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組織の力を高めるのは「公平、安全、仕組み」

船井総合研究所では、「組織力診断」というツールを提供している。従業員の本音を集め、従業員からその会社がどのように見えているかを知ることで、その会社が組織としてどのくらいの力を有しているかを知ることのできるものだ。 

組織力診断を実施した結果、組織力が高いという結果の出た会社は、どのような施策を行っているかを取材した。

京都市内を中心に12店舗を展開、現在84名の従業員を抱える平川接骨院グループ。
マッサージ・リラクゼーション業界は、他業種に比べ離職率が比較的高いと言われるが、船井総研が従業員に対し実施したアンケートによると、同グループの離職率は業界平均に比べてはるかに低く、また従業員の満足度が高いポイントを保っていた。
従業員が安心し、満足して働ける環境作りとはどのようなものなのだろうか。社長の平川憲秀氏に伺った。

「公平」が「心理的な安全性」を生み出す

「公平性と安全性。そして、ルールの明確さ。この3つを特に大切にしています」。
平川氏は同グループの二代目として2003年から代表取締役社長に就任。同業他社での勤務経験をあえて積まずに、病身の父親に代わって24歳で経営に関わり始めた。
「この業界は体育会系の会社が多いのですが、私自身、もともとそういった縦割りの人間関係に属していたことがなかったこともあり、自分の会社ではなるべくフラットな関係性を結んでいきたいと当初から意識してきました」

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平川接骨院グループ社長 平川憲秀氏

もちろん、従業員には役職があり、それぞれに与えられる権限も異なる。その点は従来のピラミッド型の組織づくりと変わらない。だが、そのなかで風通しのよい人間関係を作れるように平川氏は努力している。
「“代表取締役”とか“店長”といった役職は単なる役割であって、それ以上でも以下でもない。どんな役職に就いていても、それが理由で偉いとか、威張っていいとかいうことにはならない。そのことを強調し、従業員間の公平さを大切にしています。どんな立場であろうと「さん」付けで呼び合い、「社長」「院長」といった役職での呼び方はしません」

敬称の使い方など細かい部分にも気を配ることで、肩書きに隠されない個々人の姿が見えてくる。平川氏が求める公平性は、誰かが誰かを圧迫することのない職場環境を作り出す。さらに、それが職場における安全性へと繋がっていくという。
「特に心理的な安全性を重視しています。つまり、誰が何を言っても非難されない雰囲気を作り出すこと。立場を超えて、安心して意見を言えることが健全だと思います」
公平で安全な職場環境を支えるのがルールの明確さだ。すべきことと、してはいけないことを明確にして、誰でも迷わずに行動に移せるようにしている。
この仕組みの重要性が特に明らかになるのが、クレーム対応での場面だ。従業員はクレーム発生の責任は一切問われないが、その代わりクレームがあれば必ず報告するようルールづけられている。

どんな立場であれ責任を一切問わないという安全性と公平性、それを支えるルールとしての報告の義務が、職場環境を円滑なものにしている。
従業員が職場に求めるものは、時代によって移り変わる。経営者はその変化にも敏感になり、柔軟に対応を変えていく必要があるだろう。
「この職場に勤めたい、と思わせるフックが、昔と今ではずいぶん違っています。かつては、“給料を上げれば良い”、あるいは“給料を上げなければ続かない”とも言われていました。
しかし、実際のところを細かく見ていくと、近年ますます人々の価値観は多様化しています。いまは稼ぎたい人もいれば、そこそこ稼げればよいという人もいる。給料が1月に2万円増えるよりも、1日休みが増えて自分の時間が増えるほうがいいという人もいる」

生き方も働き方も多様化が進む現在、働くモチベーションは一様には語れなくなった。もはや労働の価値は給料だけで計れる単純明快なものではなくなっているとも言える。

「その会社が好きだから働いているのか。それともその仕事が好きだから働くのか。あるいは、一緒に働く人々が好きだから続くのか。働き手によって、働く理由もさまざまになっています。
ですから、経営者としてはいろんなフックを用意しておきたい。仕事は好きなのに、環境が整わないから辞めざるを得ない、あるいは会社への不信感で辞めてしまうという事態は、経営者としてなくしていくべき」
だからこそ、社内における公平性と安全性を大切にする。風通しがよく、臆せずものが言える環境は居心地もよいはずだからだ。

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画像提供:PIXTA

さらに同グループでは、感謝をお互いに伝え合う仕組みも目に見える形にして取り入れている。具体的には、従業員間でメッセージを送信できるアプリを導入し、感謝を表す「サンクスカード」を送り合うというものだ。
「同じ店舗に勤めるスタッフとは毎日顔を合わせますが、他店舗に勤める同期や先輩、後輩とはそう頻繁に会うこともありません。そこで、なにかお世話になったら他店舗の従業員にもアプリを使って「サンクスカード」を送ることにしています。

心のなかというのは誰にも見えませんから、思っていても形にしないと伝わらない。従業員が増えてある程度の規模になってくると、こういった細かな仕組みを作って運営していくのも大事です」
「サンクスカード」の習慣は、従業員同士のつながりを目に見えるものにすると同時に、働き手ひとりひとりの姿を明確にすることにも役立っているだろう。公平性や安全性に重きを置く平川氏の経営方針によって際立ってくるのは、従業員それぞれの存在感や人間性ではないだろうか。
「接骨院での治療では、お客様の身体に直接触れます。誰かに触れるということは、とても繊細なこと。施術者は技術を正しく身につけていることが必要ですが、かといって技術さえあれば良いということでもない。
技術にも増して、どんな人に治療されるのかという点がより大切だと私は思っています。だからこそ、全社として価値観や考え方を揃えるところに重点を置いています」

週2回の「理念の現場への浸透」

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週に2回行っている、約30分のミーティング

一人前の施術者となるには、技術のみならず人柄も重要だという平川氏の考え方は厳しいものでもある。どのように従業員にそれを伝え、実践に導いているのだろうか。
「ひとつは、経営理念をしっかりと繰り返し伝え続けていくこと。経営理念と社内をまとめていくためのもので、また、“いつかこんな会社になりたい”という理想を描くのではなく、“僕たちがいまあるべき会社の姿”を伝えるためのものだと考えています。
ですから理念はシンプルなものでいいと思います。弊社の理念は“かかわる人すべてを幸せにしよう”というもの。かかわる人すべてとは、お客様のみならず従業員たち自身も含まれています」
経営理念を軸に、経営方針をさまざまな形で解説し、浸透させていく。新入社員向けの2カ月間の研修では、全期間の3分の1以上の時間をかけて価値観教育を行う。

また、テレビ会議システムを用いて全店舗をつなぎ、週に2回、朝の30分間をミーティングに充てている。
「朝の30分間のミーティングでは、私が従業員に向けてまず20分間話します。全員が手にしている経営計画書をもとに、具体例を交えてそのときどきに必要な方針を説明します。最後の10分間は、8人くらいに感想や気づきをシェアしてもらいます」
週に2回という頻度で行うため、日常での気づきがスムーズにフィードバックされるのもメリットだ。たとえば4月には新型コロナウィルスの流行による影響を同グループも受けた。

「こんな状況のなかで来てくださるお客様は、身体のことで本当に困っていらっしゃる可能性が高いですし、あるいは、弊社のファンになってくださっている方も多い。
このような時だからこそ、お客様からの声はより大切にしようということを伝えました。当たり前のように思えることでも、根気よく伝え続けることが大切。そうすれば経験の少ない若いスタッフも、具体的に行動に移せるようになりますから」
価値観を共有するための時間を定期的に作り、地道に続けていくことで、経営理念と基盤とする社の方針が従業員に理解され、実践されていく。実際に、最近はこんなことがあったという。

「お客様ではないのですが、腰を痛めておられる方が、たまたま店の前を通りかかったそうです。その方はどうやらコルセットが初めてで、巻き方がわからず、どう巻いたらいいのかを教えてほしいとおっしゃった。
そこで社員はどうぞ中へとお招きし、コルセットを正しく巻いてさしあげました。コルセットの巻き方の資料もコピーして差し上げたということでした。
売り上げはゼロ円ですが、この行動は、弊社の“かかわる人すべてを幸せにしよう”という理念に基づく行動そのものです。理念がしっかりと伝わっていることを感じて、とても嬉しかったです。
治療院は地域に根ざしていかなければなりませんので、売り上げには繋がらなくとも、このような行動は大切だと思います」

平川氏が掲げるまっすぐでシンプルな理念は、従業員から共感を得られている。理念への共感は、自然な行動とやりがいに繋がって行く。平川整骨院グループでは、理念や価値観の共有が、公平で安全な職場環境のなかで実現しているといえるだろう。

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