風と共に去りぬ

著者はアメリカの作家マーガレット・ミッチェル。著者の作品はこれだけなのでデビュー作であるが、アメリカでたちまちベストセラーになったとのこと。勝手に続編を書く人まで出てきて著作権の管理が大変だったとの逸話もあるくらい。最近はBLMの影響で映画が人種差別を肯定しているとして配信が停止したり色々周辺にも話題がある作品。日本でも大人気で特に宝塚歌劇団が何度もミュージカルとして上演している。

時代は南北戦争の開戦直前から10年間くらい。主人公はアメリカジョージア州のタラ(架空の地名)のプランテーションの娘スカーレット・オハラ。この人物がまぁクセがある。アシュリーという昔から好きな人をとられた腹いせにアシュリーの妹の恋人を横取りしたり、アシュリーと結婚したメラニーに死ねばいいのにとか思ったり、自分の農園が差し押さえされそうになると金持っている老人と結婚したり、なかなかやりたい放題の人物。基本的に自己中心的に行動するが、一方でアシュリーに一途だったり、アシュリーにメラニーを頼むを言われると律義に守ったり、戦争で困窮した家族のためにたくさん働いたり、どうして憎めない部分がある。しかもそれを著者がスカーレットはあまりものを長く考える性分でないとか、スカーレットのモラルはとっくに崩壊しているだとか、ツッコミというかなんというかのコメントをはさみながら展開していくので一種漫才のような軽快な文章である。ジャンルとして戦争文学や大河小説なのにもかかわらず、すいすい読めてしまうのはこの軽快さにあると思った。全体2000ページくらいあるが思った3倍速く読めてしまう。

スカーレット以外も粋な恋人役で主人公がピンチの時には必ず駆けつけるレットバトラー、主人公に死ねとか思われてるのにスカーレットを友人として心底信じる善人のメラニー、ひ弱だけど華麗な貴公子のアシュリーと、すぐ気絶する世間知らずピティパットおばさんなど、登場人物が少女漫画に出てきそうな面々。これは確かに宝塚歌劇のテーマとしてぴったりだと持った。

冒頭でも書いたが奴隷制度を肯定的に描いているという批判があるが個人的にはあまり当たらないと思った。理由は黒人に対して理解があるといっても大人が子どもにたいして「あの子はこういう子」というような理解のしかただし、黒人も家族のように大事にしていたといっても農家の方が牛や馬を大事にする扱い方そのものである。ほんとにナチュラルに差別してるんだろうなという印象。逆にこれで美化になっているのか?そう考えると当時の差別意識がそうとうリアルに表現されている貴重な作品といえるかもしれない。ただそもそも奴隷として重労働をしていた黒人と主人公ら上流階級の白人とは会話というか接点がない。(執事のような黒人は登場するがそれはごく少数であろう)奴隷制で黒人を搾取する白人にとって黒人は単なる労働力であり、そもそも人として登場しないといえる。そのような物語構成と、その制度を土台として成立した南部の貴族文化を美しく描くストーリーそのものが差別であるという批判はなりたつかもしれない。ちなみに配信停止となった映画のほうはそもそも黒人と白人のやりとりが全然出てこない、唯一はスカーレットと乳母のマミーくらいでその内容も口うるさい母とおてんば娘のやりとりそのものでしかなく人種的な要素がほぼない、ので何が問題になったのか部外者としてはよくわからなかった。まぁ現地の人が見ればわかるのかもしれないが。

最後に一種の政治的な読み物として、アメリカの占領政策とはどういうものなのかというものとしても読めると思った。勝利した連邦政府は敗北した南部諸州に対して軍政を敷いたが、めちゃくちゃな規則を制定してなんでも口出してきたり、いきなり税金を上げたり、その税金を勝手に流用したりと当時の南部人からみたら奴隷解放という大義名分のものでやりたい放題という視点で描かれている。そう考えると日本の占領期の「民主化」なるものもちょっと疑ってみたほうがいいんだろうなということを示唆してくれる。実際どういう基準なのかよくわからない公職追放もあったし、選挙結果無視して首相人事に口出ししたりもあったりしたのだから。まぁなんでもきれいごとは話半分に聞いておきましょうという・・。

小説としてめちゃくちゃ面白だけでなく、アメリカの歴史の理解などにもきっと役に立つであろう小説である。分量多くてびっくりするがぜひおすすめの一冊。


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