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オンプレ ファイルサーバからのクラウドストレージ移行プロジェクトをやってみた件

この記事はリクルート ICT統括室 Advent Calendar 2023 7日目の記事です。

ICT統括室の、後藤です。
お仕事では、事業領域・機能組織に対するICT施策の推進やDX推進・支援を担当しています。
この記事では、オンプレミスのファイルサーバから、SharePoint・Google Driveといったクラウドストレージへの移行プロジェクト、および「クラウドシフト」に全社で取り組んでみた結果、そこから得られた学びや気づき、今後の方向性について、お話したいと思います。
「ファイルサーバのクラウドシフトをやっていきたいんだよー 💪」という方に、ちょっとでも参考になれば嬉しいです。



クラウドシフトは成功したのか?

最初に、プロジェクトの結果から述べますと、
「十分なクラウドシフトまでは実現出来ず… とはいえ課題は明確になった」
という状態です。
クラウドストレージへ移行できたのは、ファイルサーバとの併用も含めて全体の38%程度にとどまりました。
以下、プロジェクトの詳細を書いていきます。


プロジェクトの背景・始まり

長年にわたり、リクルートではオンプレのファイルサーバを使っています。
DXに積極的な組織や、開発組織などの一部組織では、SharePoint OnlineやGoogle Driveが利用されはじめていましたが、全社的にはまだまだファイルサーバを中心に業務をしている状態でした。(全体の95%くらいはファイルサーバ利用)

そんな当社のオンプレのファイルサーバですが、2025年2月にEOSLを迎えます。
「ファイルサーバの移行は絶対に必要。じゃあ、移行先はどうする?やっぱり今後を考えると、クラウドストレージに変えていきたいよね!!」
ということで、ファイルサーバの単純移行プロジェクトではなく、「クラウドシフト」のプロジェクトとしてスタートしました。

移行方針をどう考えたか

プロジェクト当初の移行方針は、大きく以下の2点です。

  • ① 基本はクラウドストレージで、 メインの移行先はMS OfficeやVBAを利用でき、OneDrive同期でエクスプローラーからも利用できるSharePoint。

  • ② Accessなどクラウド移行が難しいものはファイルサーバ利用を許容。ただし、数年後にはクラウド移行できるように事例の創出などを行う。

それぞれの詳細です。

① 基本はクラウドストレージへ。メインの移行先はMS OfficeやVBAを利用でき、OneDrive同期でエクスプローラーからも利用できるSharePoint。

まず、大前提として、今後の働き方を踏まえて、移行先は「クラウドストレージ」を原則としました。
エクスプローラーではなくブラウザでの操作になる、といった部分は、慣れてもらう必要がありますが、

  • ファイルサーバの課題の説明

  • 共同編集や自動履歴管理などのクラウドストレージの利便性を訴求

といったことをやっていくことで、現場からも理解を得ていこう、という方針としました。

📝 参考
ファイルサーバの課題としては以下のようなことを説明しました。

個人依存のドライブ名問題
Aさんから「Qドライブ」でファイルパスで送られても(file:///Q:\)、Bさんは「Rドライブ」として接続しているので(file:///R:\)、クリックしても接続できない。(あと、そもそも、Macユーザはドライブ名でパスを共有されても接続できない)

履歴・バージョン管理でのファイル増殖問題
xxx資料_yyyymmdd_ver0.5_aさんコメント版.doc みたいなファイルの大量発生...

社用スマホからの接続が困難

Excelのロック解除待ち問題(他の方に、ファイルオープンのまま放置されるとなにも編集できない...地獄...)

移行先のクラウドストレージですが、あくまで個人的には、Google Driveに気持ちが傾いてました。
ブラウザで操作が完結できますし、共同編集もスムーズ。Accessのような処理も、BigQueryへのコネクテッドシート接続でスムーズに扱えます。また、ファイルの検索体験など、現時点ではGoogleに軍配が上がると感じています。MS Officeとはちょっと操作性が違うので、そこに慣れるまではちょっと大変ですが、慣れだけの問題だと思っています。

とはいえ、全社的には、Office利用が圧倒的。過去の情報資産もほぼ全てMS Officeということで、流石にGoogle Driveへの移行は現場負担が大きすぎます。

また、クラウドシフトに対する最大のハードルは、現場で大量に利用されているAccess・VBAなどのツールだと考えていました。
Google Driveに移行する場合、これらは全て大幅な改修が必要になりますが、SharePointであれば、VBAはそのまま利用可能 or 一部関数の書き換えで対応可能です。

これらを踏まえ、MS Office製品をそのまま使え、ツール改修の負担を軽減できるSharePointをメインの移行先として、プロジェクトとしても移行フォロ
ーする方向で推進することにしました。

また、クラウドストレージへの移行を最大限に進めるために、UIが変わらないというメリットも伝えよう。OneDrive同期機能を使って、SharePointをWindowsのエクスプローラーで使えることもメリットとして説明しよう、となりました。
(※ Google Driveでも同様の機能がありますが、DriveAPIで社内セキュリティ基準における課題があり、リクルートではドライブ単位の同期は無効化しています)

💭私自身は、OneDrive同期は更新のタイムラグなどの懸念もありますし、そもそもローカルで作業する意識を変えたい、と思っていたので反対していました。ただ、ユーザ側の心理的ハードルという観点も確かに重要なポイントなので、進め方として同意しました。

② Accessなどクラウド移行が難しいものはファイルサーバ利用を許容。ただし、数年後にはクラウド移行できるように事例の創出などを行う。

Accessについては、クラウドストレージに移行しようとすると改修が必須になります。
現場では数千レベルのAccessツールが利用されており、流石に全てをプロジェクト期間中に対応するのは非現実的🥲

そのため、このようなケースでは、限定的にファイルサーバへの移行を許容する方針としました。
ただ、リクルートでは、端末をVDIからFAT端末に切り替えており、その関連でAccessが遅いという問題も出ています。(詳細は参考欄に記載)
そのため、このプロジェクトを契機に、クラウドシフトの対応事例を考えていこう!と決めました。

📝 参考
リクルートでは、メインの端末環境は以前はオンプレのVDIを利用していましたが、数年前に、FAT端末をメイン環境に切り替えました。

これまでのオンプレVDIとオンプレのファイルサーバーは、同じデータセンターですぐ近くにあったので、アクセス性能が爆速でした。
コロナ禍でリモートワークになった際にも、VDIであれば、「VDIに繋いでそのお隣のファイルサーバに繋ぐから、VDI操作はもっさりすることがあっても、ファイルアクセスは早い」という状況でした。
それが、FAT端末に変わったことで、FAT端末からファイルサーバへのアクセスがめちゃくちゃ遅い!!という不満の声が多く届くようになってしまいました。
これまで、お隣にある機器に専用のネットワークでアクセスできていたものが、端末からインターネット+VPNで遠いところにアクセスする形になったので、VDIでAccessを使っている従業員にとっては、めちゃくちゃ顕著な性能劣化になってしまいました。

やってみてわかった事と、プロジェクト方針の変更

実際に進めてみると、当初想定していなかったことがいろいろ見えてきました。
その結果、早々に、プロジェクトの方針を以下のように切り替えることになりました。

  • Before:「原則はクラウドストレージ!! メインはSharePoint Online!!」

  • After:「SharePoint Online・Google Drive・ファイルサーバのメリット・デメリットをフラットに提示し、現場に選んでもらう」

方針を変更したことで、プロジェクトの対応をしていただいてる方々には迷惑をかけてしまいました 🙇

ただ、そのまま進めても結局現場が困るなら、ファイルサーバにもう一度移行する、みたいなことになりかねないので、この判断は正しかったと思っています。

当初の方針に対して、直面した課題・分かった事は以下の通りです。

【当初方針①】
基本はクラウドストレージへ。メインの移行先はMS OfficeやVBAを利用でき、OneDrive同期でエクスプローラーからも利用できるSharePoint。

課題① クラウドストレージの利便性 <<< 業務変更のハードル

ファイルサーバの課題、クラウドストレージの利便性を説明してみたものの、正直、そこまで共感を得られませんでした。
現場的には、現行業務を変える方が圧倒的に大変ということもあり、クラウドストレージよりファイルサーバをそのまま使いたい、という声が多数出ました。

想定していた反応ではあるものの、メリットや自分たちの働き方に対するベネフィットをもっともっとうまく伝えていく必要があるな、といま改めて考えています。

課題② 「OneDrive同期でエクスプローラー利用」で問題多発!

OneDrive同期を実際に現場で使ってみると、膨大なドキュメントライブラリ全体を同期設定したりされたりして、

  • そもそもファイルの同期が一向に終わらない

  • ファイルが増殖する

  • ローカルでいらないと思って消したら、SharePoint Onlineのファイルが全部消えていた

といった問題が発生してしまいました…🥲

技術チームで、OneDrive同期の調査をした結果、同期できる最大数はそこまで大きくないことなどが判明しました。そのため、プロジェクトとして、明確にOneDrive同期は推奨しない、という方針に切り替えました。
(事前の我々ICT統括室における利用では、そんなに問題になっていませんでした。現場の様々な使い方を想定した検証は難しい...)

課題③ SharePointの仕様・制約

SharePointオンラインの検証や試算を進めてもらったことで、当初想定していなかった仕様・制約が判明しました。

  • 1) 容量コストが想定より高くなりそう

    • ファイルの履歴管理機能を便利に使ってもらう想定だったが、SharePoint Onlineに格納しているファイルを更新すると、更新前のファイルは旧バージョンとして別ファイルで保存される。​(例:100MBのファイルを10回更新すると、1GBのストレージ容量を消費)

  • 2) ドライブ・フォルダ配下に10万以上のファイル・フォルダがある場合、権限変更やファイル・フォルダ名の変更ができない。(アラーム等も出ない)


課題①-③に加え、SharePointについては、

  • ブラウザでの編集だと操作性が良いとはいえず、アプリを起動してもらう必要がある

  • ファイルのURLが操作によっては変わる(このバリエーションも複雑)

といった点もあり、「本当にクラウドストレージ移行を原則として、SharePoint Onlineをメインの移行先として進めるのが、会社にとって最適なのか?クラウドにシフトはできるが、生産性や利便性との観点で最適なのか?」という話になり、方針を切り替えることになりました。


【当初方針②】
Accessなどクラウド移行が難しいものはファイルサーバ利用を許容。ただし、数年後にはクラウド移行できるように事例の創出などを行う。

課題④  Accessの接続先がほとんどオンプレのDBサーバ

当初から、ファイルサーバーをクラウドストレージに切り替える上で、Accessの対応は大きな課題だと認識していました。
そのため、プロジェクトとしては、関係性がある現場に声をかけながら、実際に困ったAccessについて、中身を確認させていただきつつ、改修のパターン・ガイドの整理を狙っていこうと思っていました。
しかし、蓋を開けてみると、以下のようなものが大半でした。

  • オンプレの経理データがあるDBサーバにODBC接続するもの

  • オンプレの事業データがあるDBサーバにODBC接続するもの

Accessの作成者が既に離任していることも多く、現場で中身が把握されていないケースが多数あり、今回ファイルサーバ移行という名目で調査を進めた結果、このような状況が明らかになってきたのですが、これが想定外でした。

というのも、これらのオンプレ系DBサーバには、ネットワーク・セキュリティの観点から、SharePointOnline、GoogleDriveから接続させることはできません。
つまり、クラウドストレージから接続できるデータを用意しないと、そもそものAccessの切り替え自体が難しい、ということでした。

この点から、Accessの置き換え・事例創出は実質ほとんど進まず、基本的にAccessを使っているものは、周辺ファイル含めて、そのままファイルサーバに移行となりました。


プロジェクトの成果・今後の対応と課題

2023年12月時点で、既存のファイルサーバのデータは、すべて移行できたので、まず既存のオンプレ ファイルサーバのEOSLを迎えられる状態にはなりました。

クラウドシフトのプロジェクトとしては、冒頭に記載した通り、
「十分なクラウドシフトまでは実現出来ず… とはいえ課題は明確になった」
という成果になります。

また、以下のような点も、プロジェクトをやって良かった点だと思っています。

1)限定的にでも変革の流れが起きてきた

  • 限定的にでもクラウド利用が広がったことで、メリットの理解をしてもらえる範囲が増えた

  • 一部の組織では、このプロジェクトを機会と捉え、働き方変革プロジェクトとして推進してくれた。ファイルサーバからクラウドストレージに移行するだけではなく、そもそもファイルじゃなくてよいものは、Confluenceに置き換えることで、情報共有の在り方から進化を促してくれた

2)移行課題、というか、クラウドシフトの阻害要因がより明確になった

  • ① クラウドストレージで動作しないツール(Access/VBAなど。RPAも含む)

  • ② クラウドストレージから接続できるEUCデータ環境の整備(NEW!)

  • ③ 慣れの問題、クラウドストレージへの理解不足(特に不慣れさからくる利便性低下への抵抗感)

①が最大の課題です。
これは当初から想像はしていたものの、やはりかなりの数のツールが現場で利用されていました。このボリューム感・改めての難易度を理解できたのは、プロジェクトの一つの成果であるとは思っています。

②クラウドストレージから接続できるEUCデータ環境の整備については、現在別の案件として取り組んでおり、経理データをBigQueryに連携したものを2024年1月に提供予定です。
このBigQueryに対して、スプレッドシートのコネクテッドシートで利活用できる状態と、効率化の事例を作っていく方向で動いています。

③については、今後クラウドストレージがより便利に、一般的になっていくことで、解消されていくだろう、と見ています。
また、プロジェクトの開始当時(2022年3-4月ごろ)は、「今後はクラウドの方が進化するはず」ということも言っていましたが、具体的な内容は言えなかったので、メリット訴求ができませんでした。
ただ、2023年12月現在では、生成AIの活用という点で、クラウドストレージ利用による大きなメリット・可能性を伝えられるタイミングになったと思っています。

最後に

プロジェクトとしては、一旦、データ移行が完了したことで終了となります。

当初目指していた、クラウドシフトについては、まだ一歩目を踏み出したくらいの状態です。
とはいえ、一歩踏み出せたことは、決して小さくない成果だと思っています。

プロジェクトは終わりましたが、今後は文化醸成含めてクラウドシフトの営みを継続して続けていきます。

リクルート ICT統括室 Advent Calendar 2023では、リクルートの社内ICTに関する記事を投稿していく予定です。
もし興味があれば、ぜひ他の記事もあわせてご参照ください。


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