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2022年1月文芸部活動記録

課題図書・短編精読

冬期休暇中の課題図書は二冊。

良質かつ多彩な短編に触れてほしくて選んだ。

その上で、鏑木典範君の選んでくれたシオドア・スタージョン「影よ、影よ、影の国」については、翌週に精読。
みんな、なかなか深いところまで読み込んできてくれて、充実した時間になった。

スティーヴン・キングの方も、「一四〇八号室」を二月上旬に精読予定。

映画鑑賞

高校生が共通テストの同日体験模試の関係でぽっかり空いた15日(土)を使って、中学生は映画鑑賞。
先月、高校生だけに見せていた『コックと泥棒、その妻と愛人』を見せる。
(なかなかに際どい判断ではあったが。)

ここまで来たら、手元にある『英国式庭園殺人事件』と『ZOO』も見せるしかないなあ。

展覧会鑑賞

その翌週には、造形作家・池内啓人による個展「IKEUCHI HIROTO EXHIBITION」を鑑賞。
そのポップなSF的想像力/創造力に、みな大いに刺激を受けた。

即興×競作①

月の後半は、コロナの拡大を受けて、学校がオンラインに。
その関係で、部活もオンラインに。
実施したのは即興×競作。

一回目のお題は、以下。

書いた作品にちょっこっと手を入れて仕上げたのが、以下の三作。

顧問の作品は三本目。
他にも、以下のような作品が寄せられた。

どこまでも青く透き通った広い空に、白い雲。山脈の稜線、蝉の鳴き声、ジリジリと照らす太陽。
昨日と同じようにそれらに包まれ、僕は縁側に寝転び、猫と戯れていた。
「お〜い、隆彦や〜い」
時計などいらない、太陽だけを頼りに生活していくこの小さな集落で、遊びに誘ってくるのは征四郎くらいだ。
「虫取りに行こうぜ」
僕は縁側を蹴るようにして起き上がり、灰皿と新聞が乱雑に置いてあるちゃぶ台を飛び越え、毛利隆元が書いたという掛け軸を一瞥し、下はパンツにシャツ、靴下に無地のスニーカー、上はシャツ一枚に、首から虫かごをぶら下げるという出立ちで、玄関に立てかけてある虫取り網を手に取って家を飛び出した。
「これ、隆彦」
鋭い声が一本の矢の如く僕の脳天に突き刺さった。
「帽子を被らないと、日射病になるよ」
言った後で、祖母は二階の窓から顔を出した。僕が家に戻ろうとすると、同じ窓から弟の靖就が顔を出し、「兄ちゃん、ほうれ」と僕の麦わら帽子を投げた。祖母は何も言わず顔を引っ込めた。
「いってらっしゃい、ヘラクレスオオカブト取ってきてな」
「んなもん日本にはおらんがな」
弟が窓から身をのりだして手を振ると、祖母がピシャリと「危ないから引っ込みなさい」と言った。
「お待たせ」
「よぉし、レッツラゴー!」
走り出す。
「そういや、自転車買って貰うって話、どうなったの?」



 荷物を運ぶ。なぜ運ぶか。運びたいから運ぶんだ。これが何に使われるのかも、誰のものになるのかもどうでもいい。私たちはただ運んでいればいい。子供の頃から母にそう教わって生きてきた。大きな怪物に襲われようが、高いところから落ちようが、ただただ、尽きることのない荷物を運ぶのみ。疲れていたって、そんなこと関係ない。休んでいる者を踏みつけ、荷物を運ぶ。邪魔する者がいても、相手にせず、目的地を目指す。そして目的地に着くとまた、新たな荷物を運びはじめる。子供の頃は違った。なぜ尽きないのか分からない食糧を淡々と食べ、働かず過ごしていた。でも、今はあの頃よりも楽しい。やりがいがあって、本当に充実している。 そんなことを考えていると、足元の感覚に違和感を抱いた。大きな荷物のせいで足元は見えないが、おそらく進んでいない。
(どうしてだ…足は動かしているのに…)私はもがき続けた。たくさんの仕事仲間に追い越されていく。何度も叫んだ。助けを呼んだ。しかし仲間は、驚くほど冷たい顔で私の脇を通り過ぎる。そんなたくさんの仕事仲間の中に、自分の兄の姿を見つけた。小さい内から長い間私の面倒を見てくれた兄だった。助けを求めると、そのまままっすぐ私のところに歩いてきてくれた。
(よし、これで抜け出せる。)と思ったその瞬間、兄は私の顔を踏みつけ、足早にその場を去っていった。わずかに見えた兄の眼には、それはそれは綺麗な涙が見えた。



今でも覚えているあの日は、雨が降っていた。夏と梅雨の季節の境目といった時期だったから、夏の暑さに辟易していた当時の私にとって、その土砂降りの雨はまさに天の恵みに等しかった。そこは田舎で、近くにプールすらなかったものだから、近所の子供達もみんな外に出て、転ばないように気をつけながら鬼ごっこやかくれんぼで遊んでいた。

そこに引っ越してきたばかりの私には友達もいなかったから、何も考えず普段通り外へ駆けていった。新しく買ってもらった虫取り網を手に、私は近くの芝生を探したが、当然何も見つからなかった。

なので私は、虫取り網を手に取って、ぶらりと近くの小さい川を見に行こうと思い、また足を踏み込んだのだが、ぬかるんだ地面に足を滑らせてしまった。その時、私が握りしめていたはずの虫取り網は手の中を滑り落ち、泥の中に落っこちてしまった。

私はそれを拾うのを億劫に感じ、虫取り網を拾わずに小川へと走った。しかし、轟音を立てる濁流を少し見ていると、すぐに飽きてしまったから、私は今来た道を通って、家に帰ろうかと決めた。

ちょうど私が転んだ場所へ到着すると、そこには柄と網を繋ぐネジやら金具やらが、綺麗に外されて泥の上に雨に打たれながら散乱していた。その光景は私の心に張り付いているようで、いまだに思い出すことが多々ある。

たった5分程度前に、それが起こったということに私は孤独感と追い詰められるような恐怖を感じ、家に走り出した。後ろには振り返ろうとはしなかった。それを見ることで恐怖の源が現れるかもしれないと思ったからだ。

そして、泥だらけのシャツの端で、溢れだす鼻水と涙を拭きながら、私は家に帰った。大人と過去の私が呼ぶような人間になった今の自分としては、一度でも振り返った方が良かったかもしれないと思う。

どこにも姿の無いそのナニカに子供同様に怯える私がいまだに存在しているのだ。

どうせ怖がってしまうのなら、その正体を知りたかった。

それに、その恐怖がなかったらあの日から始まった、時計やら電卓やらを分解してしまう私の癖もなかったかもしれない。

即興×競作②

二回目のお題は、以下。

ここから、少なくとも三つを選んで、という指定。
で、書いた作品にちょっこっと手を入れて仕上げたのが、以下の二作。

顧問の作品は二本目。
他にも、以下のような作品が寄せられた。
マッチが、ワードとして強かったか。

どこまでも限りなく続く塹壕の、側面の壁に背中を預け、足をだらしなく放り出して煙草をふかす兵士がいた。
「ジム、一本くれないか。切らしちまった」
兵士は俺に向かって、気さくに話しかけてきた。
「ああ」
俺はポケットからケースを取り出す。ケースの中の煙草は、二本だけだった。
「ちょうどいいや。二人で一服しよう」
彼に煙草を一本渡して、胸ポケットを探った。ところが、さっきまであったはずのライターが消えていた。
「参ったな。どこかで落としたか、あるいは誰かにスられたかもな」
俺も彼と同じように、背中を乾いた土に押し付ける。
「俺のを貸そう」
そう言って、彼は薄汚れた迷彩柄のズボンの後ろのポケットから、マッチ箱を取り出した。
「お前さん、まだマッチなんて使ってるのか」
彼は愛想笑いをしてマッチを擦り、火をつけた。瞬間、ボーッと勢いよく燃えた炎は、すぐに

問題です。

 ジュリエットさんはクリスマスの日に人生を変えるであろう大告白をしたのですがあえなく失敗し、失恋の果てに自分も憐れんでくれる人が欲しいあわよくば一晩でもこの気持ちを忘れられたらと思い、大都会のど真ん中でマッチを売ることにしました。ホワイトクリスマス、雪が降る中、ジュリエットさんはマッチを売ろうと周囲の人に声をかけます。最初にポケットに入れておいたマッチ箱の数を二十箱とし、一時間に一人冷やかしのブスがやってくるならば、果たして三時間後にはジュリエットさんの心模様はどうなっているでしょうか?途中式も書いて答えなさい。




 二十箱のマッチを質屋に売って、貰ったお金でストゼロを三本買った。畜生、ブスしか釣れやしねえ。せっかくこんな美女が街でマッチを売ってるってのに、イケメンの一人や二人ひっかけたっていいだろうが。

 大体なんだ、世間じゃあホワイトクリスマスだなんだ浮かれやがって、自分にとっちゃブラックもブラック、通り越して逆にホワイトクリスマスだ畜生め。ストゼロ缶を一つ開ける。

 まずは一口、大きく中に入れると一瞬で何かがキマっていく感覚がした。これしかない。これ以外がない。ちびちび飲みつつテレビに近づき、電源ボタンを二度押して付ける。クリスマスの特番、今一番見たくないやつだがリモコンを探すのも面倒臭い。これで妥協することにしよう。

 足元に気をつけ、冷蔵庫を開く。中には生卵が二つに生肉一パック、しょうがないから生卵を啜り、缶詰を探すことにする。ああ、いや、この前全部食べたっけな。畜生もう面倒臭い。炭まで焼けば大丈夫だろう。

 フライパンをコンロに乗せ、ストゼロを啜り、油を適当にかけ、肉を乗せ、強火で焼く。だが焼きあがるまでが暇だ。リビングのソファまで歩くも、足元を見ずに引っかかって転ぶ。誰だこんなところに服なんて脱いだのは。いや、この家に人あげたことないな。なら私だ。ストゼロも溢れた。畜生め、二缶目の元に這いずって進む。

暗い夜道を進む。今ここで「光」と呼べるものは、くすんだ月の光だけだ。ポケットには箱がしまってある。中には一本のマッチが入っていて、背で擦れば火を付けることもできる。しかし、私は絶対にその気にはならなかった。この忙しく、仕事まみれだった日々を思い返すと、この少しばかりの探究心に素直になれずにはいられなかった。懐かしい少年の心に触れるためなら、この湿っている、不快で不安定な地面のことなどどうでもよかったし、それさえも、私のなんとも形容し難い好奇心をくすぐるものになっていた。普段の不快なことも、こんなスリルに変わってくれるなら苦でもなんでもなかった。

 しばらく進んでいくと、今まで自分一人分しかなかった道幅が徐々に広がり始め、さらに進んでいくと、視界は開けた(と言っても子供部屋ほどのスペースであった)。そこには、1人の少年がいた。その少年は、この

「レジ袋は入りますか?…………1984円になります。」

レシートとともに16円を目の前の男に渡すと、彼は世の中の多くの人間がするように、私を一瞥もせずに店から出て行った。クリスマス、聖夜とも呼称されるこの日に私はコンビニエンスストアで一人で働いていた。

ともにこの日を過ごすような恋人もおらず、家族とは離れて一人で暮らしているため、予定がなかったのだ。

若干の敗北感が胸に滲んでいくのを感じながら、私はシフトについたが、事前に予想していたものよりも、存外クリスマスのコンビニ店員という役目は愉快なものだった。

ほとんどの人々が家の中でそれぞれの時間を過ごすこの9時という時刻において、コンビニエンスストアに来店する人間を見ると、想像力が刺激される。

例えば先ほど来た男は値上がりし続けるタバコを一箱と、ビールを数本購入した。ビールを数本必要とする場面などそうそうないから、もしかしたら数人で誰かの家に集まって酒を飲んでいるかもしれないし、もしかしたら一人でクリスマスの日を過ごす悲しみに明け暮れて、やけになって酒を飲んでいるのかもしれない。

電車から出て家の最寄駅に到着すると、雪が降り始めていた。今日は12月24日、クリスマスイブだ。商店街にはツリーなどの飾りがされ、近くのケーキ屋やスーパーではパーティの材料を買うためか、人が忙しなく動いている。

なかなかに多彩。
やっぱり、即興×競作はいいね。オンラインでも、問題なく実施できるし。
仕上げたものは以下のマガジンにまとめてあります。

でも、行く予定だった展覧会に行けなくなってしまったのは、非常に残念。
早く、通常通りの部活動ができる日が戻ってきますように。

顧問記す

Photo by Aaron Burden on Unsplash

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