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珈琲の大霊師157

 その頃、その外では、手を繋いだツァーリとサウロの前に何人かの衛兵が白目を剥いて転がっていた。

「始まったな。入り口を静かに閉めて、結界を張るぞ」

「わかってる~」

 二人は音を起てずにドアを閉めると、精霊の力を重ねて結界を張った。

「これで、内側からでなければここは開かない。水と火の力を重ねた結界だ。この街にいる火精霊はお前だけだからな。誰にも開けられないだろう」

「うん。あたしとサウロの力は、誰にも破られないし!」

「役目はここまでだな。こいつらを運んで、ルビーと合流するとしよう」

「こいつら、マジ運悪いし。アハハッ」

 ジョージ以外にここに近付いた者は、一人残らずサウロとルビーが作り出す幻影にやられて気を失っていた。

 ルビーは、もともとジョージ以外を入れるつもりは無かったのだった。

 翌日、国賓の部屋のベッドで先に目を覚ましたリフレールは、緩んだ顔のままジョージの寝顔を眺めていた。

 朝日に照らし出されたリフレールの肌はシルクのように艶やかで、淡く光を湛えているかのようだった。

「王家伝来の床作法も、ジョージさんの前では形無しでしたね。本当に」

 昨夜、一線を越えたリフレールは吹っ切れたのか王家に伝わる床での技術(知識のみ)を実践してジョージをメロメロにしてやろうと画策したが、そもそも経験値があまりに違い過ぎた。

「お前な、技術より感覚が先だ。頭でっかちじゃ、男は萎えるぞ?まずは素直に楽しめ。体と心が求めるままにしろ。基本が無いと、空回りするぞ。その内、自分に合ったやり方が見つかる」

「では、それまでずっと可愛がって下さいね」

 そんなやり取りを皮切りに、途中で場所を移し、夜明け近くまで抱き合っていたのだった。

 昼頃。

「ルナさん!」

 ドアを開け放ってリフレールが、入り込む。ルナのいた海洋汚染の担当部署に積めていた巫女達は、目を丸くしてリフレールの突然の訪問に驚いていた。と、同時に眩しいものでも見るように、目を細めたのだった。

「忙しいねぇ。はぁ、何の報告かは分かるけどさ」

 そう言いながらルナは立ち上がった。

「ごめん皆、ちょっと一服してくる。中庭に行こう、リフレール」

 ルナはそうして、中庭のベンチまでリフレールを伴って移動した。

 中庭では、いつものように幾人かの巫女たちが休んでいたが、その中にルナとリフレールが現れると、明らかに目立っていた。

「ルナさん、私……」

「言わなくても分かってるよ。女になったんだろ?当然、相手はジョージ。どういう経緯だったんだい?」

「落ち着いてるんですね」

「まあね。だって、ジョージには他の女抱くなって言ってないし。色んなしがらみから、ジョージを外すには、あたしだってしがらみになるわけにいかないだろ?だから、あんたが迫ればこうなることは分かってたよ。……いや、平気じゃないけどね?」

「はい、分かります。一発くらいなら、ひっ叩いてもいいんですよ?」

「しないよ。折角良い顔してるんだから、勿体ないじゃないか」

「良い顔、ですか?」

「嬉しそうな顔しちゃってさ。あー、あたしも昨日はこんな感じだったのかな?」

「……いつものルナさんが男勝りな分、ルナさんの方がとても変わって見えてたと思います。それに、やっぱりルナさんとジョージさんは歴史が長いですから。その分嬉しかったのでは?」

「うん。今だって夢みたいだよ。あんたが現実突き付けに来たけどね。ま、良かったじゃないか。このまま、何もしないで別れるのかとちょっと心配してたんだよ?」

「……ルナさんは、本当に強くなったんですね。私と、ジョージさんの事、もう受け入れたんですか?」

「あんたなら、許せるよ。本気でジョージの事が好きな、あんただから。それに、いずれジョージが他の女抱くのは分かってたから、その最初があんたで良かった。……で、経緯は?」

 そう尋ねるルナの瞳に曇りは無く、本当に拘ってないのが分かった。

「あ、そうでしたね。えっと、端的に言うとルビーさんに誘拐されて、倉庫に縛られて放置されて、ルビーさんはジョージさんに私を探すように仕向けたのだと思います」

「あー、なるほど。大体分かったよ。ルビーちゃんのおかげかぁ。大きな借り作っちゃったねぇ」

「本当に。この後、お礼に行くつもりです」

「で、どうだった?痛かったかい?」

 にやり、とルナが口を歪めると、リフレールの頬に朱が差した。

「思ったよりは、痛くありませんでした。その、ジョージさんの手が気になって、そこに集中してる内に体が自然に開いてしまって。何というのか、手慣れてますよね?ジョージさん」

「まあ、経験だけは何百何千とあるだろうからねえ。でも、本気で愛した女は多分あんたで二人目かな。一人目はあたし!」

 胸を張っておどけるルナに、リフレールの中の淀みがふっと消えていった。

「くっ、今回は私の負けですが、同じ土俵に上がった以上、私も負けませんよ」

「ふふ、しかしあんたも拘らないね。その様子だと、ジョージを縛るような事も言ってないんだろ?」

「ええ。そもそも、ジョージさんが複数の女性を抱く事自体は抵抗ありませんから」

「え、なにそれ。あ、あたしはあんまり平気じゃないよ?本音で言えばさ」

「私、王族ですから。異母兄弟も何人かいますし」

「あー。あー、あー。そっかあ。王家じゃ浮気でも何でもないんだねえ」

「ええ。私は、王家にジョージさんが入ってくれるのを諦めたわけではありません。その時は是非ルナさんも王宮に来て下さいね」

「……ははっ、新鮮な魚が手に入るなら考えてもいいけどね」

「何年後でも良いんです。私は、サラクをどこにも負けない国に建て直し、ルナさんはここでジョージさんを待ち、ジョージさんの気が済むまで待って、そうしたら、皆で一緒に暮らしましょう」

「……はぁー。権力がある奴は発想が違うねえ。ま、そうだね。それも、悪くないね」

 そうして、ルナは苦笑いを、リフレールは満面の笑みを浮かべるのだった。

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