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映画『異人たち』 自分と向き合うことで「本当の人生」が始まる


あらすじ

ロンドンの高層マンションに住む脚本家のアダム(アンドリュー・スコット)は、ある日同じマンションの別の階で暮らすハリー(ポール・メスカル)の訪問を受けます。
突然の来訪に戸惑い、「一緒に酒を飲まないか?」という誘いを断るアダムでしたが、その日を境に孤独だった日常に少しずつ変化が訪れ、やがてアダムはハリーを受け入れて、二人は恋人同士になります。
その一方で、アダムは12歳で交通事故によって死別した両親についての脚本を書き進めているのですが、執筆のため、以前自分が住んでいた家に行ってみると、そこには両親が生前の姿のままで暮らしていて、彼を温かく迎え入れてくれます。
アダムは、恋人ハリーや、死別した両親との邂逅を通じて、徐々に孤独だった人生に別れを告げ、温かな気持ちを取り戻していくのですが…。
というのが大まかなストーリーです。

作品情報(ゆるめ)

監督はアンドリュー・ヘイで、恥ずかしながら全く知らなかったのですが、彼は現代のゲイ映画を代表する監督(もちろん彼自身も男性同性愛者)らしく、『WEEKEND ウィークエンド』(2011)という映画は、ゲイ映画の金字塔とされているそう。
機会があればこちらもぜひ観てみたいです。
ちなみにこの作品は、大林宣彦監督『異人たちとの夏』(1988)(原作は山田太一の小説)のリメイクです。(僕はどちらも未見・未読です)。
主演のアンドリュー・スコットはオープンリー・ゲイの俳優で、ドラマ『SHERLOCK』などにも出演しており、こちらもかなり注目されている俳優さん。ハリー役のポール・メスカルも『aftersun アフターサン』(2022)でアカデミー主演男優賞にノミネートされるなど、若手の注目株。『ロスト・ドーター』(2021)に出ていたという情報を見て、あのセクシーな若者の役か!と今書いていて気がつきました。

この一本で自分のセクシャリティと向き合った

僕は、プロフィールにも書いていますが、既婚のバイセクシャル(ゲイ寄り)です。そして今のところ、誰にもカミングアウトしていませんし、する気もありませんでした。(この肩書き(?)に嫌悪感を抱かれる人も多くいらっしゃるかと思いますが、これは変えようのない事実です。)
ですが、この映画を観て、初めて自分のセクシャリティと向き合う覚悟のようなものが生まれた気がしました。それは、作中で愛し合うアダムとハリーのラブシーンが素晴らしかったこと、そして、アダムが、自分がゲイであることを死んだ両親にカミングアウトする場面を見たことが大きいように思います。
孤独だったアダムがハリーと愛し合う時、そして、カミングアウトしたことで初めはギクシャクとしていた両親との関係が、徐々に和解へと向かっていく時、物語の進行と比例して、自分の中でも、何かが確実に変わっていく気がしました。
自分の過去=死んだ両親と向き合うアダムは、それまでの孤独だった人生からの脱皮を図り(それは必ずしもハッピーエンドには向かわないのですが)、一時的ではあるものの、充実した人生を手にします。
それは、映画の中で、彼が常に、「自分に正直に」生きる選択をしていたからだと思うのです。
他の方のレビューなどを読むと、中年期に差し掛かったゲイの孤独や痛みについて書いている方が多いなと思ったのですが(それも、切実なテーマであることは確かです)、僕はこの映画にとても温かなもの、そしてポジティブなものを感じました。結末はビターですが、アダムとハリーが寄り添い合う最後のシーンにも、希望があるように思いました。
そして、映画館を出た時、自分も一人の人間として、自分のセクシャリティと向き合わなくてはいけないという、意志のようなものが生まれていました。(それが、noteを始めるきっかけにもなりました)

「自分の人生」を生きるということ

僕は今まで、自分(=自分のセクシャリティ)と向き合うことを避けてきました。もちろん、奥さんを愛していることに嘘偽りはありません。それだけは誓って言うことができます。しかし、その一方で、同性に惹かれる自分がいることを抑圧してきたこともまた、事実です(これまで男性と恋愛関係になったことも、体の関係を持ったこともありません)。
けれど、これからの人生を考えた時、どのように生きるのが自分の幸せなのか、というのを、この映画を通して考えさせられた気がしました。
主人公アダムは同性愛者で、それを認めて孤独に生きていますが、その孤独は彼自身が選んだ孤独です。
けれど、僕は何かをはっきりと選択することなく、自分のセクシャリティをうやむやにしたまま、この年齢まで来てしまったような気がするのです。
そしてこの映画を観た今、そんな自分に迷いが生じています。自分は本当に、「自分の人生」を生きていると言えるのだろうか?このまま、誰にも何も告げないまま死んでいくことに、本当に後悔はないのだろうか?
そんな迷いからか、現在はこうしたLGBTテーマの映画やドラマ、小説を狂ったように観たり読んだりしまくっています…(苦笑)
けれど、そんな自分の中の葛藤を初めて認識させてくれたこの『異人たち』という映画は、僕の中でとても大切な一本になりました。
もちろん、セクシャルマイノリティーでない方にもおすすめです。男性同士のかなり官能的なシーンがあるので人を選ぶとは思いますが、「自分の過去と向き合う」という普遍的なテーマを扱っている映画でもあるし、単純にストーリーも面白いです。
現時点ではおそらく上映終了していると思うのですが、後々配信などで観られるようになったらぜひ一度ご覧いただくことをおすすめします。

おわりに

ということで、映画レビューというよりは、ほぼ自分語りになってしまったのですが、自己紹介も含めた記事ということで、今後はもう少し、取り上げる作品の内容について触れた記事を書いてみたいと思っています。
最後まで読んで頂き、ありがとうございました。

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