見出し画像

「聖なる水の祀りと古代王権」天白磐座遺跡

辰巳和弘・著。「遺跡を学ぶ」シリーズの一冊。遺跡・遺物のカラー写真が豊富で、一冊一冊が薄く、読みやすいシリーズですが、本の薄さに反して、内容は(テーマを絞っているために)非常に濃く、見かけると特に興味がないテーマでも読んでしまいます。考察・推測ではなく、事実ベースで書かれていることが多いのも魅力のシリーズです。

本書では静岡県西部、浜名湖の北東に位置するこの遺跡を扱っていますが、「天白磐座遺跡」とは言うものの、天白信仰にまつわる遺跡ではありません。字名が「天白」であるため、そう名付けられたとのこと。そもそもの字名自体は、「天白様」と呼ばれる祠があるからだそうで、どこかでつながっているかも知れません。天白神自体の時代関係が不明瞭なためなんとも・・・。

古墳時代の古墳や土器片の発見は当事者ならではの臨場感を持って語られており、ドキュメントとしての読み応えも十分で、時代性のある資料として後々価値が高まりそうでもあります。

本書では、同地での古代から近世に至る祭祀の変遷が遺構・伝承ベースで語られています。自然の威容を祀りながら、当地の人々にとって身近な存在であったことをうかがわせる内容です。先日、埼玉の黒山三滝を訪ねてきましたが、生活圏の身近にある、こういった自然祭祀の遺構というものは日本人の信仰の根底に触れる思いがします。この天白磐座遺跡は本書で初めて知ったのですが、いつか訪れてみたい場所となりました。


この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?