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新たな時代の家族のかたち/『#家族募集します』

TBSの金曜ドラマ『#家族募集します』がとても素晴らしい、素敵で面白い、という話をします。

今週は週明け早々、メンタルをガリガリ削られる事案が続けて起こり、ストレスが一気に最高潮に達してしまった。

なんとか対処し、ストレスを解消するための個人的なルーティーンをこなし、一息つけた。しかし依然として、追加で一発いいパンチをもらえばダウンしそうな状態だったため、お気に入りのフィクションに触れてメンタルを落ち着けようとした。

とはいえ、触れることでメンタルに負荷がかかるような作品はきつい。陰謀劇や暴力描写があるもの、人の命が危険にさらされるような作品は避けたい。できればあまり大きな事件は起きず、登場人物たちが穏やかに平和に過ごしていくような作品がいい。

うってつけの作品はすぐに思い当たった。今季放送中のドラマ『#家族募集します』だ。今週は毎晩、仕事終わりにこのドラマの録画を見返していた。精神的に疲れてはいたものの、初めての視聴時よりずっと面白く見ることができた。そしてこのドラマの物語がとても深く考え抜かれていることに気付き、ストレスもすっかり忘れて感動してしまった。

お好み焼き屋「にじや」に集う、わけありシングルたちの群像劇

『#家族募集します』は、それぞれ異なる事情を抱えたシングルファーザー/マザーとその子どもたちのハートフルな群像劇。SNSに投稿された「#家族募集します」というハッシュタグに導かれ、下町の古びたお好み焼き屋「にじや」に集った彼らが、手探りで新しい家族になっていく過程を描く。

主人公の赤城俊平(演:重岡大毅)は物語開始時点で、100日ほど前に突然シングルになったばかり。絵本の出版社で働きながら、5歳の一人息子・陽(はる)の子育てに日々奮闘している。

そんな暮らしのなかで、俊平は偶然、学童時代の幼馴染である小山内蒼介(演:仲野太賀)に再会する。自身が住み込みで働く「にじや」の立て直しを模索していた蒼介は、俊平がシングルになった経緯を聞き、あることを思いつく。

それは店舗の2階をシングルファーザー/マザー用のシェアハウスとして活用し家賃収入を得るとともに、シングル家庭が抱える悩みや苦労をみんなで分かち合い、解消していこうというアイディア。現実的でないと呆れる俊平をしり目に、蒼介はSNSに「#家族募集します」と投稿する。

このハッシュタグをきっかけに、物事を堅苦しく考えがちな小学校教師のシングルマザー・桃田礼(演:木村文乃)とその娘の雫、シングルマザーながら歌手になる夢を追う横瀬めいく(演:岸井ゆきの)とその息子の大地が「にじや」を訪れる。3組のシングル親子と蒼介は、時にすれ違いや価値観の相違に直面しつつも、少しずつ新しい家族になっていく。

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「家族」は、手探りのコミュニケーションの積み重ね

このドラマの何が良いかといえば、まずは俳優陣の演技が素晴らしい。重岡大毅演じる俊平は、常に明るい笑顔で息子や周囲に接している。しかし突然理不尽に引き離されることになった妻・みどり(演:山本美月)への思いや、仕事と子育ての両立に苦戦するなど悩みも抱えている。

俊平の笑顔には、ときどきふと別の感情がにじむ瞬間がある。演じる重岡さんの確かな演技力を実感するとともに、笑顔にもいろいろな種類があることを思い出す。苦しさを押し殺してあえて笑うこともある。胸の内に閉じ込めていた感情があふれ出して、笑っているのに泣いてしまうこともある。第1話終盤の重岡さんの演技は本当にすごかった。

残る主要キャストの3人も演技達者ばかり。ある意味で物語の発端を作った蒼介は、最近あまり見かけなくなったお節介な兄貴分タイプ。みんなのためにと思い立ったらすぐ行動を起こすが、空回りも多く周囲は振り回されることも。しかし裏表のないさっぱりした性格で、みんな呆れつつも笑ってついていく。

堅物な小学校教師・礼も俊平同様、子育てや仕事の苦労を1人で抱え込むタイプだ。普段は小学校で児童を教育する立場もあり、物語開始時点では「できるだけ誰にも頼らない」と決め、教師としても母親としても完ぺき主義を目指している。

礼はその生真面目さから、単純な蒼介や自由奔放なめいくと、たびたびぶつかる。しかし彼らや子どもたちとのコミュニケーションを通じて、彼らの個性や自分との違いを認め、そして彼らの影響を受けて自身も変わっていく。

「シングルマザーだって、夢を捨てなくてもいいでしょう」というセリフとともに現れた横瀬めいくは、(本格的に登場した)第2話にして物語を一気に揺らがせた。様々な人がいて、様々な事情がある。めいくはそれを象徴するような人物だと思う。

背景も事情も個性も価値観も、何もかも違う3組のシングル親子と蒼介が家族になっていく過程で、彼らは手探りかつ細やかなコミュニケーションを繰り返す。意見の相違も小さな衝突も時にはある。

しかし、一方的に相手を否定することはない。違いを認め合ったり、異なる選択肢を提案したり、前向きなコミュニケーションを積み重ねることで、家族としてわかり合っていく。それを表現する俳優陣の演技がすごい。子役たちの演技も、とてもいい(子どもが何か頑張っているのを見るだけで涙腺が緩んでしまう)。

つい「家族なんだから、何も言わなくてもわかってくれるだろう」と思ってしまいがちだが、そうではない。互いに尊重し合って、話し合っていくことで家族になり、それを維持していくことができる。登場人物たちのコミュニケーションの温かさ、前向きさが見ていてとても心地よい。

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新しい時代の家族像は、戦隊ヒーローもの?

『#家族募集します』の物語には、「トリプルファイブ」という架空の戦隊ヒーローが登場する。俊平が幼少期から空想していたオリジナルの戦隊もので、息子の陽も気に入ってよく絵を描いたりしている。

第1話を見直したところ、「普段5人はそれぞれ別の仕事をしているんだけど、仲間がピンチの時はしろがね博士の秘密基地に集合する」という設定を俊平が語るシーンがあった。これは「にじや」メンバーの境遇にだぶる。

主要人物の名前にはそれぞれ色が入っている。俊平は赤、蒼介は青、礼は桃、めいくは黄(横瀬)、そして物語には直接登場しない俊平の妻の名前はみどり。「にじや」の店主でおやっさんと呼ばれる野田銀治(演:石橋蓮司)は銀(=しろがね)。

第4話から「追加戦士」として、娘のいつきとともに登場する黒崎徹(演:橋本じゅん)は黒。「にじや」に集う家族が、架空の戦隊ヒーローの設定に重なる。異なる色が集まってひとつになるのは、「にじ(虹)や」のイメージにも通じる。様々に色を変える東京スカイツリーが作中で時々登場するのも、戦隊ものや虹と重ねているのかもしれない。

第5話では、蒼介が集客のために企画したお祭りイベント「にじやフェス」が描かれる。すでにある程度仲良くまとまっていた「にじや」メンバーに黒崎といつきが加わるのかどうか、そして黒崎親子のすれ違いは解消できるのか――が第5話の軸だが、そのなかにとても印象的なシーンがあった。

俊平がほかのメンバーに内緒でフェスに招いた黒崎と打ち解けるため、陽が大人たちに「トリプルファイブ」のお面を手渡し、みんなで決めポーズを取るシーンがある。黒崎も含め大人たちはそれぞれの名前の色のお面をかぶるのだが、大人たちに交じり、陽がグリーンのお面をかぶってポーズを取る。

最初にこのシーンを見た時、「あれ、陽くん以前の話ではレッドのお面をかぶってなかったっけ?」とちょっとした疑問を抱いた。今回1話を見返したところ、その疑問の答えを見つけた。第1話で、「お母さんに会いたい」とぐずる陽に、俊平が「お母さんはトリプルグリーンになるって連絡があった」とみどりの不在を取り繕うための嘘をつくシーンがあったのだ。

俊平は後に、お母さんと会えない本当の理由を陽に打ち明ける。そしてその後の第5話で、陽がグリーンのお面をかぶって戦隊の一員としてポーズを取っている。これは、物語に直接登場することができないみどりも、「にじや」で生まれた新しい家族の一員という意味なのではないか。これに思い当たった時、ストレスとかマジでどうでもよくなるくらい泣いてしまった(1人暮らしをいいことに割とガッツリ泣いたので、もし全然違う意味だったらちょっと恥ずかしい)。

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高圧的な態度で当初はにじやメンバーとギクシャクしていた黒崎も、第6話では嘘のように柔らかな表情で打ち解ける。そしてアラサー世代の俊平らとも、高齢で達観している銀治とも異なる、社会経験豊富な年長者(アラフィフくらいだろうか?)の立場から意見を述べるなど、しっかりと「追加戦士」の役割を果たしていた。

あす放送の第7話では、互いに意識し合っている俊平と礼にスポットが当たるようだ。そして黒崎は娘のいつきとさらに向き合い、銀治の過去も描かれるらしい。どんな展開になるのか、楽しみに待ちたい。

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