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私を育ててくれたもの③            お昼寝とお堂のほとけさま

私は4歳から8歳を京都で過ごした。
京都駅から見える東寺のすぐそばにある保育園に通っていた。
東寺保育園は大正11年設立の、保育園のさきがけともいえるところだった。
私は久しぶりに京都を訪ねることになり、
従兄弟に頼んで東寺保育園を探してもらった。

私が保育園に通っていたのは半世紀前のことである。
東寺保育園の入り口付近でうろうろしていると
「何かご用ですか」と声をかけられた。
「昔、私がここでお世話になっていたと思うんです」と、言ってみた。
その方は見も知らぬ私の話を聞いてくれて、
「卒園者の名簿がありますよ」と言ってくれたのだが、
私は途中で引っ越しして卒園まで在籍していなかった。
「広い場所に茣蓙を敷いて、みんなでお昼寝していたと思うんです」
と私がいうと、
「そうです、5年前に建て替えるまでそうしていました」と答えてくれた。
確かにこの場所に私はいたのだと想うと、
なんだかからだがじんわりとした。

まだ幼かった4、5歳の私のおぼろげな記憶に、
薄暗いお堂のようなところで、
みんなで並んで手を合わせてお参りをする光景がある。
それは私にとっては保育園の思い出だったが、
東寺に参拝してみてはっきりとわかった。
おそらく、東寺保育園の子どもたちは
東寺の仏様をたびたびお参りしていたのだろう。
私の記憶にあったのは保育園ではなく、東寺の仏像だったのだ。

そういえば、東寺の縁日に行った思い出もある。
かわいらしい飴細工のお菓子や、
お人形やおもちゃを買ってもらった楽しい日のこと。
ずうーっとずうーっと昔から建っていた五重塔からすれば、
50年なんてほんのわずかのことで、
私がその五重塔のすぐそばで、
やさしい人たちに育てられたのもほんの一瞬かもしれないけれど、
東寺の仏たちと私がともにあったのは確かなことのようだ。


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