見出し画像

珈琲の大霊師118

「早めに決着しないと、こいつらの飯代だけでこっちが先にやられそうだな」

 と、ジョージは縛られた2000人の貧民部隊を前に呟いた。

「大丈夫ですよ。毎日の給水があれば、一週間に1つのパンでも生きられるそうですから」

 と、にこやかに隣に来たリフレールが言う。わざと大きな声で言っているような気がした。

 事実、貧民部隊がざわめき始めた。

「おいおい、聞かれたら面倒じゃないのか?」

「何言ってるんですか。サラク王家に生かされておきながら、裏切ってサラク王家に牙を向けたんですよ?」

 ゆらり、とリフレールから何かが立ち上る。

「生かしてもらっているだけありがたいと思わないような人はサラク国民ではありませんわ。明日から一人ずつ、仲間の献立に加えるというのはどうでしょう?毎日肉が食べられるなんて、まあ!何て贅沢な捕虜でしょう。あまりの慈悲深さに、他国から称賛の嵐ですわ」

 ひいぃ、と小さな悲鳴があちこちから漏れる。ジョージは彼らに同情したくなった。

「お前は料理人を狂わせる気か」

「あら、ツェツェは戦場で食料を確保する為、食人の習慣があるんですよ?」

「えっ?」

 ジョージの顔が少しだけひきつる。その後ろを、ルビーが欠伸しながら通りかかった。

「おはようございますルビーさん。今丁度ツェツェの話をしていた所ですの」

「ん?おはようさー。何の話さ?」

「ルビーさんは、始めて人肉を食べたのはいつでした?」

「変な事聞くさね。あたいは離乳食に敵兵のリゾットを食べてたさ」

「敵兵のリゾットって……おい」

 さすがに冗談だと思っていたジョージの顔が青ざめた。リフレールは、珍しいと感心していた。

「ツェツェじゃ、強い奴の肉を食べると強くなれるって言われてるさ。あたいは王族だから、敵の将軍とか位が高かったり、100人切りの猛者を食べさせてもらってたさー。良く煮込まないと筋張って食べにくいさ」

 もぞもぞと、貧民部隊の連中が縛られた足を必死に動かしてルビーから遠ざかろうとしている。

 正直、ジョージもそんな気分だ。

「お前、平気なのか?」

「何がさ?」

「人を食べる事」

「あはははは。ガキの頃から食べてるのに、平気も何も無いさ!それに、あたいらはちゃんと食べられる奴の供養もしてるさ。死ねば、誰でも肉の塊さ。同じ人なのに、それを気味悪がる奴らの方が死んだ連中を馬鹿にしてるんじゃないかい?」

 そう言われると、なんだかジョージはルビーが言っている事の方が筋が通っているような気がしてきたのだった。

「ま、食わない連中と比べて違うものは見えるかもしれないさ。例えばー、リフレールは肉が柔らかくて食べやすそうとか、ジョージは食う場所少なそうとかさね。あんたらだって、牛とか山羊とか見ればそう思う時もあるさ?」

「うーむ、それと同じか。そういう物に偏見は持たないようにしてたつもりなんだが、結構あるもんだな」

「ジョージさんにしては、珍しいですね」

「お前は食べたことあるのか?」

「ええ、ツェツェに外交で赴いた時に。幸いまだ子供の頃でしたから、受け入れるのは難しくありませんでしたわ」

「うむ。最初は泣いて嫌がっていたがな。一口食べたら美味しいと言って、うちの誰よりも食べていたな。バドルはついに食わなかったのになぁ」

 と、いつの間にか参加していたエルサールがリフレールの過去を暴露する。

「叔父様!?そんな、人を食いしん坊みたいに言わないで下さい」

「あー、リフレールって結構図太いもんな」

「ジョージさんまで何ですか。というか、叔父様いつからそこにいらしてたんですか?」

「ジョージが青い顔をしていた辺りだが?ところで、ツェツェの市場では優れた戦士の肉が流通していると聞くが本当か?」

「本当さ。他の奴より強い肉を食べるのは、ツェツェじゃ自慢になるし、実際強いやつを食った後は体が強くなった気がするさ」

「ふむ。俺の肉はいかほどで売れるかな?」

「叔父様?縁起でもない事を……」

「なに、ただの興味だ。で、どのくらいで売れる?」

「うーん。砂漠の獅子王の肉となったら、他国の連中も黙ってないと思うさ。ツェツェじゃ食人は習慣だけど、他の国では一部の信仰の類いさ。でも、人間の肉はツェツェでしか流通してないから、ツェツェまで買いに来るか、食べに来るさ。エルサール王の肉なら、家族を売ってでも買いにくる気違いが沢山いるさー」

「そうか。俺が死んだら、火葬の前に肉はお前とあの王にやろう」

「ほっ、本当さ!?」

「うむ。今回は大きな借りを作ったからな。どうせ焼けば骨しか残らんのだ個人的な礼として受け取れ」

「さすがは砂漠の獅子王さ!生きてる内から予約させてくれるなんて。最高級の料理にして、美味しく食べるから安心して欲しいさ」

「うむ。失敗するなよ?祟るぞ」

「絶対大丈夫さ!!うっひゃー!親父も喜ぶさ!」

 人肉でここまで盛り上がる会話を、ジョージはその後の人生においても知ることは無かったのだった。

只今、応援したい人を気軽に応援できる流れを作る為の第一段階としてセルフプロモーション中。詳しくはこちらを一読下さい。 http://ch.nicovideo.jp/shaberuP/blomaga/ar1692144 理念に賛同して頂ける皆さま、応援よろしくお願いします!