「知られざる古代」 水谷慶一
謎の北緯34度32分をゆく、というサブタイトルがついた1980年頃の新書。内容としては、箸墓の東西、北緯34度32分の直線上に伊勢神宮をはじめとする古代祭祀遺跡が配置されていることに対する考察です。
これがいわゆる「ゲシュタルトの法則」ではないか、ということは著者も冒頭で断りを入れた上で進めている検証には説得力があります。各地に伝わる弓射と太陽の祭祀を追いながら、最終的には「まっすぐ」に方角を示し続ける(太陽と影を利用した)測量技術に言及し、「王権」を与える根拠としての太陽祭祀、という風に結びつけています。
測量技術によって徴税のための区画の計測を行えるようになるから、というのがその理由なのですが、理由が一点に帰結する必要もないとは思っているので、一因にはあったかもね、と新しい視点を与えてもらったように思います。
個人的にこの本の一番おもしろいところはそこではなくてですね。
著者がインドの仏跡を訪れたときの体験が本書には書かれています。高くそびえ立つ遺跡を橙色に染めながら、夕日が草原の彼方に落ちて行く光景に、同行した日本人一同は見とれていたそうです。中には、ため息とも歓声ともつかぬ声をあげる人もいたとか。想像に難くない絶景です。
ですが、周りのインド人たちは、さも不思議なものを見るように、太陽ではんなく、日本人たちの表情を見つめていたというのです。
かくも「太陽」とは日本人に感銘を与え、そして他民族にはそうでもないのだと、象徴するような描写でした。自然に対する感性はそれぞれ違います。我々のように、自然の中に神を見る民族との間では特に。
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