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珈琲の大霊師241

 エルフェン共和国、首都ガクシュ。世界のありとあらゆる研究の最先端を自負する知の宝庫だ。

 大陸最大の図書館に、政府機能が付加されており、各国の精鋭達が自国の技術を守るために、警備に当たっていた。

「ふわ~。凄い大きさですね。マルクの水宮より大きいかもしれません」

 その巨大さを前に、見上げても端の見えないモカナが声を上げた。

「この図書館、通称バビロンは200年かけて技術の最先端であるエルフェン共和国が作り上げた、芸術的にも技術的にも粋を尽くした建造物だからね。これで、更に広い地下図書館があるっていう噂よ」

 シオリが知識を披露すると、バリスタがフォローを入れるべく、モカナの横に立った。

「この地上階は、半分が研究棟で、内3分の2は未だに誰も入っていないんです。エルフェン共和国民にとって、ここに新しい研究室を構えることが人生においての1つの目標と言えます」

「じゃあ、ここに珈琲の研究室ができるんですね!楽しみです」

「あぎゃ!!」

 モカナは目を輝かせ、機嫌の良いモカナの気持ちを感じ取ったドロシーが、満面の笑みを浮かべていた。

「はい、そうです。珈琲の研究室は始めてですから、私が専学士兼室長となるでしょう」

「なるほど、そうなれば給金も相当か」

「はい。勿論、なれるのはごく一部です。私は、本当に運が良い」

「運だけなら、認めたりはしねえよ。しっかりやれよ」

「お任せ下さい!!」

 ジョージとバリスタは固く手を握り合うのだった。

 バビロン2階には、バリスタの同類が列を成していた。全員、新しい研究や既存研究についての成果を持ち込み、国の認定を得ようとする者達だった。

「うへぇ、煩そうな顔が沢山いるさぁ」

 と、ルビーは顔を顰めて一歩引いた。

 確かに、見ると一様に寝不足のくせに、目だけは爛々と輝いている連中だった。己の研究に誇りを持ち、世界に名を残すことを夢見ている連中だ。その列は呆れるほど長く、並んでいる者たち向けの飲食サービス、沐浴サービスもあるようだった。

「素敵ねぇ。ここが歴史の最前線っ!!」

 シオリは、なにやら1人で感動してすーはーすーはーと謎の深呼吸をしていた。歴史の息吹などと、意味不明の呟きをしている。

「人が、たくさん、いるんですね。見間違えると、困るので、手を、離さないで」

「うん。迷子になったら大変だもんね。大丈夫!しっかり握っててあげるから!」

 と、シオリがカルディの手を引く。

「多分、あそこが受付だな。行くぞバリスタ」

「はい、ジョージさん」

 珈琲を愛する男達は、度の中で互いの名で呼ぶ程度には仲を深めていたらしく、共に列の最後尾にある受付へと向かった。

「こんにちは、既存研究についての新技術の申請ですか?」

 と、受付嬢がにこやかに声をかける。その言葉を受けて、バリスタの腹にグッと力が入った。ここが最初の一歩となる。気遅れるな。

「いえ、新しい研究室の申請です」

 バリスタの固い声を聞いて、周囲がどよめいた。ここに並ぶ者達は、殆どが既存分野の新技術について、あるいは応用技術の申請だ。新しい研究室が認められる事は、10年に1度程度しかない。新分野のように思えても、実は既に研究室が存在する。そんな事が大半だ。

 分野被りを防ぐ為に、国が既存研究の一覧を作成してからのいうもの、新分野の申請そのものがなりを潜め、ここ数年は新分野の開拓はされていなかった。

「失礼ですが、既存分野はご確認頂いておりますか?」

「はい。確認しております」

「では、基礎研究論文をご提出下さい」

「こちらを」

 ドッサリ、という表現が合う、量の紙をバリスタが受付の机に置くと、周囲の連中からも歓声が漏れた。

「気合入ってるなぁ。新分野の開拓かぁ……」

 と、ぽつりと誰かの声が聞こえた。

「承りました。では、新分野の名称をこちらにお願いします」

「はい。ジョージさん、モカナさん、ここは私が書くべき欄ではないと思います。どうぞ、この世界の歴史に、名乗りを上げてください」

 バリスタが体を空け、モカナを手招く。言われるままに受付の前に立ったモカナの右手に、ジョージが同じく右手を重ねた。

 羽ペンを握らされ、驚くほど器用にモカナの手が動かされ、文字を紡ぎ出す。


【珈琲】

 この日、歴史に珈琲の名が正式に刻まれたのであった。

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