見出し画像

リーマンショック後10年で売上4.6倍300億円達成 コロナ不況を乗り越える秘訣は従業員とのエンゲージメント

船井総合研究所で提供している「組織力診断」。従業員の本音を集め、従業員からその会社がどのように見えているかを知ることで、その会社が組織としてどのくらいの力を有しているかを知ることができる。 

その診断で優秀な成績を出したのが福岡県北九州市を中心に総合住宅不動産会社として展開する大英産業株式会社。2019年に上場を果たし、売上は300億円を超えた。リーマンショックを乗り越えてここまで成長できた要因を分析すると従業員との間にある高いエンゲージメントが見えてきた。コロナ禍を乗り越える強い組織の実態に迫った。

組織力診断を実施した結果、組織力が高いという結果の出た会社は、どのような施策を行っているかを取材した。
1968年、前身である大英建設工業株式会社を設立し、以来、北九州市を中心に展開してきた大英産業株式会社。新築分譲、中古住宅、リフォームなど地元に根ざした事業により、2019年には上場を達成するまで成長した。
この上場は、社員主導で行われたという。代表取締役会長(創業者)からの問いかけに、当時の役員と部長とが満場一致で「目指したい」と答えた。当時、部長だった現取締役と戸建事業本部本部長を兼任する茅原嘉晃氏は次のように振り返る。
「『上場できるチャンスがあるなら、やらせてほしい』と皆で嘆願しました。それに対し代表取締役会長(創業者)からは『やりたいならやれ、やるなら最速でやれ』と一喝いただきました」
上場年の売上は前年比109%成長、売上300億円、経常利益は20億円を超えた。その前年は119%成長というから勢いがある。
しかし、10年前は売上65億円にすぎなかった。リーマンショックの影響を受け、当時の経常利益は3億円のマイナス。
その成長要因とは何だったのだろうか。

画像1

大英産業株式会社 取締役 戸建事業本部 本部長 茅原嘉晃氏

多様な社員が活躍 その内59%が新卒社員

画像2

数年目の社員がMVPとして表彰されることも珍しくない

初めに言えるのは、大英産業の成長の背景には、多様な社員の成長、特に新卒社員の成長が大きいことは間違いない。
リーマンショックにより売上が落ち込んだ2009年当時、同社では売上の9割をマンション事業が占めていた。これを2019年には売上156億円まで伸ばし、九州No.2の販売実績(2019年住宅流通新報社調べ)を誇るまでとなった。
また、2009年には、第2本業として戸建分譲事業の立上げに着手。2019年にこれを売上109億円まで伸ばしている。
同社の新卒社員比率は59%で、平均年齢は35歳。これらマンション・戸建営業社員はさらに若く、平均年齢は31歳。社内では、新卒数年目の社員が営業MVPとして表彰されることも珍しくない。
現在の役員7人のうち4人が新卒入社から役員に就いた。先の茅原氏もその一人。新卒社員にとってモデルケースとも言える。

人軸ではなく仕事軸 働きがいを喚起させたい

画像3

インナーブランディングにも力を入れており、理念の浸透を図っている

そもそも同社の採用では、先輩社員をモデルにすることを軸に採用活動をしていた。
「『この人と働きたい』『この人のようになりたい』という、“人”軸で入社してくれる社員が多かったです。しかし、“人”軸に偏りすぎことで、仕事へのモチベーションが維持、向上できない社員が増えてしまいました」と茅原氏は話す。
そこで、採用施策として、“人”だけではなく入口を変え、会社の想い(目的)を伝え、想いに共感してくれる人を採用 “地域(社会)への課題を提起、自社の提供価値(強み)による課題解決(事業の魅力)へ変化させた。合わせて業界の魅力度も伝えた”。
「例えば、理念の実現や、SDG’sなど地域課題の解決、また自分たちが住む地域への貢献などを打ち出すようにしています。学生にはこれらを共感してもらい、応募いただいていますね」
だからと言って、“人”軸を止めたわけでもない。内定後からのメンター制度や、マンツーマンで相談できる体制を組むなど、接点も増やし、コミュニケーションをとるようにしている。
これらにより、入社前から、仕事へのモチベーションと、同時に会社へのエンゲージメントを高めている。

目先の売上減少を恐れず 積極的な配置転換と抜擢人事

さらに、入社後のやりがいを高めるのが、積極的な配置転換と抜擢人事だ。
同社には「優秀な人財には成長のため様々な経験を積ませる」という考えがある。このため、積極的な配置転換と抜擢人事は、社員が成長するための1つの手段ととらえている。
例えば、2019年度は、戸建事業部店長全6人のうち新卒7年目が5人、8年目が1人。若手を早いうちから責任ある立場に就けていることが分かるだろう。
「20代を積極的に成長させようとする社風は、昔から変わりません。私も抜擢人事だと思うのですが、他社さんには『よくそんな年齢で』とも言われましたよ」と茅原氏は言う。
同社はこうした人事により、目先の売上が減少することは恐れないそうだ。
結果、若手が早く成長し、1人ひとりの成長が会社の成長へつながっている。

育休産休からの復帰率を100%へ 離職率は業界平均1/2

一方でこれらは、離職につながることはなかったのだろうか。茅原氏は答えた。
「もともと、離職率は高かったです。特に新卒で入ってきた女性社員の離職率は高かった。結婚して出産すると、当時は100%退職していました」
彼女らはとても優秀だったと言う。営業トップも、ほぼ女性だったそうだ。
それだけに課題であり、2015年頃から全社をあげて改善に取り組んだ。
産休・育休制度や、時短勤務やフレックス勤務の制度など、働きやすい仕組みを整えた。加えて、立ち上げたのが「WPP(Woman Power Production:女性活躍チーム)」だ。部署を横断するチームを作り、女性にとって働きやすい会社にするべく、取り組んだ。
「例えば、育休・産休をとると社内の情報が耳に入らなくなります。そこで、情報発信をするようにしたり、定期的に座談会を開くなどしています」
育休期間は3年と比較的長く、復帰後は元の職場へと戻る。パート社員も育休・産休を取得できる。
これらにより、ゼロだった育休・産休からの復帰率は100%となった。
女性に働きやすい会社になった結果、当然のように男性にも働きやすい会社にもなった。
離職率は大幅に改善され、今では7.4%。これは業界平均15%の半分でしかない。

一丸となってビジョンを作り共有する

「数年前の1月4日の初出式の中で、初夢発表会というものをやりました。初夢、つまりは夢でありビジョンです。それを若手や中堅など、いろんなチームに分かれて考えて、『こんな会社にしたい』『こんな事業を作りたい』と発信しました」

画像4

それからインナーブランディングとして、行動指針プロジェクトを起ち上げ、立候補した約30人の社員によって行動指針が作られた。行動指針を浸透させるために、体現した社員への、社員投票による表彰制度などを設けた。
さらに今、アウターブランディングとして、ブランドアイデンティティやブランドプロミスなどを社員主導により定めるプロジェクトが動いている。
「社員が考えるきっかけとなる場をつくることが多い会社だと思います」と茅原氏は話す。
いわゆる経営陣と現場との距離感も近づけようとしている。
「役員で一番若い者は39歳ですし、私は43歳。偉そうに経営のことばかり語るのは違うと考えています。
全力で経営も考えるし、事業も一緒にやる姿勢を見せることが社員とのエンゲージメントを高めることかと思います。昨年10月には、経営陣もあえて現場に戻り、一緒にやっていこうと決め、社員との信頼関係をさらに強める方針を取りました」

従業員とのエンゲージメントの高さで新型コロナ禍でのテレワークを乗り越える

2020年4月7日。新型コロナウイルス感染症の拡大により、緊急事態宣言が発令された。
同社の新入社員は16名。4月1日からしばらくは、十分な距離を取るなど配慮しながら集合研修を行っていたが、すべて自宅での研修に切り替えた。もちろん他の社員に対してもテレワークを始めた。
同社では、ちょうど2020年から全社員へのiPhoneの貸与を行っていたため、FaceTime やLINE WORKSを活用することで、テレワークの中でもコミュニケーションを活性化させることができた。
テレワーク導入当初は「やりづらい」という声もあったそうだが、取材した2020年5月現在では慣れ、モチベーションも高く、業務はスムーズに進んでいるそうだ。
仕事へのやりがい、安心できる勤務制度、ビジョンの共有など。大英産業はこれらを整え、従業員とのエンゲージメントを高めている。
茅原氏は最後に次のように話した。
「社員1人ひとりと向き合って、その人生を本当に幸せにしてあげたいと思い行動することが、エンゲージメントを高めることではないでしょうか。
私たちは『社員を大切にする』とは、働きやすく、やりがいある会社であることと考えています。
やりがいを持って、会社に貢献したい方は多い。会社としては、そうした方々に成長の機会を提供していく。個人の成長は会社の成長にもつながります。
しかし、それだけではありません。もし当社を離れても、また新型コロナ禍のような大変な状況でも、必要とされ乗り越えられる人財になれるように成長させることも会社の責任だと思います」
社員とのエンゲージメントを高めることとは、社員のことを考え続けることに他ならない。組織の強さとは、社員1人ひとりの力であり、また、その連帯の強さでもあるのだ。
編集協力:三坂 輝

社長onlineについて

経営者向けウェブメディア「社長online」では、経営者に役立つ情報を多々配信しています。
経営者に特化した会員制のメディアで、社長が本当に知りたい、この場だけに共有される情報を多々発信しています。
社長onlineのご登録は、こちらをクリックください。無料のお試し利用も可能です。お気軽にご登録ください。

画像5


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?