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珈琲の大霊師046

「今までの花の精伝説をまとめると、いくつか共通している事がある。まず最大の共通点は、その全てが女ってことだ」

 モカナが淹れた珈琲を飲み、頭がスッキリしてきたなと感じながらジョージは語り始めた。

「次に、死んだと思われる時期から3年以上の月日が必要。まあ、多分だがきっかり3年が必要なんだろうと思うぜ。リルケが良い例だな。起きた当日に、自分の命日だったって言ってたからな。次に、男に取り憑き、精気を吸う習性があるって事だ。別に吸わないと存在できないってわけでもないらしいがな」

 そうでなければ、長い間誰にも取り憑かなかったリルケの説明がつかないからだ。

「また、花から一定距離の範囲しか行動ができない。どうも、俺はこの行動規制が気になってな。サウロが調べてきた伝説にしたって、妹はその場所から動けなかった。だが、リルケにはその規制が無いだろ?そして、クエルにはその規制がある」

「同じ花の精でも、何かの条件が違う事で行動の範囲が変わってるという事になりますね」

 リフレールも、腕を組んでうんうんと真剣に話を聞いている。

「そう。で、考えてみたんだが・・・・・・。死んだ場所に、関係があるんじゃないかと俺は睨んでる」

 そう言ってジョージは珈琲を一口含んだ。

「大雑把に結論から言うと、死んだ後自分の死体の上に咲いた花。これが、移動できる花、精気を貰える花になるんじゃないか?ってな」

「精気を貰える花、ですか?」

「そう、花の精は男の精気を吸って生きてるって言ったが、リルケはそんな事をしなくても何年も生きていられたわけだしな。それに必要な精力はどこから貰っていたか?って考えると、名前の通り花からと考えるのが妥当だ。花から常に精気を吸って命を保つ必要があるとすれば、花から離れられないっていう習性にも納得がいくだろ?」

「そう・・・・・・ですね。それで、クエルの場合はそれがケシの花ということですか?」

「そう、まあ、そう睨んだからケシを切って撒きながら走ってケシ畑からクエルを隔離した後、撒いたケシをケシ畑から離れた場所に纏めて置けばクエルはそこから動けなくなるという仮説が成り立ったわけだ」

「リルケさんも言ってます。言われてみれば、思い当たるフシが沢山あるって」

 だろうな、とまたジョージは珈琲を一口啜った。鼻腔に酸味のあるアロマが広がった。

「で、ここからが重要なんだがな。花の精には、クエルや例の伝説の花の精みたいにある場所から動けない花の精と、リルケやクエルに会いに来た花の精みたいに動き回れる花の精がいる。これは、どう違うかって話だ」

 こういう論理や観察結果を披露する時のジョージは生き生きとしている。元来、思考が好きなタイプだというのが誰の目にも見て取れた。

「さっき死んでから、死体の近くで咲いた事がある花でないと、精気を吸えない。って仮説を話しただろ?恐らくは、死体の養分を吸った花に逆に寄生するような形になってると思うんだよな」

 ジョージがあっさりと明かすと、リフレールは納得したように何度も首を縦に振った。

「そういう事ですか。・・・・・・なるほど、さすがですねジョージさん」

「・・・・・・?ボク、分からないです」

 眉を寄せて、モカナが話題についていけない寂しさを顔で表現して見せると、リフレールは穏やかに微笑んで、モカナに視線を合わせた。

「この村は、花が特産品なだけあって花が本当に多種類あるけれど、どこにでも沢山の種類が生えていると思う?」

「え?・・・・・・あ、えっと、はい。・・・・・・うんうん、あっ!!」

「リルケさんに聞いた?花も、効率的に栽培するならある品種だけを纏めて植えて管理する事がある。手入れする時に他の植物は刈り取られてしまうから、もしその場所で死んだとすれば、その死体の上では一種類の花しか咲かない事もあるっていう事になるでしょう?」

「はい!だから、えっと、逆に寄せ植えだったり、管理されてない花畑で死んじゃったりすると色んな花の種がそこに運ばれてきて、沢山の花から精気を吸えるようになるんですね!?」

「そう。この仮説なら、クエルさんがケシ畑から動けなかったのは当然ね。ここは、ずっとあの男達に管理されていて、他の植物なんて生えられなかったでしょうから」

 リフレールがしきりに頷いていると、ジョージも満更ではなかったのか、少し得意げな顔をしてに珈琲を啜っていた。

「更に言うなら、花の精は恐らくその精気を吸える花の影響を徐々に受ける。不特定多数を虜にするのも、ケシならではの特性って所じゃないか?まあ、そんな事はここでは重要じゃない。これから、クエルを救うにはどうすればいいか。それが重要だ」

「えっと、クエルさんがここから動けないのが、クエルさんの死体がここにあるからだとすれば・・・・・・」

「気は進まないですけれど、死体を動かして雑多な花が咲いている場所に埋め直す。と、いうのはどうでしょうか?」

 リフレールの提案に、ジョージが最後の一滴を飲み干して頷いた。

「その辺が落とし所だろ。さて、そうと決まったらリルケには働いてもらわないとな」

 ジョージがそう言った瞬間に、ジョージの目の前にリルケが現れる。青い世界にジョージを呼んだのだ。

「ジョージさん凄いです!私、何をすればいいんですか!?」

「クエルの死体を捜す。もう20年以上の遺体だからなぁ、骨しか見つからないだろうが。その辺り、同じ花の精としてなんとかならないか?」

「うーん、やってみます・・・・・・」

 そう言って、クエルが目を閉じた。何かを感じようとしているようだ。

「リフレール、モカナもサウロとドロシーに頼んで捜させてみてくれ」

 見えない二人にも声をかけ、自身はどこか不自然なものがないかどうか地面を見て回った。

 

 二人の水精霊と、一人の花の精、三人の人間が始めた捜索競争は、意外な勝者で幕を閉じた。

「ここ」

 そう言って、嬉しそうににやーっと笑ったのは、なんとドロシーだった。

「同じにおいじゃ」

 えっへんと腰に手を当てて腹を突き出して見せた。胸を張ろうとしているらしかった。

 クエルの手を食べた時に、どうやら臭いを覚えたらしく、10分程で見つけてしまった。

 サウロが水を使って丁寧に掘り返すと、一揃いの人骨が姿を現した。

 なんとなく物悲しい気分になって、モカナは黙祷を捧げた。それを見たドロシーも、マネをして目を閉じたのだった。

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