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【笑いのカイブツ】笑いの才能ってなんだろう。


僕は映画館が好きです。それも、ちょっと早めに館内に入るのが。ひとりで絶対に食べきれない量のポップコーンとペプシコーラを買って入るのが。

しんとした館内。歩くたびに、カップの中のペプシコーラがゆれて、氷がカラカラとなるあの感じ。真っ暗の中、微かな光を頼りに自分の席まで歩いて行って。ようやく席に座ると思ったよりも椅子が深く沈むあの感じ。普段の生活だと鼓膜がしんどいくらいの音が、映画館の中だけでは、興奮を掻き立てる。ギラギラと動く大画面から放たれる光を浴びて、ノールックでポップコーンを鷲掴みにして口へと運ぶ。館内は大音量のはずなのに、ふとした瞬間の無音に、ポップコーンを噛み砕く音が響き渡る。

ようやくはじまる。

そう思わせてくれる、そんな感じが好きです。 


先日、前職の先輩から「絶対笑いのカイブツ見たほうがいい」というLINEが突如送られてきました。

この世にそんな絶対なんてことあるかと少し疑問に感じたものの、辞めた後にもこうやってLINEを送ってくれる先輩がいて、「絶対」なんていう強い言葉で強制力を行使してくれる先輩がいることにありがたいなあなんて思いながら、その場で当日のナイトシアターのチケットを買って観てきました。

「笑いのカイブツ」

大阪のとある一室でひとり、5秒に1回アラームを鳴らしながら雑に破られた紙に限りなく小さい文字を書き続ける男がいる。

彼の名は、ツチヤタカユキ。

ラジオ界隈の中では少しばかり有名な男で、「伝説のハガキ職人」という肩書をもっている。

ハガキ職人。

ラジオ番組でのある企画で、大喜利をして、その回答をリスナーの中から募集する。面白い回答はラジオ番組内で取り上げられ、取り上げられ続けると「レジェンド」の称号が与えられる。

彼はまさにその「レジェンド」だった。

ある日、ラジオパーソナリティのお笑いコンビベーコンズの西寺より「ツチヤ、漫才一緒に作らないか」と声がかかる。

ツチヤは二つ返事で承諾し、上京する。

彼は、「ハガキ職人」として大好きなお笑いを追求し続けた結果、人気お笑いコンビの脚本家になった。

ようやく自分の真のオモロさが世に知れ渡る。

そのはずだったのに。

お笑いの世界は、ただオモロい奴が成り上がるほど単純な世界でもなかった。

蓋を開けてみると、大してオモロくもない奴が周りに媚を売って仕事を勝ち取っていく。自分よりもオモロない偉い奴にヘコヘコ頭下げて何がオモロいん。自分は5秒に1回ボケているのに、その間呑気に呑みに行っている奴が世間に「オモロい」と認められていく。そいつは何してるん?媚売ってるだけやん。それはほんまのお笑いなん?

人間関係が苦手だったツチヤは、自分をオモロいと認めてくれるベーコンズの西寺だけを慕って、他を見下していた。

しかし、一向にツチヤは日の目を見ることができず、ついには鬱になり、人生を、命を賭けたお笑いを辞めることを決断する。

笑いに魅了された男が笑いに潰される。

笑いのカイブツは、自分のオモロいだけを追求したツチヤだったのか。もしくは笑いのカイブツが、ツチヤを潰したのか。

ツチヤは、世間が良しとする媚びや社内政治、社会常識までもを捨て去って真の笑いを追求するも、命を削ってまでして突き詰めた笑いが「真の笑い」なのかを決めるのは、皮肉なことに世間であるという事実。

「真の笑い」を突き詰めたツチヤも結局は、自分を認めてくれる西寺にだけいい顔をして、西寺にだけウケる笑いを追求しただけだった。結局は、媚を売って、ヘコヘコしていた、ツチヤが完全に見下していた奴と同類だったという。

この世界に果たして「真」は存在するのか。「真」を「真」と決めるのは果たして誰なのか。

結局は全てマーケティングなのだと、僕は思います。

自分が表現したいものと、それを評価してほしい人。評価者のニーズをどれだけ把握して、自分の表現したいものをその評価者好みにどう編集するか。

評価してほしい人間に「それは真だ」と言われたら、もうそれは「真」なのである。

「真」のオモロい奴として言われるダウンタウンも、さんまも、ビートたけしも、結局は評価者である世間から「あの人の笑いは真だ」と言われたからにすぎない。

「真」のオモロい文章を書きたい僕は、評価者である世間が何をオモロいと思うのかを把握して、世間好みに自分の中での「真」を加工していくしかないのか。

それでも僕は、ツチヤのように自分の「真」を貫こうと不器用にもがく人間の方が素敵だし、かっこいいなと思ってしまいます。どこか同じく人間関係が不得意な自分をツチヤに重ねて見てしまっていたのかもしれませんが。

#映画にまつわる思い出






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