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バタフライ【即興小説】

 子供の頃、よく虫取り網を持って綺麗な蝶を捕まえにいった、なんていうのはもう昔の話で、今の子供達はあまり外で遊ばない。
 今の子供たちはHMDを頭に装着して、ネット空間で繰り広げられる戦いに熱中する。初期のVRは視覚と聴覚だけしか認識できなかったが、研究は進み、付属も数種類の香料を組み合わせることにより嗅覚、ちょっとゴツいグローブ型のコントローラーをつけることによって触覚を認識することができるようになった。
 窓から外を見ると、高層ビルとマンションが立ち並び、コンクリートに覆われた街並みが目に映し出される。人工物で埋め尽くされた町。便利な反面、自然災害が起こると甚大な被害が出る。雑な設計が災いして地震でビルが倒壊したと、ニュースで伝えられていたことをおもいだす。そして、こんなところでは虫なんかいやしない。空は灰色で気分も陰鬱になってきそうなので、VRを起動して何か気晴らしにゲームでもしようかと思った。
 頭にHMDを装着してグローブをはめる。HMDの上部に設置されたボタンを長押しすると。画面にロゴがうっすらと浮かび上がる。それから、アプリショップを開く。上から順に、評価★4以上のアプリ、無料人気アプリ、というふうにカテゴリーに分類されているアプリを眺めていく。その中に、「家の中で自然を楽しもう」というカテゴリーがあった。こんな天気の日には丁度いい。いくつか並ぶアプリを見ると、その中に「butterfly」というアプリがあった。青色の蝶が虫取り網に捕まえられそうになっているイラストがアイコンに表示されている。面白そうだな。と思いアプリをインストールして開く。
 「butterfly」の文字が映し出された後、簡単な説明が表示された。インストールする前に説明をよく読まなかったのが悪いのだが、まさか自分が蝶になるとは思っていなかった。蝶を網で捕まえるゲームだと思っていたが、自分が蝶で、網を持った人間から逃げ惑うゲームだった…ホラーゲームと言えるかもしれない。気晴らしになるかは微妙だが、胡蝶の夢を体験できるというのは魅力的だった。
 プレイを開始した。自分は上空に浮いていて、眼科には自然豊かな町が見えた。そこから強制的に高度を下げられた。すると、10メートルほど先に虫取り網を持った人間の子供が見えた。麦わら帽子を被り、半袖半ズボンの少年で、絵に描いたようなビジュアルだった。なんて呑気に見ている暇もなく、少年は私めがけて走りながら網を縦横無尽に振りかざした。少年は、蝶の私からは怪物に見えた。急いで操作をして虫取り網から逃れようとするが、こちらがそう速く移動できないのに対して怪物は簡単に距離を詰めることが出来た。数分格闘していたが、ついに捕まえられると思った。網は私めがけて勢いよく真っ直ぐ振り下ろされ、私の速さでは網の範囲より外に出ることは不可能だった。諦観して逃げるのをやめた。網が私に降りかかるのと同時に、私の頭に硬いものがぶつかり強い衝撃が加わった。
 ディスプレイは永遠に、「GAME OVER」を表示し続けた。

鏑木典範(高校1年)

Photo by Anne Lambeck on Unsplash

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