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最終回 社長をヤメる大学卒業式

おわりの日がやってまいりました。今日は、社長をヤメる大学の卒業式です。
入学式から数えると、みなさんにお話しさせていただく14回目の機会となります。
うれしいような、寂しいような。そんな最終回。

学生のみなさんは、がんばりましたね。学長の私もがんばりました。
振り返ると、余裕で1冊の本ができるくらいの文字を書き連ねていました。実際に、書籍としてヤメ大の講義をまとめられたらいいな、と今は思っています。

社長のおわりに待っている景色の全体像を伝える



ヤメ大が目指したことは、学生のみなさんに、社長のおわりに広がる景色を知ってもらうことでした。

起業たりし、独立したり、さらには誰かから会社を引継いだことで、あなたは中小企業の経営者という世界に足を踏み入れました。では、この世界の“おわり”はどうなっているのか。どうやったら抜けられるのか。そんなことを学んでいただくための場でした。

コンテンツづくりにおいて、社長のおわりの“全体像”をお伝えできることを大切にしました。一部だけが事細かに解説されたものではなくて、全体が見渡せる地図をお届けする、というイメージです。おわりにはどんなパターンがあって、どこらへんにポイントがあるのか、を学んでいただけたのならば、ヤメ大は成功です。


是非とも学生の皆さんには、ヤメ大のコンテンツのすべてを読んでいただきたいと思います。

実は、自分の興味があるところしか読まなかった人はいませんか?

たとえば、M&Aをするつもりの人が、『第7回 小さな会社でもちゃんと売れています!』だけ読んで、他の講義はスルーをしたような。
旅行でいえば、ヨーロッパに興味がある人が、南米の地図を見ようともしないのと同じです。

先生は怒りません、すべての講義を履修していない人は手を挙げてください。

・・・かなり手が上がりましたね(怒)
でもこれって、ちょっともったいないかもしれません。

原稿を書き連ねてみて改めて確認しました。各分野はつながっています。
また、個別のテーマについて書かれたことでも、そこには、広く通じる本質な学び散らばっていました。

ヤメ大のような体系的な学びだからこそ、偶然の学びの機会が得られたりします。もちろん、それが人生を変えてくれることもあります。
自分の興味のあることだけを検索するようなネットの世界ではこうはいかないでしょう。自分のために本当に役立つ学びは、意図していないところでこそ出会えるもののような気がしています。

もちろんヤメ大は全体像をお届けしただけなので、これだけでは十分な学びとは言えません。皆さんには、自分の行先に応じたさらに詳しいガイドブックや、深い学びが必要になることでしょう。
自身の旅に合わせた計画を立て、準備をし、実際にゴールに向かって歩んでください。



着地計画に必須の『プランB』


ヤメ大における、卒論や卒業制作にあたるものは、あなたの会社の着地計画です。戦略です。これまで学んだことを使って、どんな風に会社を着地させていくのか、具体的な策を立ててください。
とはいえ、皆さんはすでにその取り組みをはじめています。第11回目の講義で出された課題を、さらに考えていただければよいでしょう。

第11回目の課題から得られるのは「自分はこういう風に会社を着地させ、こんな感じで社長をやめたい」というビジョンです。理想的なおわり方といえるものです。

しかし、これだけでは着地計画の完成ではありません。理想をプランAとしたら、プランBも必要なのです。

プランAだけでは、ただの希望になりかねません。

こういう理想だけの計画って、世の中に氾濫していますね。何の根拠もなく、毎年1割ずつ売り上げが増えていくような事業計画だとか。
捕らぬ狸の皮算用だけで作られた新規事業の計画とかまであります。新規事業なんて成功しないのが普通ですが、それを理想だけ書いて計画としちゃうわけですから……。
もちろん、物事はそんな理想通りにうまくいくわけがありません。

だからプランBが必要なのです。

理想的な計画であるプランAに対して、現実的なプランBです。
スパイ映画などで、当初のプランAの達成が不能となった時に「プランBに切り替えるぞ」と言ったりしますね。あれです。
プランBは、プランAが実現できなくなったときの代替案。現実に則してプランも替えなければいけません。

すでにプランAを作っている皆さんには、ここでプランBも作っていただきます。今回の宿題です。卒業式にだって宿題は出るのです。

★おすすめ① 時間の条件を作る


会社の着地におけるBプランは、撤退条件を定めたものです。退路です。ゆえに、単独で実現できて、いつでも可能な廃業となる場合が基本となります。
たとえば、会社を第三者にM&Aで売却して着地することがAプランであったとしましょう。もし、それを実現できないことが判明したときは、廃業へ方針転換をするような感じです。

次に、AプランからBプランに切り替える条件を設定します。この条件は一つではなく複数となるのが普通でしょう。少なくとも、時間に関する条件と、お金に関することを設定しておくことをオススメします。

時間の場合、たとえば年齢を基準にします。自分が70歳になるときまでにプランAが実現できなければ、プランBを発動して廃業する、といった具合です。時間で締め切りを作っておかないと、人はダラダラと続けてしまいがちです。もうちょっと、もうちょっととやっているうちに別の選択肢を失ってしまったりします。

かつて中小企業庁の人たち(たぶん)からヒアリングを受けたことがあります。
中小企業の社長が高齢化して循環が進まない。この問題を改善する方法はないか、と問われたのです。


奥村「中小企業の社長にも、サラリーマンみたいに定年を設ければいいですよ!!」
役人「・・・・(失笑)」 


私のアイデアは失笑とともに、完全にスルーされておわりました。
でも、後々考えてみると、的外れなことは言ってなかったと思えてきました。

中小企業の社長が、会社の着地の決着をつけないのは時間を意識できていないからです。そして、時間を意識できれば結果はよりよくなります。当たり前のことです。

制限時間があれば、集中力が増し、良い未来を作ろうと励みます。廃業となるBプランをどうしても避けたければ、それまでに継いでもらえるような会社をつくるよう努めることでしょう。

カジノの世界で長くい生き残るコツは、ゲームをやめる条件を時間で区切ることだと聞いたことがあります。どんなに勝っていようが負けていようが、決めた時間がきたらスパッとやめてホテルに帰る。深入りしないように客観的な時間というものさしを使うのがポイントだそうです。

会社の着地も同じです。良い状態になったらやめようとか考えていたら、どこまでもズルズルと行ってしまいかねません。そのときはもうやめるにやめられなくなってしまっている可能性も高いのです。
みなさんは想像つかないかもしれませんが、世の中には“やめるにやめられなくなっている社長”が結構いらっしゃいます。会社をたたむのにも、体力や時間、そしてちょっとの金が必要です。

ものごとの終焉は突如訪れます。社長のパフォーマンスの落ち込みだって同じです。まだまだ元気で、「自分はまだ当分仕事を続けられる」と言っていた方が、なんらかの事情で急に生気をなくし、仕事がおぼつかなくなったケースには何度も出会いました。そうなると状況を理解し、適切な判断をすることができなくなってしまいます。

落ち込みがいつやってくるのかはわかりません。できることは撤退期限を決めてリスク管理することだけなのです。
このあたりは、以前の講義のおさらいとなります。


★おすすめ② お金の条件を作る


もうひとつ、おすすめするBプランの発動条件は、お金です。
たとえば、預金の額を基準にしてはどうでしょうか。さきほどの例を使うと「預金が1000万円を下回ることがあったら、自分が70歳になっていなくてもその時点で廃業に切り替える」という感じです。

社長はまだ若くて元気がある場合でも、会社のほうに先にガタがきてしまう場合があります。すぐに手を打てなければ、いずれ倒産になって痛みが倍増されます。
そんな状況を避けるためにもお金の撤退ラインも設けておきましょうという。

このケースでも、本当にギリギリまでやろうとするのではなく、ちょっと余裕をもってリセットボタンを押せるようにしておくことがポイントです。たとえば、半年分の資金繰りが見込めれば、余裕を持った廃業の手が打てます。
こうして見繕った撤退ラインを資金が下回ったときには、ためらいなく、悩むことなくリセットボタンを押してほしいわけです。

その他にも、事業継続が不能のなる出来事を、Bプランへの切り替えの条件としておくといいのでしょう。「事業継続に不可欠なキーマンが会社をやめたら」とか、「特別な仕入れ先との取引ができなくなったら」とか。
このあたりは、第11回目の講義で、Aプランを実現するための必要条件をすべて考えていただいたことが役に立つはずです。必要条件を欠くときがBプランへの切り替えのタイミングです。



★Bプランに宿るヤメ大精神


Bプランを作っていただきました。これで、理想を描いたAプランと思惑通りにものごとが進まなかったときのためのBプランができました。
このふたつ、どちらが大切でしょうか。

私は間違いなくプランBだと考えています。それこそ、Aプランなんて無くても、プランBさえあれば道を間違えないで済むからです。
周りの人にも、そしてご自身にも、傷を負わせることを回避できます。

私の考え方では、ホームランを打つよりも、致命傷になるような失敗を避ける方が重要です。
でもこの点、世の風潮は違うようです。理想や願望が優先されます。ときにそれは「良いビジョンだけを見るべきで、ネガティブな状況は考えてはならない」といった薄っぺらのポジティブシンキングとつながっていたりします。

幸せなことをだけを想像していたら、本当に幸せになるのでしょうか。
現実は見ないで、頭の中にお花畑を育てていたら、ものごとはうまくいくのでしょうか。
私にはとてもそうは思えません。

しっかり現実を見て、悪いことが起きる可能性を把握しておくべきではないでしょうか。本当のポジティブさとは、悲観的なものの見方をし尽くし、それに備える手立てができたときにこそ生まれるものだと思います。

得をすることよりも、まずは大きな損をしないこと。うまくやることよりも、まずはヘタを打ってボコボコにやられないこと。
したたかにしぶとく、生き抜こうじゃありませんか。これがプランBの背景にある哲学です。ヤメ大のスピリッツです。


不安、本音を外に出すべし

あ、そういえば、今日は卒業式でした。

そのわりには、なんて地味な話をしているのでしょうか。華々しさのかけらもございません。ごめんなさい。
でも、そんなものです。それでいいのです。

「M&Aで会社を売って、5億円手にしてハッピーリタイア!」みたいな話は放っておけばいいのです。あなたには、あなたの現実があって、あなたの人生があるのです。いかに自分なりによく生きていくかだけの話です。

未来に対して不安なこと、悩んでいることが、みなさんにもいろいろおありでしょう。ぜひとも、そんな本音も口にしていただきたいと思います。

弱音をどんどん吐きましょう。
社長という生き物は、強く立派でなければならないという常識に囚われがちです。社長という立場で建前の話ばかりをし、一方で、自分の本音というものを押し殺してしまいがちです。

でもそれは不健全です。本音をため込んでいたら、腐ってあなたを害します。ウンチと同じです。ものを食べたら、ウンチを出さないといけません。
生きていたら、不安、悲しみ、怒りなどのネガティブな感情が起きるのは当然です。それだって、外に出さないとおかしくなってしまいます。みんなネガティブな感情を外に出さないから、思考停止になったり、鬱になったり、過剰な攻撃性をもってしまったりするのでしょう。

ネガティブな気持ちほど外に出しましょう。誰かに話をしましょう。無理に平然を装わなくていいのです。

社長は「自分の会社は特別」「自分の業界は特別」だと思うふしがあります。でも、全然そんなことはありません。どこも似たようなものです。
そして社長は、自分の悩みもまた特別なものだと思っています。でもやっぱり、そんなことはないのです。みんな同じようなことを、同じように悩んでいます。1000社以上の会社の社長から相談を受けてきた私が言うのだから間違いないでしょう。

ずっと会社を閉じようか悩んでいたある社長が、「地元の社長の飲み会だと前向きなことしか話をしちゃいけない雰囲気があって辛かった。“来年は1億円売るぞ”とか、そんなのばっかり。とてもウチみたいに、そろそろ潮時かも、なんてことは口には出せずに」と語ってくれたことがありました。

また、別のある社長も、飲み会で「社長をもう辞めたい」という話をポロリとしたら、そんな弱気でどうする!、もっと気合い入れてがんばれ!、と総攻撃を受けて後悔したと言っていました。

本音を吐き出しても否定されない場を作れるといいですね。
とにかく本音は出しちゃいましょう。
本音を語れたらスッキリするでしょう。それが地に足がついた現実的な行動につながる気がします。

見栄をはったり、自分を大きく見せようとしないこと。
誰か、本音を聞いてくれる人を見つけて語りましょう。ふさわしい相手がいない方は、奥村が話を聞かせていただきます。連絡ください。

受講いただき、ありがとうございました!


さて、終わりの時が近づいてきました。寂しくなってきました。
最初はえらいことをはじめてしまったと思ったし、最後まで完走できるのか不安しかありませんでした。日常の仕事もあるわけです。毎週ヤメ大の記事を書くのは大変でした。

しかし、この企画はやってみてよかったと、今は思っています。

皆さんとこうしてつながれたことがうれしく、それが今日で終わってしまうというのは寂しい限りです。なにかあったら、気軽に相談をしてください。
ヤメ大で学んだことを使って、ちゃんとご自身の会社を着地させてください。

背中に背負った重たい責任をおろせるゴールを創ってください。自分のためにです。社長の場合、ゴールは自分で創造しなければならないのですから。

自ら創造したゴールの先に何があるでしょうか。それを体感してほしいのです。ここに社長業のだいご味があります。楽しみにしてください。


★次はあなたの番です


私たち人間は、生まれてから日々刻々と死に近づいています。ある意味で、死ぬために生きているような面があるのです。
同様に、会社の社長は、社長をヤメるために生きています。

社長のおわりを見つめる取り組みは、おわりの日までの歩みを、より良いものに変えてくれることでしょう。

会社の着地論なんて、大学の経営学部の必修科目にすればいいのにと思います。
たまたま成功したビジネスを、後付けで研究したところで、たいした価値はないと思います。再現性なんてほぼないのですから。
また成功モデルとされるものは、長い目でみたら、本当に成功したとは言えないものだったりもします。

しかし、ヤメ大のように、確実に起きる可能性が高いことに対して、どのように備えればいいのかという学びは、間違いなく意味があります。地味すぎて人気はありませんけどね(泣)


繰り返しになりますが、おわりを学ぶことは、今を良くするための営みでもあります。
ヤメ大で、社長のキャリアおわりを垣間見たあなたです。
これから何をすしますか。

会社の社長をやめるか否かは別として、今すぐあなたがやらないといけないこと、あなたが貢献すべきことに気が付いたのではないでしょうか。

学長の私はこれまでの仕事を通じて、社長のありとあらゆるおわり方を見てきたと自負しています。
そして「そんな社長のおわりを体系化し、伝えなければいけない」と感じ取りました。ヤメ大を開校した動機です。
誰かに頼まれたわけではありません。世の中に対して勝手に責任を負っただけです。

ヤメ大の連載は想像以上に大変でした。
でも、それ以上に想像できていなかったことは、入学金を納めていただく学生さんが現れたことでした。

本当に大きな支えとなりました。貴重で素晴らしい体験となりました。心から御礼を申し上げます。
なんとかしてお返しをさせていただきたいところです。奥村がお役に立てそうなことがありましたら、お気軽にリクエストしてください。

私は、私の負っているであろう責任を感じ取り、ヤメ大を開校しました。
次は、あなたの番です。


以上をもちまして、社長をヤメる大学を閉校します。
卒業おめでとうございます、、、と、今は言いません。

みんさんが会社の着地をおえたときに、おめでとうと言わせてください。

事務局からの連絡


①入学金の納付手続きについて

「卒業式だけど、入学金払いたくなっちゃた」という方は、リンク先のシステムで決済をお願いします。
払っても、払わなくてもいい入学金は(税込8万8000円)です。

  → 入学金決済システムへ

②本日の宿題

撤退を決断する条件を検討してください。

質問や提出は、私のホームページの問い合わせフォームからお願いします。
※入学金納付の有無にかかわらず、質問等は受け付けています。

 → 奥村のホームページ

③次回の講義

ヤメ大の講義はこれで終了です。
これまでの講義は、予告なく抹消することがあります。

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