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プラスチック問題を地球1個で考えると?(統合版)


プラスチック問題を地球1個で考えると?:その1

来月から始まるレジ袋有料化を前に、最近よく話題となっているプラスチック問題。僕もその流れに乗って二つほど記事を書いてみた。今回もプラスチック関連の記事だけど、プラスチック問題そのものを考えたいと思う。

まずは、プラスチック問題は誰のせいか、という事を考えると、答えは一つしかない。私たち人間のせいだ。色々なニュースとか記事を読むと、プラスチックが悪い、というトーンがほぼ占めている。多くの哲学者や思想家の共通の考え方として、「人間は他人のせいにする動物」と言うのが当てはまるでしょう。

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ごみ箱に捨てられたプラスチックの気持ちを考えると:

ある家庭のごみ箱の中(ミニコント風)...
レジ袋A: 生涯一度の仕事は終わり。僕は牛乳に野菜にお肉とか二日分の食料を家まで運んだよ。
レジ袋B: いいなぁ。僕はボールペン1本運んだだけだよ。
レジ袋A:ねぇ知っている。僕たちを作ったのは人間なのに、あいつら僕らのせいにしているんだよ、プラスチックごみ問題を。
レジ袋B:知っているよ。人間ていつも都合よく人のせいにするんだ、まぁ今回は僕たちプラスチックのせいにしているんだよ。自分たちが悪いのに。
レジ袋A:ずるいよね。自分で作っておきながら、使っておきながら。だから地球環境は悪くなる一方なんだ。
レジ袋B:そうだよね。自分たちが変わらないと何も変わらないのにね。
レジ袋A:しかも僕たちを「プラスチック汚染」と呼んでるんだよ。
レジ袋B:僕たちからすると「人間の心が汚染」だよね。

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去年1年間、僕も職業柄、何度かプラスチック廃棄物関連の講演や執筆をさせていただいたので、今回は、プラスチック問題を地球1個で考えてみたいと思います。

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プラスチック問題を地球1個で考えると?:その2

世界のプラスチック廃棄物:年間フロー
先ずは、世界のプラスチック廃棄物の全体像を見てみよう。このスライドは、廃棄物資源循環学会の関西支部セミナー京大のシンポジウム、これなどでつかったもの。文章としては、プラスチックの資源循環に向けたグリーンケミストリーの要素技術の第4章 国際的なプラスチック管理の最新動向執筆時に考えたもの。データは日々更新されおり諸説あるものの、これが一つの国際スタンダードのプラスチック年間フローデータ。

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概要:1年間のプラスチック製造量は3.8億トン、東京スカイツリー約10,600個分。現在使用中のプラスチックは約25億トン。一般廃棄物は1年間で21億トン(1時間あたり東京ドームの1/6が埋まるイメージ)排出されるうち、プラスチック廃棄物はその14.3%、約3億トンを占める。プラスチック廃棄物を種類別にみると、レジ袋は16%、ペットボトルは4%、その他が80%。処分別にみるとリサイクルはたったの9%、焼却処分・エネルギー回収は12%、その他79%は埋立処分、と言うのがざっくりした世界の状況です。

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では、プラスチック生産によってどれくらいの二酸化炭素が排出されているのだろうか?これも色々な推計・計算・データがある。この報告書の計算式1MTのプラスチック生産によって1.89MTの二酸化炭素が発生している数値に、上の図の年間プラスチック製造量の3.8億トンと推計してみると、年間の二酸化炭素発生量は約7.2億トンとなる。世界の二酸化炭素排出量が約360億トンなので、プラスチック生産から排出される二酸化炭素は全世界の約1.1%。パーセントを見ると小さいと印象を受けますが、この数値は国別二酸化炭素排出量第12位あたりのオーストラリアと同じくらいなんです。そう考えると、結構な量の二酸化炭素が排出されていると思いませんか?

ここからは、世界のプラスチックフローの詳細を見てみましょう。先ずはプラスチック製品製造段階。プラスチック製造量3.8億トンのうち、リサイクル原料は0.27億トン、約7%。残り約93%は天然資源、つまり石油由来。ちなみにプラスチック製造量は石油全体の約3%程度占めています。たかが3%、されど3%。ここをどのように減らしていくか、と言うのも課題です。

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私たちが今使っているプラスチックの量は25億トン。ちなみに地球上約75億人が今使っている全資源量は約800億トン。という事は重量ベースではプラスチックは約3%。意外に少ないと思うかもしれませんが、プラスチックの重量は圧倒的に軽いという特性を忘れないでください。ここで矢印が一つ出ていることに注目。マイクロ繊維が約5万トンほど環境中に流れ出しているという事。マイクロ繊維の詳細は色々とウェブサイトがあるのでそちらを見てもらいたいが、量的にはわずか0.02%、でもそれは無視することのできない数値です。別な言い方をすると、いわゆる海洋ごみ問題と海洋中のマイクロプラスチック問題に直結するマイクロ繊維が、主に洗濯時に直接流れ出しているという事です。ここの詳細な議論は、別の機会に考えたいと思います。

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プラスチック問題を地球1個で考えると?:その3

一般廃棄物中のプラスチック廃棄物はどれくらいか?

一般廃棄物のデータを見てみましょう。年間21億トンの一般廃棄物が排出されているが、その半分はオープンダンプを含めた不法投棄(環境上適正ではない処分と言う意味を含む)されている。SDGsスタンダードな環境技術の記事でも書きましたが、低位中所得国や低所得国ではこのオープンダンプがノーマルな廃棄物処分方法。ちなみに、日本もほんの数十年前までは同じ状態、夢の島、という現実の島がありましたね。

さて、ここからがプラスチック廃棄物のデータ解説です。プラスチック類の種類別グラフを見て皆さんどう思いますか?マイバックは地球環境を救うか?の記事でも書きましたが、レジ袋は全体の16%、ペットボトルは4%、その他が80%なんです。この数値を見て、皆さんは①「なんだレジ袋有料化で、がんばったとしても大したことはない」、②「マイバックから初めて、その他の80%も頑張ってみよう」、のどちら派ですか?たぶんこの記事を読んでいただいている人は②だと思いますが、世間一般には①と思う人が多いでしょう。もう一度聞きます、プラスチック問題は誰のせいですか?私たち人間のせいです。レジ袋有料化政策と言うのは、ほんの一歩目。それを最初の一歩と考えるか、最後の一歩と考えるか、それを考えるための環境教育も重要です。

その他80%は何でしょうか?この数値は世界平均値ですが、皆さんの家庭でもこのような数値になるのではないでしょうか?例えばプラスチック製容器、収納箱・棚、家電製品のボディー、服、靴、鞄、筆記用具、など、挙げるときりがなくなります。これらをなくすことはできますか?100円ショップで発見したそのプラスチック製品、便利そうだから試してみよう、ついつい買ってしまう、と言うのが私たち消費者の心理。その瞬間、一呼吸おいてみてください、本当に必要ですか?

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日本の場合は、廃棄物・リサイクルが進みすぎているので、物を使った後は、ちゃんと分別してリサイクルすれば良い、と思うでしょう。今までの物質主義の世の中ではそうだと思います。でも、これからは違う世の中、サステナブルな社会にしなくてはなりません。必要のないモノはなるべく買わないようにするというのも重要です。使ったらルールを守ってちゃんと捨てる・リサイクルする。でも買わなければそれもする必要がありませんね。

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さて、データに戻って、プラスチック類の処分別のグラフを見てみましょう。リサイクルはたったの9%、焼却処分・エネルギー回収は12%、残りの79%は埋立処分、と言うのが世界平均の現状です。もう一つの数字、輸出入は3%ということ。プラスチック廃棄物問題が、この数年で一気に世界的な環境問題となった一つのきっかけは、プラスチック廃棄物の輸出入問題。これもありとあらゆるニュースや情報、報告書(環境省の調査報告書はこちら)。

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プラスチック問題を地球1個で考えると?:その4

プラスチック廃棄物の輸出入

ここでのポイントは「3%」という数値をどう読むか、です。たかが3%、されど3%。この3%の中には不法輸出入事例も含まれます。例えば、環境省の情報のよると、昨年度は、日本からマレーシアに輸出した廃プラスチックの返送事例が数件あります。だからこそ、有害廃棄物の国境を越える移動及びその処分の規制に関するバーゼル条約の原則に含まれる「廃棄物は発生した国において処分されるべき」「国境を超える廃棄物の異動を最小限度とすること」を強化するべき、と言う声が大きくなり、条約改正までに至りました。

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これは画期的な条約改正となりました。今まで、バーゼル条約と言うのは、廃棄物中に含まれる有害物質から環境汚染・健康被害を守るためと言うのが原則でしたが、廃棄物自体は非有害であるけども、それが長期間にわたり環境中に蓄積することで、甚大な影響を及ぼす廃棄物、例えばプラスチック廃棄物、も条約の範疇内である、と言うのが国際的な共通認識となりました。

でも、バーゼル条約を完全に施行しても規制をかけられるのは3億トン3%、その他97%をどう管理していくか、と言うのがもっと重要です。ここで再び同じ質問、プラスチック問題は誰のせいですか?私たち人間のせいです。この97%をちゃんと管理していくには、私たちの普段の生活、廃棄物・リサイクルシステムを根本的に変えていかなければなりません。小手先の業ではなく、システム思考的なアプローチが必要になります。プラスチック廃棄物問題は、気候変動問題と同じように、その問題が表面化するまでに、問題の核心から甚大な環境影響を及ぼす社会・経済・環境影響の負の連鎖が既に引き起されていた、という事が言えるでしょう。

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プラスチック問題を地球1個で考えると?:その5

普段の暮らしでプラスチックの使用量は減らせるか?

みなさんはどう思いますか?減らせると思いますか?少なくともレジ袋有料化で、マイバックを持つことが標準となりますので、年間平均約150枚(0.5 g x 150 = 750 g)は減らせますね。でも、先に書きましたが、プラスチック製レジ袋を減らしただけでは、量的にもたかが知れています。本題はその他のプラスチック製品を減らすことができるかどうか?これはかなり難しいと思います。例えば、普段お世話になっている食料品用のプラスチック製容器包装。生産者から消費者までの長いサプライチェーンにおいて、内容物の品質保持や期間、輸送効率、内容物の情報伝達など、専用に開発されたプラスチック製容器包装があるからこそ、日本中の隅々まで安全に食品を届けることができます。コンビニのフレッシュな野菜サンドイッチ、日本全国どこでも買えますね。これも専用に開発されたプラスチック包装(と完ぺきなまでの輸送システム)のおかげです。

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では、食料品以外はどうでしょうか?目につくありとあらゆる製品や容器はプラスチック製ですね。もう言うまでもないと思います、プラスチック製品を減らすことは非常に難しいのです。だからこそ、環境省はプラスチック・スマートキャンペーン活動を展開しています。このキャンペーンを一言で言うと“プラスチックとの賢い付き合い方”をみんなで考えて実行しよう、というものです。キャンペーン活動は自ら参加することで楽しめますので、皆さんもぜひご参加を。

ここで海外、特に開発途上国の状況を見てみましょう。開発途上国のプラスチック容器包装の状況は日本と異なります。開発途上国と言っても、低所得国、低位中所得国、上位中所得国と別れますが、人口の割合が一番多い低位中所得国の例を考えてみましょう。アジアの例で言うと、カンボジア、インドネシア、ラオス、モンゴル、フィリピン、ベトナムなどが該当します。以下の図も自分の講演用に作成したものです。

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まずはこれらの国の人たちの、ごく平均的な消費行動としては、その日に買うことができる分だけを買う、言い換えると、その日稼いだ分で買うことができるものを買う、という事です。この消費行動においては、個包装の食料品やモノが好まれるという傾向があります。つまり、プラスチック製の個包装の役割は重要、という事です。プラスチック製品を減らすことはわかっちゃいるけど、今日買うことができるのは、シャンプー、コーヒー、砂糖と塩、5日分、なので個包装、と言う事です。つまりやめられない、が現状と言うのも多いです。プラスチック製個包装を変えることは、難しいと思います。

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以下の図は、うちのUNEPで作成した使い捨てプラスチックに関する報告書を少々更新したもの。これも昨年の講演で使って、一部を更新したもの。全ては反映しきれていませんが、トレンドは見れると思います。一言で言うと、廃棄物管理が苦手な国は、プラスチック製レジ袋を使う事をそもそもやめよう、という事です。意外と思うかもしれませんが、日本よりも進んでいます。こういうと少々語弊があるので言い換えると、日本のアプローチは日本独自の場合が多く、海外のアプローチとは違う土俵の場合が多い、です。でも、繰り返しになりますが、レジ袋削減は全体量からすればたかが知れているので、プラスチック製レジ袋の禁止・有料化の意味を正確に理解して、それを次のサステナビリティアクションにつなげることが重要です。

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さて、普段の暮らしでプラスチックの使用量は減らせるか?答えは...多少は減らせるが、プラスチック汚染問題そもそもの解決には至らない。
改めて聞きます、プラスチック問題は誰のせいですか?答えは一つしかありません、私たち人間のせいです。

この答えが、私たちが本当に解くべき問題です。この問題はプラスチック廃棄物だけではなく、全ての環境問題に直結します。この問題を解決しない限り、プラスチック廃棄物問題もそうですが、気候変動などの全ての環境問題を解決することはできません。

「私たち人間のせいです」については、別の機会に議論をしたいと思います。乞うご期待!

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