀が目を覚まして、話せるようになったら…、俺はまた春稀の隣にいさせてもらえたら、嬉しいです。俺のことなんてきれいさっぱり忘れていたとしても、俺は悲しくない。ただ春稀が生きてさえいれば、それでいい。…春稀はどう思っているのだろう? こんな俺なんか二度とごめんだって、ユキなら言いそうだな。俺が視界に入った瞬間、殴られるかもしれない。うーん、それは怖いなぁ。でもきっと、春稀はまた戻ってくる。戻ってくるって、いつも信じています。
 長くなったけど、これが俺の気持ちです。おこがましいと自分でも思う。でも、受け取ってください。また会える日を心待ちにしています。
 
颯太より