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非モテがマッチングアプリで現実を知る

「社会人になってから出会いがなくなった」

会社の同期が、RPGの村人のように、何度も繰り返すこの言葉に、「いや、学生の時から全くないんですが」と返すこともなく、ゲームの主人公同様ただ一方的に話を聞いている私。

普段から比較的物静かな方で、これは昔から変わらない。27歳になるが、女性経験を数えようにも、9本の指が余ってしまういわゆる非モテと呼ばれる種族だ。


そんな私ではあるが、最近マッチングアプリというものに手を出した。すごくかわいらしい女性が、男性と一緒に料理をしている、アプリの電車広告を見て、将来の自分の幸せと重ねてしまったのだ。もちろん、その女性のすぐ隣にいるイケメンには気付かないふりをしながら。

どうやら私にはまだ、結婚したいという気持ちが残っている。幸せな家庭を夢見ている。珍しく芽生えた素直な気持ちに従って、アプリをインストールした。

アプリを始めて2週間。幸いにも1人の女性からいいねをいただけて、マッチングすることができた。顔写真は無かった。かわりにとんこつラーメンの写真が2枚だけ登録されていた。顔が分からず若干不安もあったが、年も近くお笑い好きという共通点もあったので、メッセージはまあまあ盛り上がった。とはいっても女性とラインをする機会はほとんどないので、盛り上がったかどうかは、あくまでも主観的な推測にすぎないのだが。

しばらくやりとりを続け、無事ディナーデートの約束を取り付けることができた。とんとん拍子でことが進む。数ある恋愛上級者たちが、さぞ一般常識かのように口にする恋愛の流れのようなものを追えている自分が嬉しかった。

なんとかこのチャンスをものにしよう。その気持ちからか、デート前日はいつもより早めに寝た。
ディナーデートなので特に意味はなかった。

デート当日。待ち合わせはディナーを食べるお店の最寄駅に18時50分集合。20分前に待ち合わせ場所につき、お店までのルートを確認する私。前日に勉強した、「デート必勝テクニック」がまとめられたブログ記事の、応用項目をこの短期間で実践できている自分に驚く。

待ち合わせ場所で、特に意味は無いものの、LINEのトーク画面を表示させて、漠然と見ている私に、

「せいごさんですか?」

と声をかけるひとりの女性。顔を上げると、そこには、



堀北真希と同じ哺乳類で、

新垣結衣と同じ性別の、

石原さとみと同じ苗字を持つ女性がいた。


もっと詳細に書こう。

顔は、「かわいい子には旅をさせよ」ということわざを踏まえて例えるなら、「家から出してもらえない」側の顔だった。

体型も、上のようにオブラートで包んで説明しようと試みたが、表現的にも物理的にも、どんなに大きなオブラートでも包めなかった。要するに、ものすごくふくよかな女性だった。

アプリ内でのやりとりで勝手に作り上げた自分の中の虚像とのギャップを受け入れられなかった。


お店までの移動時間、私は動揺していた。普段物静かな私が饒舌になっている。まさか天気の話題で10分も話せるとは思わなかった。

お店で、つきだしとハイボールがきたところまでは覚えているが、あまりのショックからか、濃いめのハイボールが体内を侵食するのに、あまり時間はかからなかったようだ。

気づけば自宅のベッドの上だった。申し訳なく思いながらも、アプリで今後の連絡のお断りをしようとすると、すでにマッチング画面に彼女はいない。むこうからお断りされてしまった。ほろ苦いマッチングアプリデビューだ。




お店のレシートが財布から出てきた。どうやら彼女の分のお会計も全額、私が支払ったようだ。
「デート必勝法」を無意識に実践できている自分の成長に驚いたと同時に、ちょっとした後悔も感じつつ、顔写真のある人に「いいね」を送る作業に没頭した。

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