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竹中土木と労災補償をめぐる団体交渉が始まりました。

 総合サポートユニオンと労災ユニオン(総合サポートユニオン労災支部)は、ダムの建設現場で怪我をした測量士のAさんに対する労災適用と損害賠償、労災事故防止策の実施を求めて、元請の株式会社竹中土木と2次下請でAさんを雇用する有限会社三和正測の両社に団体交渉を申し入れました。11月15日に竹中土木との第1回の団体交渉が行われましたので、事件の経緯と交渉の様子をご報告いたします。

〇山中の廃棄物処理ダム建設現場で起きた労災事故
 Aさんは建設業界で40年以上も働いてきたベテラン測量士で、現在は三和正測に雇われています。2022年4月から千葉県君津市の環境整備センター第3期増設事業(施主:新井総合施設株式会社)のため現場入りし、5月初旬から測量を行っていました。

 7月21日、Aさんはこの現場の最難関箇所の基準点測量を試みたものの、足場が悪く危険なため続行困難と判断し、作業を中断して戻る途中に足を滑らせ、3~4メートルの崖下に落ちてしまい、左ひざを挫傷しました。事故現場は左右が崖になっている斜面でAさんが落ちた側は緩やかでしたが、反対側は約30メートルの急な谷になっており、そちらに落ちていれば死亡労災になっていたかもしれない危険な事故でした。

 事故の背景には、次のような原因が考えられ、ユニオンは会社の安全対策が不十分だったのではないか、と疑念を抱いています。

1 当日は測量のための器具や木製の杭を両手に担いでの移動にも関わらず、しょい子、リュックなどが用意されていなかった
2 急斜面の作業にもかかわらず立会がなかった
3 危険の認識がなかった (勾配図がなかった) 

〇大怪我でも絶対に休業災害にはさせない、竹中土木と三和正測
 事故の当日、Aさんは竹中土木の社員と一緒に医院での診療を受けました。歩行困難と診断されていたにもかかわらず、竹中土木の事務員は医師に軽作業なら可能かと確認し、次の日から出勤させています。
 しかし、出勤したとはいっても、朝礼の会場まで行くことも困難で、現場作業もできず、車の中や休憩室で座っていることしかできない状況でした。Aさんがやるべき軽作業は何もありません。
 歩行困難な状況ですし、仕事がないなら休んでいた方が怪我にはいいはずです。また、無理して出勤して二次災害が出る可能性すらあります。
 それにも関わらず、竹中土木が休業させなかったのは、労働災害によって休業になった場合、会社は死傷病報告を提出する法的義務があるからではないかと私たちは考えています(死傷病報告のルールについては厚労省HPをご覧ください)。

 Aさんは8月中旬以降は足を引きずりながら現場作業をするようになりました。9月に入ってからAさんの足の痛みは悪化し、とうとう出勤できなくなってしまいました。
 そこでAさんは再び病院を受診し、MRIとレントゲン検査を受けました。9月16日、Aさんは、もっと大きな病院で専門医の判断を仰ぐべきという医師の勧めで、千葉県済生会習志野病院の診療を受け、手術も考えなければならないとまで言われました。
 診療が終わると、この日も同伴していた竹中土木の事務員はAさんに「休業災害にはできないから出勤してほしい」と懇願しました。Aさんは私服だったこともあり一旦は拒みましたが、何度も念を押され、しぶしぶ行くことにしました。しかし、事務所に行っても仕事があったわけではなく、何もせずに3時間ほど過ごしただけでした。

 このように竹中土木はケガをしたAさんを何としても休ませまいと執拗にこだわりました。これら竹中土木の対応は労働者の安全を守るという会社の義務に反する違法行為と言えるのではないでしょうか。

〇休業後の賃金は、たった4万円強
 10月の賃金支払い日にAさんは明細を見て驚きました。たった、4万円強しか入っていなかったのです。その理由は休業補償は支払われておらず、3ヶ月分の社会保険料が先払いとして違法に控除されていたのです。
 また、労災を休業災害に変えてほしいといっても、竹中土木も三和正測も一向に認めてくれませんした。

 そこでAさんは労災ユニオンに加盟して、交渉することに決めたのです。

〇第一回団体交渉の内容
 
私たちが団体交渉を申し入れ、労災申請への協力を求めたところ、竹中土木は11月4日付の回答書で労災申請書に署名することに同意しました。労働組合として申し入れをするまで、休業災害として対応することを先延ばしにしていたのは明らかでした。ただし、会社側は団体交渉の場でもあいまいな答弁をくり返し、話をうやむやにしようとしました。

1)事故の経緯について

 まず事故の経緯をめぐって対立しました。会社側は目撃者として職長を挙げ、さらに下請会社からの報告として、転落した事実はなく、休業労災だとは認識していないと回答しました。しかし、事故当時は周りに誰もいなかったとAさんは証言しています。私たちは事件の直後にどのような調査が行われたのか質問しましたが、会社側は当日の現場責任者が出席していないため「即答ができない」としか答えませんでした。

 にもかかわらず、会社側は「荷物を持ち過ぎていたのではないか」などと、事故の原因をAさんの責任にしようとしてきました。会社側は労基署への事故報告書でも、「足元の確認が疎かになった」ことと「杭の束が崩れかけた」ことを事故の「人的要因」として挙げ、Aさんの責任を強調しています。一方、会社側の「管理的要因」としては、「移動時間の長くなる駐車位置を指示していた」ことを挙げているのみです。

 しかし、そもそもこの現場では、危険予知活動(KY)や地形図を見て危険箇所を確認する等の安全対策を怠っており、名前と体温を書くだけの形式的な朝礼で済ましていました。過去にAさんの同僚が労災事故にあった時も、本人から直接聞いたためAさんは知っていたものの、朝礼でチーム全体に事故について周知されることはありませんでした。さらに、足場が悪く危険作業を伴う現場だと認識されていたにもかかわらず、リュックや背負子は用意されず、急斜面の作業でも立会人が配置されていませんでした。

 これらの問題は、事故当日に通院後のAさんを交えて行われた会議でも、事故の原因として指摘されていたそうです。しかし、会社側が作成した労基署への報告書には一切記載されていません。

 Aさんが事故にあった現場では、今年に入ってAさんの他に3件の労災事故があったといいます。これらの状況について質問しても、「資料を確認しないとわからない」という回答でした。事故の共通性や予防措置の有無から会社の安全対策の程度がわかるため、私たちは次回の交渉までに事故調査の報告書をまとめて提出するよう要求しました。

2)出勤扱いにした理由について
 会社側は事前の書面での回答書で、Aさんが最初に診療を受けた榎本医院の担当医から「軽作業なら可能」という診断を受け、さらに習志野病院の担当医からも「デスクワークであれば就業可能」という診断を受けたことを理由に、Aさんを出勤させても問題ないと判断したと主張していました。

 しかし、ただ車の中や休憩室で座っていることしかできなかった状態を「就労」と呼ぶのでしょうか。「軽作業」として何が想定されていたのかと質問すると、「通常の測量作業ではなく、本人の意思を確認して、できる仕事をやってもらおうとした」というあいまいな回答でした。では、実際にAさんはどこで、どのような作業を行ったのかと質問すると、「それは下請会社に確認しないとわからない」という回答でした。

 9月16日にAさんが習志野病院で診察を受けた際にも、会社側は出勤を要請しています。団体交渉の場でその理由を尋ねると、「会議に出席してもらい怪我の状態を確認したかった」という回答でした。しかし、Aさんはそのような話を聞いていませんでした。病院から出た時に竹中土木の事務員から言われたのは、「とにかく来て欲しい」「待機させてしまうので1日出勤扱いにする」ということだけでした。怪我の状態を確認したいのであれば、電話ではだめだったのか、怪我人を移動させてまで必要なことだったのか、疑問が残ります。仮にそこまで重要な会議であれば、なぜAさんを出勤させる際にそう言わなかったのでしょうか。しかも、その会議なるものは結局開かれず、事務所でAさんは何もしないで過ごしたのです。

 しかも、習志野病院では「十字靭帯損傷、骨挫傷」という診断になり、手術が必要かもしれないので専門医の判断を仰ぐようにと言われていました。それで26日に再受診し、手術の必要はないということになりました。診断があとで変わったわけですが、16日の段階では手術になるかもしれない、専門医でないとわからないという状況でした。そんな状態の人を竹中土木は出勤させたわけです。団体交渉での会社側の説明からは、こうした事実が完全に抜け落ちていました。

 怪我人を無理に移動させない方が良かったのではないか、という私たちの問いかけに、Aさんに同伴していた事務員は、「ひざへの負担って何かありますか」と回答しました。被災した労働者に適切な補償をせず、「出勤」を偽装したことを全く反省しない会社側の姿勢に怒りを覚えます。

〇今後も事実関係の解明と再発防止策の徹底を求めていきます
 
今回の交渉では、会社側の準備不足のために、事実関係の確認がメインになりました。それでも、会社側のずさんな対応がすでに浮き彫りになっていると思います。過去に4件の労働災害があったと竹中土木は言いますが、もっと多くの事故被災者が泣き寝入りしてきたのではないかという考えが消えません。
 今回、労働組合として団体交渉を申し入れたことでAさんは労災申請ができるようになりました。しかし、事故の経緯や休業の扱いをめぐって対立があります。今後も事実関係の解明と再発防止策の徹底を求めていきます。皆さまのご協力をお願い致します。

〇建設現場での労災隠しでお困りの方はお気軽にご相談ください。
 今回のような労災隠しは建設現場では日常茶飯事ではないでしょうか。労災申請してもらえない、休業手当をもらえない、労災で首になったなどのトラブルでお悩みの方はご連絡ください。相談は無料、秘密は厳守いたします。

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