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当たり前だと思っていた感覚 Fairy Friends_1

ミサは、ようやく自分が持つ感覚と経験が周りのそれと明らかに違うことに気づき始めていた。

これまではただ自分が少しズレてるとか、おっちょこちょいとか、寝ぼけているだけだと思っていた。それに実際本当に忘れ物が多いし、時間にもちょっとルーズだ。

だからその違和感に気づくのに少しばかり時間がかかった。いや、それは当たり前といえば当たり前かもしれない。

話し上手な両親のもとに生まれたミサは話を聞くのが大好きだったこともあり、あまり自分のことを語る機会が小学生になるまでなかった。

小学生になってからも、周りの様子を伺い、じっくり状況を見極めてから慎重に行動を移すタイプだったので自分を表現するという能力を身につけるのに時間がかかった。

だが小学校2年生の8歳になった時だった。美術の授業で、学校の周りで好きな場所を選び、そこから見える風景を描くというもの。

ミサは仲良しのサヤとシズカと3人で同じ場所に座って絵を描くことにした。

サヤはミサの幼稚園からの幼馴染だ。家も近く、よく近所の公園でよく遊んでいた。シズカは小学校から同じクラスになった子で席が近くなることが多くて仲良くなった。

実際に見える風景を描くなんて初めてのことだったので、ミサはとってもワクワクしていた。いつもはうまく言葉にすることも出来なかったキラキラとした世界を描けるからだ。

幼馴染のミサは何だか波長が合い、あまり言葉を交わさなくてもわかってくれることも多かった。それに大人には相手にされない話も真剣に聞いてくれて、分かるよと言ってくれた。

しばらく経つと、3人の絵が出来上がってきた。

シズカ「あれ、ミサちゃん。今日は風景を描くんだよ。いつもの自由なお絵かきとは違うんだよ。」

ミサ「え、うん。分かってるよ。」

サヤ「・・・。」

シズカ「じゃあ何で、鉄棒の下に大っきな耳の小さな女の子がいるの??」

ミサ「え、だって、そこにいるじゃない。」

シズカ「なに言ってるの、ミサちゃん。鉄棒の下にはだあれもいないわよ。今は授業中だもの」

サヤ「そうだよね、シズカ。ミサは小さい女の子を描くのが昔から好きだったから、そこにいるかのように見えたんじゃないかな」

シズカ「ふ〜〜ん。そうなんだ。ミサって、やっぱり不思議な子。」

そんな話をしているうちに、絵が完成する前に授業のチャイムがなった。

先生「はーーい、みんな。今日はここまで。続きはまた来週の美術の時間、天気が良かったらやりましょうね。」

シズカ「先生!ミサちゃんがちょっと絵の描き方を勘違いしちゃってたみたいなの。だからもう1枚紙をミサちゃんにあげてください」

先生「そうなの?ミサちゃん、ちょっと絵を見せてみて。」

絵を渋々見せるミサ。

先生「あらー、可愛い妖精さんね。ミサちゃんには妖精さんがいるように見えたのね。あの鉄棒のあたりはお花も咲いていて綺麗だものね。」

ミサ「ごめんなさい、先生。私、何か勘違いしてたでしょうか」

先生「...そんなことないわ。ただ今回はもう一枚だけ描いてみて」

ミサは先生が好きだ。いつも優しくて、でも言うべきことは言ってくれる。そんな人だったから。

そんな先生からもう一枚、紙を渡されるミサ。

サヤ「先生、私にも、もう一枚ください。うまく描けなかったらもう一回描きたいんです。」

先生「サヤちゃんは頑張り屋さんね。絵を描くのも好きなのかな?」

サヤ「そうなんです!今日の放課後、ミサちゃんと一緒に残ってちょっと描いて言ってもいいですか?」

先生「二人がいいなら、良いわよ。ただあまり暗くなる前に帰るのよ。」

サヤ「はーーーい!ありがとう先生。」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

そしてその放課後、二人はまた同じ場所に座っていた。

ミサ「サヤ、どうしてあんなこと言ったの?サヤの絵は上手く描けていたじゃない。」

サヤ「へへ、ありがとうね、ミサ。だけどシズカがあんな風に言うし、ちょっとミサと二人で話したいなと思ってさ」

ミサ「話?一体なにを?」

サヤ「なにをって、絵のことだよ。決まってるじゃん!」

ミサ「・・・え、わざわざ私の絵が変だからって教えようとしてくれてるとか?」

サヤ「いや、そんなんじゃないよ。あの鉄棒の下にミサが描いた女の子のことよ。」

ミサ「あぁ、、、そういえばもういなくなっちゃったなぁ。」

サヤ「ミサ、あのね。実は私も鉄棒の下に何かがいるような気はしていたの。」

ミサ「え?いるような気がしただけ??実際にいたじゃない。」

サヤ「分かるわ。ミサにはちゃんと見えていたんだと思う。」

ミサ「サヤには見えていなかったの??」

サヤ「見えていないことはないけど、、、私にはキラキラッとした何かがフワフワと浮いているぐらいにしか見えなかったの。ほら、みて私の絵」

サヤが授業中に描いていた絵では鉄棒の下にキラキラとした光が描かれていた。

サヤ「私ね、シズカちゃんの絵をチラッと見ていたの。そしたらあの子の絵には鉄棒しか書かれてなかったの。多分私が何も言われなかったのは、鉄棒の前に水たまりがあって、太陽の光が反射してキラキラしていたからだと思うの。」

ミサ「そうなんだ。。。じゃあ私たちにしか見えない女の子だったってこと?」

サヤ「正確にはね、ミサにしか見えていないんだと思う。私にぼんやりとしか見えない。というか見えなくなってきてる。」

ミサ「え、どういうこと???」

サヤ「私たち小さい頃から何か気があったじゃない。公園で遊んでいても、蝶々を追いかけたり、石さんとお話をしたり。」

ミサ「うん。」

サヤ「だけどお父さんやお母さんには話しても、そうなんだ〜って相手にしてもらえないことって多かったよね。小さい女の子とのおしゃべりとかさ」

ミサ「そうだね。人形さんごっこでもしていたのかな?とか言われてた」

サヤ「今日のね、美術の授業で確信したの。ミサはみんなが見えない何かが見える。。魔法使いみたいな人なんじゃないかなって」

ミサ「魔法使い???なんで、じゃあサヤもそうでしょ。」

サヤ「ううん、、私はなんか違うと思う。あのね、幼稚園の時は見えていた小さい女の子とか、私はもうはっきり見えないの。なんかキラキラとしたものとしか。」

ミサ「ええ。。。そうなんだ。。」

サヤ「だからね、ミサ。あんまり小さい女の子とか、だれかとお話したことは学校の人には言わないほうがいいと思う。」

ミサ「どうして?」

サヤ「お母さんが言ってたの。学校ではね、イジメっていうのがあって、自分と意見が合わなかったり、変だなって思われることをすると叩かれたり、バカにされちゃったりするんだって。それってとっても辛いことだって。」

ミサ「へーーそうなんだ。。。。それはいやだなぁ。。だけど、どうしよう。自分にとっては当たり前過ぎてなぁ。みんなにとってもそれは見えるし、聞こえるものだと思ってきたから。。。どれがみんなが見えていて、どれがみんなが見えないものなのか分かんないや」

サヤ「・・・。それもそうだよね。じゃあさ、今日みたいにこうやって二人でお絵描きをして、少しずつ答え合わせをしていきましょうよ。あと、シズカや他のお友達と話していて、変だなぁと思うことがあったら、私に教えて。何でか一緒に確かめてみるから」

ミサ「うん、わかった。サヤ、ありがとう。」

サヤ「ううん。いいの。私、ちょっと小さい女の子が見えなくなっちゃってて、寂しかったの。もう遊べないのかなって。会えないのかなって」

ミサ「そうなんだ。」

サヤ「だけど、ミサがまだハッキリ見えているみたいだから嬉しいの」

それから二人は目に見える風景を絵に描いてみたり、日記を書いたりして、お互いの間にある違いを見比べたりしながら”見えざるもの””聞こえざるもの”の存在を確かめていくようになった。

(続く)

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