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過去の私を救いたい

中学時代の友人の話をする。


彼は簡単に言ってしまえばいじめ被害者だ。
詳しくは知らないが厳しい家庭で育ってきたらしい。
まあ世の中を斜に構えていたのでクラスからは浮くし悪目立ちもした。
その当時仲の良かった私は、一応友人からの信頼は集めていたが、彼と同じように世の中を斜に構えていた。

彼とは他愛もない話ばかりしていた。内容なんて特に覚えてはいない。
話している時間が、ただただ楽しかった。



彼へのいじめは、さも当然のことのようにエスカレートしていった。
私には止めることなんて出来ず、いつもと変わらないように話すことしか出来なかった。
いつも通り、いつも通り。
あんなの気にしちゃだめだよ。なんて言って。



彼はいつからか学校に来なくなった。
私は彼のことばかりを考えていた、のだと信じたい。

その時何を考えていたのか、もう覚えていないのだ。

私は自分の身を守ることに必死だった。
いくら友人からの信頼を集めていても、クラスで浮いた存在の私は次の標的にされるなんて分かりきったことだった。
それに私は彼としょっちゅう話をしていたのだ。
条件は十分に揃っていた。



部活中だけ息をすることが出来た。
彼のことを考える余裕があった。
「今の私には何が出来るのか。」
彼が学校に来ないことには私には何も出来ることがない。
なら、学校に来た時にどう接すればいい?

考えていたある日、担任から明日彼が学校に来ることを聞いた。



当日、彼は本当に学校に来てくれた。
それだけで嬉しかった。
彼が何も無かったような表情だったのが、
嬉しいと同時に辛く苦しかった。


彼が学校に来てくれたのは、3日ほどだったか。
それすらも覚えていないな。
私がその期間に彼にしてやれたことは一つだけだった。

いつも通りでいること。

周りが異質なものを見るような目をしていても、
私だけは変わらずにいつも通りに接することが
彼にとって1番だと信じてやまなかった。
彼の学校内の唯一の居場所でありたかったんだ。
厚かましいことこの上ない。



結局、私の気遣いなんて意味なかったかのように、
彼が学校に来ることは二度となかった。

それからの日々は後悔してばかりだった。
あの時私はもっと彼を支えてやれたんじゃないか。
そもそも、私だっていじめの対象なんだから、私なんかが関わってはいけなかったんじゃないか。
私のせいで彼を苦しめていたんじゃないか。
私が、間違っていたんじゃないか。

その答えを、彼自身に求めた。

担任が度々家に行っていたのを知り、手紙を書くことにした。
手紙の内容をはっきり覚えてはいないが、
君を心配していること、今辛くないか、死を考えていないか、どれだけ辛くても死なないでくれ。と伝えた。
そして最後に、
「君は私の味方でいてくれますか」
と書いた。

書いて初めて、自分は孤独で、味方を求めていたことを知った。


返事が来たのは秋の終わり頃だった。
担任に中身を読まれて捨てられたのかと思っていたので驚いた。

彼の手紙には汚ったない字で
担任からの手紙だと思い破いてしまったこと、
今はゲーム仲間もいて楽しくやってるから死ぬことの心配はしなくていいということ、
大丈夫だから安心して欲しいことなどが書かれていた。
そして1箇所だけ鉛筆で
「あと、俺はお前の味方だから。」
と書かれていた。

抱え込んできたモノがふっと軽くなったような安心感と、
私の味方は居てくれたんだ。なんて嬉しさで
その夜はずっと泣いていた。



結局彼は転校して、二度と会うことは無かった。



何年も経って、
やっぱりあの時もっと上手く出来たんじゃないか。
彼は私に気を遣って思ってもないあんな言葉をかけてくれたんじゃないか。
あの時の私の行動は間違いじゃないのか。
結局あの学校の中で救いあげることは出来なかった。
心の拠り所くらいにもなれていたんだろうか。
そんなことを考えてしまう。
思い出してしまう出来事があったもので。


もし彼に私がいなければ、最悪の選択をしてしまっていただろうか。それとも、私なんていなくとも居場所を見つけて生きていたのだろうか。
彼にとって、私は救いになれただろうか。

私は今もその答えを苦しみの中で探し求めている。





彼がどこかで生きていることを、
彼の幸せを祈って。

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