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国連環境計画(UNEP)のスペシャリストが挑む!アジアのプラスチック廃棄物問題

今回の記事は、先週の外務省のODAメルマガに載せていただいた内容を拡大してお届けします。このような機会をいただきまして、外務省様ありがとうございます。ちなみに、以前は外務省の日本と国連のパンフレットにも記事を書く機会に恵まれました。国連とODAは何のつながりがあるの?と思うかもしれませんが、私の職場、UNEPは政府や様々なドナーから協力しながら、開発途上国における環境問題解決に向けた取組を実施しています。特に、私が働いているUNEP国際環境技術センターは、1992年に日本政府の誘致で設立されたUNEPの一部署であるため、外務省、環境省、農林水産省を中心とした日本政府の皆様と日々一緒に仕事をしております。では、以下が外務省のODAメルマガに書かせていただいた記事に、少々追加した拡大版になります。

ODAメールマガジン 2020年8月28日号

日本でもレジ袋有料化が始まり、今までのプラスチックに依存した生活・習慣においてパラダイムシフトの第一歩が起こりました。これを機に、皆さんも地球を守るために自分で何かできないか、と考えるようになったと思います。地球を守るための行動(サステナビリティ・アクション)を起こすためにも、持続可能な開発目標2030(SDGs)を私たちの生活や事業の中心に組み込まなければなりません。

【拡大版:レジ袋有料化が始まって2か月経ちました。色々なニュースや実際にスーパーで見ると、多くの方がマイバックを使うのが当たり前になったと思います。皆さん、何か心境の変化はありましたか?一つは、資源の無駄遣いを減らすために、自分自身が当事者となった、と感じませんか?少々めんどくさいけど、マイバックを使えば、多少はプラスチックの使用量を減らせる、という事はごみの量を少しは減らせるかもしれない。もう少し工夫してごみの分別をしてみよう、ごみを出さないようにするためにお買い物に工夫してみる、とか。その心の変化、重要です、レジ袋有料化の真の目的はそこにあります。】

国連環境計画 国際環境技術センターのミッションは?

私が勤務する国連環境計画(UNEP)国際環境技術センター(IETC)は、1990年に大阪で開催された「国際花と緑の博覧会」のレガシーとして日本政府が誘致し、1992年に設立されました。UNEP IETCは、UNEPにおける廃棄物担当部署として、プラスチック廃棄物管理や水銀廃棄物管理、廃棄物と気候変動問題、民間企業との連携によるUNEPサステナビリティアクション等、幅広い活動を実施しています。

【拡大版:UNEP IETCをもう少々紹介しますと、組織的には、UNEP本部(本部:ケニア・ナイロビ)→経済局(局本部:フランス・パリ)→化学物質・保健課(課長がいるのがスイス・ジュネーブ)、そして廃棄物を担当している”室”がIETCとなります。ちなみに、僕の直属上司はアメリカ人、課長はカナダ人でジュネーブ在中、局長は本部のナイロビ在中のインド人、事務局長はナイロビ在中のデンマーク人、UNEP全体の職員数は約700名。そのうち日本人職員は約20名程度です。世界各地に事務所があります。】

現在私が主に取り組んでいるのが、プラスチック廃棄物の適正管理を実施するために、アジア各国に対して技術的な支援を行うプロジェクトです。これは日本政府の支援を受けて進めているもので、アジア各国が必要としている環境技術情報のニーズ・シーズ調査を行い、デジタル技術を活用した廃棄物管理技術に関するデジタルプラットフォームを構築し、デジタル化社会における新たな環境技術支援活動などを推進しています。

【拡大版:僕はUNEPの廃棄物管理担当職員として、色々な仕事をしています。もともとは、前職でバーゼル条約や水俣条約などの国際交渉を担当していたこともあり、有害廃棄物や電気電子機器廃棄物(E-waste)水銀廃棄物管理などの政策面が中心の仕事でした。でも、最近は、例えばプラスチック廃棄物のように、より生活に近い”ごみ”も担当するようになりました。ごみ問題と言うのは、一番身近な環境問題です。地球上の全ての人は、必ず毎日何かのごみを出します。それをポイ捨てするのか、ちゃんと適正にリサイクル・処理・処分するかで、地球の未来が変わります。また、最近の仕事の一つとして、国連業務のデジタル化、デジタル化技術と環境管理技術の融合化、デジタル化社会とデジタル技術での環境問題解決、と言う新たな分野にも挑戦しています。】

ミャンマーの埋立処分場を調査。水俣条約における廃棄物処分場から大気への水銀排出モニタリングを実施した【拡大版:炎天下の中でまぶしいうえに自撮りのため、少々表情が硬くてすみません】

SDGsスタンダードな環境技術とは?

アジア各国が必要としている環境技術とは、どのようなものでしょうか? 環境技術はその国の経済レベル状況で異なるため、それぞれの国が必要としている身の丈の範囲で役立つ技術を利用する必要があります。そして、その技術は環境を守りつつ、人間の生活をよくするという原点から考えなくてはなりません。

〇 低所得国であれば、貧困をなくすため
〇 下位中所得国であれば、経済基盤をつくるため
〇 上位所得国であれば、都市経済を発展させるため
〇 高所得国であれば、持続可能な社会を構築するため

この考え方に基づき求められる環境技術を、SDGsスタンダードな技術と呼んでいるのです。実際にアジア各国が必要としている環境技術とは、各国の社会・経済的な状況に合うシンプルな環境技術です。例えば、現地の技術力で施設・機器のアップグレードやメンテナンスが可能な環境技術、地方創生を目指したコミュニティレベルにおいて、小さな循環型社会を形成できる環境技術などです。このシンプルな環境技術を導入するには、そのコミュニティが直面しているSDGsを明確にし、その社会的課題を自らの手で解決するために役立つ環境技術の導入が必要です。

【拡大版:SDGsスタンダードな環境技術は、以前に一度記事を書きました。現在、次の記事を検討中】

プラスチック廃棄物に関しては、どのようなSDGsスタンダードな環境技術が望まれているでしょうか? 一例としてはペットボトルのリサイクルシステム・技術が挙げられています。アジアの多くの都市、特に地方都市では、ペットボトル入りの飲料水があるからこそ、衛生的に安心な水を飲むことが可能です。しかし、一度使用したペットボトルの多くは、そのまま埋立処分場に廃棄されています。

これら使用済みペットボトルを、処分場に行く前にコミュニティレベルで回収し、シンプルなリサイクル技術により循環資源としてよみがえらせることが可能です。これにより、コミュニティにおける社会的課題と環境問題も同時に解決できる、小さな循環経済を構築することにつながります。SDGsスタンダードな環境技術アプローチは、持続可能な未来都市に重要な役割を果たす、分散型かつ強靭な街づくりの一歩となるでしょう。

UNEP IETCではこのような社会的課題解決に向けた各種廃棄物管理プロジェクトを実施しています。SDGsスタンダードな環境技術を活用して、気候変動対策や環境上適正な廃棄物管理を実施し、その結果として経済的利益も生むことができる「グリーン・ニューディール」の構築を目指しています。

インドネシアの埋立処分場。約60mにも積みあがった廃棄物

ミャンマーの埋立処分場から回収されたペットボトル

【拡大版:数値を用いて補足。地球上では毎分200万枚のレジ袋が使われています。その主要な最終的な行き先が、このような写真の場所、埋立処分場です。日本人的感覚からすると「ここに最終的に捨てちゃ、だめでしょう」と思うかもしれませんが、多くの国にとってはこれがスタンダードです。地球上では1年間に約21億トンもの一般ごみが排出されています。その半分は、このような多くの国での”スタンダードな”処分場に運ばれます。

21億トンのうち、プラスチックごみは約14.3%の3億トン。そのうちレジ袋は約5000万トン。一般ごみからするとレジ袋のごみの量は約2.4%なので少ないかもしれません。でもゼロではないのです。日本においても「レジ袋有料化で削減できる量はわずかしかないので、あまり効果がないのでは?意味ないのでは?」と言う論点も聞かれます。そうかもしれませんが”ゼロ”ではないのです。ミラクルな方法はないので、「小さなことからコツコツと」していくことが、地球環境問題を解決することにつながります。皆さんのその「エコバックをつかう、当たり前の暮らし」が、地球環境に貢献しています。】

プラスチックごみ問題解決に向け、UNEPサステナビリティアクションをスタート

UNEP IETCは、2019年5月に「プラスチックごみ問題に関する国連環境計画シンポジウム」を開催しました。シンポジウムでは、海洋プラスチックごみ問題が世界的に深刻な問題となっていることを踏まえ、国際機関・政府機関・地方自治体・民間企業等の取組の紹介や連携戦略についてパネル・ディスカッションが行われました。その結果を踏まえて、同年6月に開催されたG20大阪サミットおよび関係閣僚会合に対するメッセージを、日本政府に伝達しました。

プラスチックごみ問題に関する国連環境計画シンポジウム」におけるパネル・ディスカッション

このシンポジウムの成果として、2020年6月1日、UNEPは株式会社ファーストリテイリング、株式会社セブン&アイ・ホールディングス、地球環境センターと共に、UNEPサステナビリティアクションをスタートさせました。UNEPサステナビリティアクションは、地球環境問題、特にサステナブルな社会の促進を目的とし、分野・業界・国境を越えて、国連・政府・企業・市民・その他機関がつながる横断的なプラットフォームです。

【拡大版:UNEPサステナビリティアクションの基本コンセプトは、例えば、セブンイレブンでおにぎりを買ってマイバックに入れる、ユニクロで服を買って同じマイバックをつかう、のような、普段の暮らしのその何気ないアクションが、私たち消費者やお店や国連や政府機関が同じ目的に向かって一緒に力を合わせたら、ものすごい大きな力になるのでは、と言う思いです。当初は、新たなアプローチで色々なキャンペーン活動を実施する予定でしたが、コロナの影響を受けて作戦変更中です。楽しい企画を考えておりますので、少々お待ちください。】

地球誕生から約46億年の歴史を1年で表す地球カレンダーを用いて考えると、すべての環境問題は、わずか2秒間で起きています。地球が自然に創りだした究極のエコシステムを取り戻すため、今後は、私たちが培った英知とテクノロジーをフル活用して、サステナブルな社会へ転換していかなければなりません。人間社会の暮らし方が自然と一体化したその時に、SDGsで掲げられている全ての課題が解決するでしょう。サステナビリティ×創造力を活用して、私たちはこの壮大な目標に挑戦しなければなりません。

【拡大版:このポイントは以前も記事で書きましたが、改めてお話しさせてください。地球46億年の歴史を振り返ると、ほんの300年ほど前までは、人間も地球が作り出した究極のエコシステムの一部として、自然のサステナブルな生活を手にしていました。でも、人間の知恵が生み出した地球資源をエネルギーとして使う産業革命が始まった瞬間から、私たちは地球環境を不可逆的に破壊を始めました。地球の歴史を1年で見る地球カレンダーでは、わずか2秒の出来事です。しかも、私たちがその破壊行為に気がついたのはほんの50年ほど前からです。地球の天然資源を一方通行に使い続け、それを大気中に出し続けている。地球温暖化は、人間の行為の影響に対する地球の自然の反応であると言えるでしょう。

では、私たちに何ができるか?この答えの一つは「レジ袋有料化」の真の目的と同じです。私たち人間が引き起こした全ての環境問題の解決へのミラクルな方法はありません。普段の暮らしでできる小さなサステナビリティアクションをコツコツとすることが一番重要です。地球上76億人の人が、小さなサステナビリティアクションをしたら、どうでしょうか、想像してみてください。今の世代では無理かもしれませんが、次の世代では、少しやさしい環境の地球に戻っているでしょう。】

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