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珈琲の大霊師248

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第31章


    珈琲学を囲む思惑

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 エルフェン共和国、首都ガクシュに到着した頃、まだシオリはぶちぶちと文句を言っていたが、取り合わないまま強引に連れ出して知の集積とも言うべき大図書館バビロンに入ると、途端にシオリの背筋がピンと伸びた。

 歴史の重みは、シオリに効果絶大のようだった。

 バビロン2階に到着すると、相変わらずの長蛇の列がとぐろを巻いていた。

 と、そこに明らかに場違いな存在感を放つ者が居た。その横顔は知的で美しく、誰もが羨む美貌。しかし無言で放つ覇気が引き篭もり気味の学者達を全く寄せ付けていなかった。

 何人か話しかけたいといったふうに様子を伺っている者がいたが、その女の視線を浴びた瞬間に石の様に固まっていた。

 女は退屈そうに溜息をついて、目を2階階段、つまりジョージ達へと向けた。

 次の瞬間、廊下に突然花畑が広がった。

 女の顔が大輪の花のようにほころび、咲き誇る。その美しさは、存在感はこうも影響を与えるのか。いつもは陰鬱な雰囲気のそこが、突然社交パーティーの華やかさを持ったかのようだった。

 女は長い上等な絹の民族衣装をなびかせて駆ける。跳ねるようなそのステップが、その喜びを表していた。

「ジョージさん!!」

 これ以上は無いというほど美しい笑みを、ただ1人に叩きつけて、女はジョージの胸元に飛び込んだ。

「おっ!?………っとぉ!おお、リフレール!久しぶりだなんむっ!?」

 唐突に、視界にリフレールの顔が迫ってきたかと思った瞬間、麗しき感触と共にジョージの唇にリフレールの熱いベーゼが降り注いだのであった。

「もう、ひどいですジョージさん。どうして手紙の1つも下さらないんですか?」

 間違いなく、ジョージにしか見せない女の顔をして、ジョージを困らせるリフレール。事情が分からず硬直している学者連中。そして、予想済み故に動じないモカナとルビー。白昼の痴態に思わず顔を背けるシオリ。そして、不思議そうに二人を"視て"いるカルディ。

「あ、いや。悪い。そっちの状況が掴めなかったんでな。どうやら、派手にやってるみたいじゃねえか。流石だな」

「ふふっ、意図的に情報を流した価値はありましたね。勝手に動いて申し訳ないとは思いましたが、ジョージさんならああしたのではないかと思いまして」

「どうせお前の事だ。噂以上にキツイ事もやったんだろ」

「あら、嫌ですわ。ただ機を逃さず、俊敏に立ち回っただけですわ。オホホホホ」

「うわぁ……あいつらに同情したくなるさぁ……」

 コロコロと笑うリフレールの胡散臭い綺麗な笑顔を見て、ルビーが会話に参加した。その肩から、ひょっこりとツァーリが顔を出した。

「サウロ、サウロは?」

 と、目を輝かせるツァーリに、頬を緩めるルビー。呼ばれて飛び出はしなかったが、水の渦が空中に舞い上がり、小さな人型を成す。

「ここだ。久しぶりだな」

「……うんっ、久し、ぶり」

 感極まったのか、声が詰まるツァーリを尻目に、リフレールとジョージは情報交換を始めていた。

「世界珈琲商会だが、俺が社長、お前が副社長と聞いてるが、他のメンツは?あとカフェは、サラク、マルク、無限回廊の3店舗か?」

「はい。重役として、各地の王族や有力貴族の名前を貸して頂いておりますが、実働部隊はマルクのコーディーさん以下マルク支社、サラクと無限回廊をドグマ配下の元貧民部隊によって構成された無限回廊支社、鋼の鎧によって構成されたサラク本社の3社です。他にも社と名ばかりの情報収集と買い付けを担う支社を、あの時襲撃に参加しなかった国から選出し、置いています。カフェは、その3店に加え現在ガクシュに支店を建設中です」

「ここにか。……ああ、俺達の行動を先読みしてか?」

「それもありますが、ここは知の国。頭が冴える飲み物は他国より需要がありますし、各国の頭脳が揃っていますから、建てない理由がありません」

「確かに。了解。他に重要な事は?」

「私とルナさんが無事妊娠しました」

 と、リフレールは嬉しそうに自分のお腹を撫でた。その顔は、いつもジョージに向ける女の顔だけでなく、不思議な慈愛に満ちていた。

「おお、そうなのか。………はっ!?」

 頭の天辺から抜けるようなジョージの声を、モカナは初めて聞いたのだった。

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