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SDGsスタンダードな環境技術とは?

廃棄物管理に必要な環境技術を考える

SDGsスタンダード、は聞いたことがありますか?これは後ほど議論します。

環境技術は想像できるでしょう。僕が今所属している国連環境計画国際環境技術センターのミッションは、「途上国と経済移行国に対して環境上適正な技術の利用を促進する」こと。環境上適正な技術と言うのは、例えば廃棄物に関しては、環境汚染をもたらすことのない廃棄物管理・処理技術、つまり分別→収集→保管→前処理→処理→処分の廃棄物管理に関係するすべての技術を言います。

開発途上国が必要としている環境技術を、どのように現状のニーズに合わせて支援するか、と言う概念を突き止めてると見えてくるのが、SDGsスタンダードな環境技術です。

廃棄物管理・処理技術とは?

例えば一般家庭ごみの場合、皆さん何かを「捨てる」と決めた場合、先ず手作業で分別してごみ箱に捨てて、決まった日にごみステーションに運ぶ、ここまでが私たちの日常のごみに対するアクションだと思います。未来は、もしかしたらここにもメカニカルまたはIT技術が入り込み、自動分別・各家庭でリサイクル処理ができる環境技術が生まれているかもしれませんね。いわゆる分散型で限界費用ゼロとなった廃棄物管理(そのころは、廃棄物と言う単語は死語になっていて、資源循環が100%になっているかもしれませんね)。これは別の機会に詳細を掘り下げていこうと思います。

では、私たちがごみステーションにごみを捨てた後はどうなるでしょうか?街中で見かけるゴミ収集車、これはれっきとした環境技術です。普段の生活で見かけるゴミ収集車、実は優秀なんです。日本のごみ収集車もJICAを通して海外に技術移転している例が多数あります(コソボスーダンバングラデッシュなど)。各家庭から集めた一般ごみは、ごみ焼却場に運ばれ、ここで日本の最先端の焼却場・サーマルリサイクルで処理されます。

所得と廃棄物管理の関係

ではここで、開発途上国における廃棄物管理、特に廃棄物管理技術について少し掘り下げてみよう。次の図は、経済成長と廃棄物管理の関係を表したもの。僕がJICA研修や電気電子機器廃棄物関連の専門会議で何回か使ったスライド。このスライドを作るために参考にしたのは、世界2大廃棄物管理報告書の、UNEPの世界廃棄物概況、と世界銀行のWhat a Waste 2.0、過去に出席した専門会議での議論や日頃の業務で耳に入る情報がベース。これらの情報を自分なりの考えをまとめたのがこのスライド。横軸は世界銀行の一人当たり国民所得(GNI)の4カテゴリー(低所得国:1,025ドルまたはそれ以下、下位中所得国:1,026~3,995ドル、上位中所得国:3,996~12,375ドル、高所得国:12,376ドルまたはそれ以上。縦軸は、環境上適正な管理レベルを概念的に考えた場合の高低。ちなみに、環境上適正な管理の考え方は、バーゼル条約の定義(第2条第8項)に沿って考えました。

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まず全体背景について個々の所得レベルを説明すると:

〇低所得国(1,025ドルまたはそれ以下):簡単に言うと、いわゆるインフォーマルセクターがノーマルである状態。誰も管理していないけど、ごみを資源として商売をしている個人の集団が主なプレイヤーである状態。インフォーマルセクターとは何ぞやであるが、日本の場合はごみ収集業は都道府県知事の認可制、例えば、ごみ収集業と言うのは皆さんがお住いの組長が許可した公式な(フォーマルな)部門(セクター)。そうではなく、日本でもよく見るが、街中でアルミ缶を集めている人たちは非公式(インフォーマルな)部門(セクター)。この人たちは法律上はかなりブラックに近いグレーであるが、実際は誰も気にしていないのが現状でしょう(仕事柄、僕は気になるが...)。でも少なくともアルミ缶を資源として回収する、という循環経済社会におけるプレイヤーであるには間違いない。低所得国においては、ほぼほぼ全てのごみが何も管理されていないオープンダンプ埋立処分場に運ばれている。ここで重要なプレイヤーでありノーマルなのがこのインフォーマルセクター。ごみの山からプラスチックやPETボトル、段ボールなどのありとあらゆる資源ごみをほぼ手作業で回収して、リサイクル素材として私たちの社会に戻しています。インフォーマルセクターは、ピラミッド組織・ネットワークが確立しています。

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〇下位中所得国(1,026~3,995ドル):僕が考える仮説は、所得が年間1000ドルを超えてくると、各家庭において少なくとも最低限の分別(日本風に言うと燃えるゴミと燃えないゴミ)が徐々に始まってくる。行政側もようやく廃棄物管理に手を打ち始めるのが、GNIとして1000ドルから2000ドルあたり。と言っても、いきなり何かの技術と呼ばれるものを導入するのではなく、今まで使ってきたオープンダンプ処分場の管理を始める、行政とインフォーマルセクターの協働が始まる、というレベル。行政の処分場管理の一環として、重機が投入されたり、ごみの回収・運搬が組織立ってくるのもこのあたりから。廃棄物”管理”がようやくスタート、言い換えると資源循環が正式に行政システムに組込まれ始める段階である。

〇上位中所得国(3,996~12,375ドル):ここになると、インフォーマルセクターのフォーマル化が始まる。フォーマル化とは、ノーマルなインフォーマルセクターではなく、許認可制を導入してインフォーマルセクターを廃棄物管理の中心プレイヤーと公式に認め、そこから廃棄物業としてのビジネス展開を図るものである。所得が4000ドルを超えてくると普段の生活の中にも多少の”ゆとり”が出始め、自分の生活を新たなレンズを通してみる人が増え、自分が生きるための生活以外の何かに注目が集まってくるレベルになる。マズローの欲求5段階で言えば安全要求・社会的要求が出てくる段階。その一つに環境問題、その中でも普段の生活で一番身近なごみ問題が公に注目を浴びてくるタイミングでもある。ちなみに、個人的な感覚として、所得が4000ドルを超えてくると、車からのクラクションの音がだんだん聞こえなくなること、都市伝説になるかもしれないが。でもマズローの欲求5段階では説明が付くかも。

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〇高所得国(12,376ドルまたはそれ以上):ここまで経済が成長すると、環境問題を行政としても完全に認識している状態。廃棄物関連の法規制シリーズが確立されており、廃棄物管理の責任がはっきりと明確になっている。例えば、廃棄物管理は法規制で決まっており、行政の管理のもと、認可業者が環境基準をもとにごみの回収・収集・分別・処理・処分・リサイクルを実施しているという状態。ちなみに日本の場合は、産業廃棄物業者登録数12万件のうち、実際に業を行っているのは約6.4万社程度、市場規模は5.3兆円程度。同資料によると、廃棄物処理業界全体としての市場規模は約12兆円。ちなみに、全国のコンビニの数は約5万6千店舗、市場規模は11兆円程度。皆さん知ってましたか、廃棄物処理業界は日本の基幹産業を担っていることを。廃棄物業界は意外にすごいんですよ。

廃棄物管理の現状とは?

ここでもう一つの図を分析したいと思う。これは昨年の廃棄物資源循環学会のイベントで使ったもの。各所得レベルにおける環境技術はどのようなものなのであろうか?

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〇低所得国(1,025ドルまたはそれ以下):90%の一般廃棄物はオープンダンプ処分場に運ばれている。ノーマルがインフォーマルセクター。管理レベルは低い、必要な環境技術は他業種で使用されているシンプルなもの、例えば運搬用トラック・重機など。廃棄物専用に開発された技術の必要性は無し。オープンダンプ処分場でインフォーマルセクターが手作業で集めた資源性の高い廃棄物のみリサイクルに回っている。

〇下位中所得国(1,026~3,995ドル):約65%の廃棄物がオープンダンプ処分場に、加えて20%の廃棄物が管理されている処分場へ運ばれている。85%程度の廃棄物は処分場へ捨てられている。シンプルなリサイクルは徐々に増えてきている。引続き、シンプルな技術に加えて、トラックからごみ収集車に移行が始まるころ。ごみ分別は引続き手作業。

〇上位中所得国(3,996~12,375ドル):85%程度の廃棄物は処分場に運ばれているが、管理されている廃棄物処分場への搬入割合が増えてきている。それまでノーマルであったインフォーマルセクターがのフォーマルセクターへの転換が見え始めるころ。廃棄物管理のニューノーマルが生まれてくるタイミングと言える。引続きシンプルな技術が中心となるが、公的資金導入により、中小企業による廃棄物処理の適正化ビジネスの加速化、リサイクル技術の導入が見られてくる。焼却施設も導入されてきており、今のトレンドに沿ってエネルギー回収施設をはじめから導入する傾向がみられる。

〇高所得国(12,376ドルまたはそれ以上):処分場への廃棄物搬入が40%ほどに減り、リサイクル率、焼却(エネルギー回収あり・なし)率が増えてきている。傾向としては、ごみ焼却場等の大規模環境技術がその年のインフラに組込まれ、統合的に管理された廃棄物システムが導入される。このレベルに達してリサイクル技術が必要になってくる。

今後30年間の廃棄物管理は、いばらの道である

さらにもう一つの図。今後30年間で廃棄物処理処分の傾向はどうなるか、というもの。これも昨年の廃棄物資源循環学会のイベントで使ったもの。

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2050年における廃棄物管理・処理はどうなるかと言うと、思っている以上に2050年の廃棄物処理状況は今とそれほど変わらない、残念ながら。一般廃棄物は現在の年間21億トン発生量から26億トンに増えるが、廃棄物処理手法にそれほど劇的な変化は見られない。強いて言えばオープンダンピング率が若干減ると予想されるが、廃棄物増加量に伴い、量的にはほぼ同じ。2050年までには、オープンダンピングを劇的に減らすような、低所得国に必要なかつ導入が可能な環境技術が必要である。

SDGsスタンダード

ようやくここからSDGsスタンダードの話しです。

みなさん、SDGsスタンダードとは聞いたことがありますか?SDGsは聞いたことがあると思いますが、それにスタンダードが付くとどういう意味になるでしょうか?資源循環廃棄物学会で出させていただいたイベントのタイトルが「SDGsスタンダードな生活衛生・資源循環インフラ」。

趣旨としては「SDGsは、すべての人々の生活の改善によって、世界をより良いものへと変革することを目的としています。日本の生活衛生・資源循環に関わる技術は、その目的に十分寄与するものであり、公害を出さない焼却・排ガス処理技術、WtE(Waste to Energy)の役割、早期安定化を誘導する埋立技術など、高度な発展を遂げてきました。他国へ技術供与する価値を十分に有するものですが、世界で普及するためには、生活衛生・資源循環インフラとして、よりシンプルな「SDGsスタンダード」が求められます。」、です。

ここで一番重要なのが「シンプルなSDGsスタンダード」という考え方。環境技術とSDGsスタンダードを組合わせて考える時に、考案したのが次のスライド:

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環境技術はその国の経済レベル状況で異なるため、その国が必要としている身の丈の範囲で技術を見つける必要があります。またSDGs時代においては、なぜ技術を必要としているのかという原点を良く考えないといけないでしょう。それは環境を守りつつ人間の生活を良くするためである。
〇低所得国であれば、貧困をなくすため
〇下位中所得国であれば、経済基盤を作るため
〇上位中所得国であれば、都市経済を発展させるため
〇高所得国であれば、持続可能な社会を構築するため

この考え方で必要な技術を、SDGsスタンダードな技術と呼びます。

廃棄物管理においても、低所得国では埋め立て処分場の整備が求められるが、何百万人といるインフォーマルセクターの人たちが、廃棄物回収やシンプルなリサイクルビジネスを起こせるようなアプローチが必要となります。

低所得国であれば、貧困の削減、生活の向上に結び付くシンプルな廃棄物技術の開発・実施。このままでいくと2050年には現在との状況ほぼ変わらず、開発途上国ではそのほとんどがオープンダンピングに廃棄物が処分。つまり貧困層のウェストピッカーの人数も増える可能性が大。という事で、10年後のSDGsは達成しないであろう、このまま何もしなければ。何が必要か?社会的課題を解決するシンプルな技術がここでは必要になる。中低所得国も廃棄物の50%はオープンダンプなので、ここにもシンプルな廃棄物管理技術が必要となるのは間違いないでしょう。

高所得国であれば地球規模課題を解決する技術が必要です。廃棄物業界の将来とは、単純に廃棄物を処理するだけでなく、社会経済的な地球規模課題に着目し、その解決を導くSDGsスタンダードな技術でなければならないでしょう。

廃棄物技術・管理先進国の日本としての役割は二つあります。それは二つのD、Decarbonization(脱炭素化)、Digitalization(デジタル化)です。最先端の廃棄物技術からバックキャスティングして、低所得国で必要としているシンプルな廃棄物技術・管理制度の開発。ここでのキーワードは、脱炭素化(Low-carbonization)とデジタル化。デジタル化とシンプル(Simple)な技術が必要であるという事。SDDと言えるかな?

世界が求めているSDGsにおける廃棄物資源循環技術の在り方はなんでしょうか?日本が保有している最先端の廃棄物技術を、開発途上国が求めているシンプルな技術へに開発・適用することです。

これから作るもの

この背景を踏まえて、僕は今、廃棄物の環境技術や専門的な知識に関するSDGsスタンダードプラットフォームの策定中です。このプラットフォームの目指すべきものは、SDD、つまり、シンプル・デジタル化による脱炭素化を目指す、SDGsとSDDと言えば覚えやすいかな?

UNEPサステナビリティアクション計画

でも環境技術のデータベース、廃棄物管理情報のデータベースは既に色々と存在しています。例えば環境省の我が国の循環産業に関する技術及び企業の紹介、IETCが作ったkNOW Waste(更新できず自己反省...)、国際廃棄物協会等が作成したD-Waste、などなど。そもそも、Google検索で良いのでは、と言う声も聞こえてくるが。でもポイントは、開発途上国が必要としているシンプルな環境技術情報をシンプルに共有すること。Googleのアルゴリズムでも、まだそこまでは開発できていないはず、僕が試しに検索してみたところでは。

2050年までの廃棄物発生・管理予想の通り、日本のようなバリバリの高度な廃棄物処理技術のニーズはわずかであり、実際はシンプルな技術のニーズがあることが明らかです。でも上記のデータベースは高度の技術情報が掲載される傾向にある、のであまり使われない、と言うのが現実でしょう。

それと、データマイニング、自動分析・可視化、多言語化と言う第4次産業革命の恩恵を受け、IT技術をフル活用するシステムを組込み、デジタルプラットフォームが”自ら”成長を遂げるものを作成できるように関係者と各種計画中です。

まずはプラスチック廃棄物処理技術から

外務省から資金的な援助を受けてプロジェクトをスタートできたので、今年は、SDGsスタンダードプラットフォームの第一歩目として、プラスチック廃棄物処理技術に関するコンポーネントを作る予定です。プロジェクトの正式名称は、アジア地域における環境上適正なプラスチック廃棄物管理・処理技術支援事業、内容は「UNEP国際環境技術センター(IETC)による,環境上適正なプラスチックごみの管理に関するデジタルプラットフォーム作成を支援するもの」、です。

この基礎となる情報として、①開発途上国におけるプラスチック廃棄物管理・処理技術のニーズアセスメント、②プラスチック管理・処理技術に関するシーズ調査をこれから行います。まずはニーズアセスメントについては、①SDGsスタンダードの考え方、②各所得レベルで必要な環境技術、③予想される2050年までの廃棄物発生・管理状況を踏まえて、過去に実施した各種プロジェクト報告書や関連情報からのニーズの洗い出し・取りまとめを行います。シーズアセスメントも同様に、①から③の基本コンセプトをベースとして、開発途上国が求めているプラスチック廃棄物の管理・処理に必要な情報のリスト化・明確化を行います。このニーズとシーズ情報をSDGsスタンダードプラットフォームでマッチングさせて、本当に必要な環境技術を開発途上国に届ける橋渡し的な役目を果たすのが、今年の目標。来年以降はデジタル化・シンプルなAI化されたSDGsスタンダードプラットフォームに、プラスチック廃棄物以外の廃棄物、例えば、食品系廃棄物、紙系廃棄物、ガラス系廃棄物、繊維系廃棄物、電気電子機器廃棄物等を組込んでいく予定。そこに、UNEPがフラグシップとして作成している世界廃棄物概況シリーズのデータも入れ込み、新たな知識を創造するプラットフォームとして創り上げていく予定です。

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