過労死バナー

父親の過労死のために闘う遺児へのご支援をお願いします!

私たち「総合サポートユニオン」と労働NPOである「NPO法人POSSE」が支援している過労死の事件について報告します。

■「俺は働きすぎだ。この会社はおかしい、何かあったら訴えろ」

この事件は、岩手県奥州市の機械部品製造会社「サンセイ」で働いていた51歳のAさんが、2011年8月、突然脳幹出血を理由に亡くなったというものです。当時、Aさんは営業技術係係長として、営業活動から金型の見積作成・納品、部下の指導や査定、さらには会社の親睦会運営など様々な業務を任されており、その結果、毎日毎日、残業が続いていました。

家族の証言によれば、毎朝7時に家を出て、帰ってくるのは夜11時。休みのはずの土日も、出来るだけ早く顧客に商品を届けるために、自家用車で宅急便の営業所に出来上がった金型を持っていくなど、ほとんど休みが取れていませんでした。

Aさん自身も働きすぎだと感じていたようで、家族に「俺は働きすぎだ。この会社はおかしい、何かあったら訴えろ」と伝えていたほどでした。亡くなった後に行われた労働基準監督署の調査では、最大で111時間の残業があったことがわかっています。

大学生になったAさんの息子が、ブラック企業に関する集会でたまたまPOSSEのメンバーと会ったことで、現在は会社(サンセイ)とその役員に対して、過労死に対する責任を追求する民事訴訟を、昨年11月16日に提起しています。

先月(11月)12日に第6回目の期日がありました。1年前の提訴から、2ヶ月に一度のペースで裁判所でのやり取りが続いています。

この裁判の論点は、下記の2点です。

①亡くなった原因が会社の働かせ方にあるかどうか。

②「偽装倒産」だったかどうかです。

■労基署は働き過ぎが原因である過労死と認定

まず一点目についてですが、そもそも過労死と認められるにはまず遺族が労災を申請しなければいけません。国(労働基準監督署)は遺族の申請をもとに調査を進め、過労死(=労災)かどうかを判断します。

Aさんのケースでは、亡くなった半年後の2012年1月にAさんの妻が労災申請を行い、2012年7月に花巻労働基準監督署から労災との認定が下りました。労基署は、亡くなる直前の1ヶ月に85時間48分の、2ヶ月前は111時間9分の、3ヶ月前は88時間32分という、過労死ラインの月80時間を超える残業があり、「著しい疲労の蓄積をもたらす特に過重な業務に従事していたと認められる」と判断しました。会社の働かせ方に原因があった、と国が認めたことになります。

※亡くなる約1ヶ月前(2011年7月12日)の日報。7時55分から23時00分まで働いていたことが分かります。

■裁判で会社側は月72時間の残業は「長時間に及んでいたとまでは言えない」と主張

しかし、裁判のなかで会社側は自分には責任がなかったと一貫して述べており、そのことを「証明」するために、独自の計算方法を使って「残業はこれしかなかった」と主張しています。しかも3パターンの時間数を提示してきたのです。1つ目は、5分や10分休憩が取れていたはずだとしてその分をカットした時間、2つ目は取締役が把握していた時間、3つ目は30分未満の残業を切り捨てた時間です。それぞれ、トータルの労働時間が違います。

そもそも、働いた時間は1つしかありえません。会社がなぜ労働時間が3パターンあり得ると考えたのかは理解に苦しみます(どうやって残業代を計算していたのでしょうか?)。会社がこういった資料を提出したのは、どんな方法を使っても数字を減らして過労死ラインの80時間以下に見せかけるため、だとしか思えません。

独自の、しかも30分カットという労基法違反を自白する形で計算した残業時間を3パターン示した上で、会社側はこう結論づけています。

「(注:会社側の計算方法では)Aさんの死亡前直近1ヶ月の時間外労働時間数は70時間程度であり,直近6ヶ月間の平均時間外労働時間数も72時間程度に過ぎない。したがって,Aさんの時間外労働時間数は,長期間にわたって長時間に及んでいたとまでは言えない。今回, Aさんが亡くなったことは不幸な出来事であったが…被告サンセイに安全配慮義務違反はなかった…取締役らの時間外労働時間数の管理及び認識からすれば,同人(注:取締役)らに重過失はなかった。」

72時間の残業は過重とは言えない、亡くなったのは本人の責任だ、会社と役員には責任がない… 会社側はとにかく否定し続けて、賠償額をできるだけ少なくすることだけを狙っています。

■労災認定直後に会社は解散、同社の役員が代表取締役である別会社を設立

この事件が通常の過労死裁判と違うのは、Aさんが働いていた会社「サンセイ」がすでに解散してしまっている点です。これが2つ目の論点です。

「サンセイ」は2012年12月に解散しています。しかし、全く同じ場所に当時と同じ工場が建っており、今も同じような部品を作っています。どういうことでしょうか。

「サンセイ」が解散すると、経営者が同じ別会社に一旦資産が移転され、その後の2017年7月に、名前がそっくりの「サンセイイワサ」に再度資産が売却されました。新しい「サンセイイサワ」の代表取締役は、「サンセイ」の役員です。

もともとAさんが働いていたのは「サンセイ」という会社の「イサワ支社」でした。確かに形式的には別会社ですが、Aさんが働いていた「サンセイ・イサワ支社」と、「サンセイイサワ」は、名前はそっくりです。

Aさんの遺族は、会社側が一旦もとの会社を解散させて新会社を立ち上げたのは、遺族への補償を免れるためではないかと考えています。というのも、「サンセイ」が解散したのは2012年12月、つまりAさんの労災が認められたわずか5ヶ月後だったからです。

■このような資産移転が認められてしまえば、過労死の責任逃れができてしまう

現時点では遺族が勝訴しても、「サンセイ」はすでに解散して1円も資産がないため補償を受け取ることはできません。そこで「サンセイイサワ」から「サンセイ」に形式的に資産を戻すよう、詐害行為取消請求という裁判を同時並行で行っています。これが認められれば、資産が戻された「サンセイ」から遺族が補償を受けられる可能性があります。

今回のような資産移転が認められてしまえば、過労死認定が下った直後に解散すれば責任逃れができることになってしまいます。「偽装倒産」は残業代支払いや不当解雇による賠償支払いを避けるために多くの企業で行われていますが、過去に問題になったことケースが少なく、ほとんどの方が泣き寝入りしている状況です。遺族の代理人を務める指宿昭一弁護士も、今回の事件がいわゆる「偽装倒産」のリーディングケースになる可能性があると述べています。

さらに会社が提出した資料から明らかになったのは、解散時には当時の役員が合わせて2億9000万円もの退職金を受け取ったことです。労災認定された労働者の家族には謝罪も1円の補償もしていないのに、長時間労働を課していた役員が3億円近い報酬を受け取るという理不尽なことがあっていいのでしょうか。会社側は「偽装倒産ではなかった」と主張していますが、仮にそうでなかったとしても遺族に対して誠実に向き合うべきです。

■過労死そのものを日本からなくすために、サポートをお願いします!

Aさんの遺族は、裁判を起こして事件を公表しようと思ったのは、会社に謝罪と補償を求めるためだけでなく、どこの職場でも見られる長時間労働・過労死をなくすためだと言います。

日本には過労死が蔓延しています。2017年度は1年間で190件が過労死・過労自死(未遂も含む)として労災認定を受けていますが、その背景には申請しても認められなかった人やそもそも申請すらできなかった人がたくさんいます。

次回の裁判は、年明けの2019年1月16日(水)に横浜地方裁判所で行われます。わたしたちはこの裁判支援も含めて、働きすぎによる過労死・自死を少しでもなくすことができよう、さまざまな取り組みを行なっていきたいと考えています。

こうした思いや取り組みに賛同していただける方は、少額でもサポートをいただけると大変励みになります。いただいたご支援は、過労死の裁判支援をはじめ、労働環境を是正するための活動に活用させていただきます。ぜひ引き続きフォローとご支援をお願いいたします。

総合サポートユニオンの活動を応援してくれる方は、少額でもサポートをしていただけると大変励みになります。いただいたサポートは全額、ブラック企業を是正するための活動をはじめ、「普通に暮らせる社会」を実現するための取り組みに活用させていただきます。