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ファイアー【即興小説】

「ねえねえ、この問題解いてみて。」
「え~、俺数学苦手だからな~」
「これは数学の問題じゃない、パズルだ。」
 友達が俺に出したのはマッチ棒の入ったケース。彼はケースから10本ほどのマッチを取り出し、机に並べた。誤っている計算式だ。マッチ棒を動かす問題か。小学校の時に流行っていたが、苦手だったため、好きではない。まあ、友達の誘いを無下にするのもいかがなものかと思い、ビール缶を片手にゆっくり問題に対峙することにした。
「十分経過~」
 友達が煽ってきた。十分経ったが私は未だ問題を解くことが出来ない。外はもうすっかり日が落ちていて、虫の音が聞こえてくる。連休を利用して、富士山がよく見えるキャンプ場までキャンピングカーでやってきた。そこまで人気の場所でもないので人の数も丁度良いくらいだ。アウトドアチェアにどっかりと腰を下ろしてドリンクホルダーに固定してあるビール缶を指で弄りながらバーベキューコンロ越しに友達の顔を見る。
「分からんよ。お手上げだ。」
「そうか、まあいい。とりあえず僕はトイレに行ってくるよ」
 誤った計算式は直すことができなかった。
 トイレに友達が向かったのを見送ると、俺はマッチを全部擦ってバーベキューの火に投げ込んでしまった。そして、紙皿にトングでアスパラガスを取って食べた。
 これで心の整理がついた。もう心残りはない。後は勇気を持って明日飛び立つだけだ。怖くなんかない。

鏑木典範(高校1年)

Photo by Danny de Jong on Unsplash

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