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ロフトワークから独立して、会社を立ち上げた理由

2012年から7年ちょっと、シニアディレクターとして勤めたロフトワークを辞めて、クリエイティブディレクションとデザインの会社、Shhh Inc.(シー)を立ち上げました。

ロフトワークはどんな会社だったか

ひと言でいうと「信じられないくらい面白い会社」でした。面白いといっても色々な面白さがあるのでもう少しこまかくいうと、知的好奇心を刺激されることが日々あり、毎回のプロジェクトであたらしい挑戦があり、自分たちの活動が世の中を変える一端になると本気で思える。そんな会社でした。

クリエイティブの会社であるロフトワークの中で、とりわけ僕が好きだったことは2点。「意味のあるものをつくろう」とすること、そして「協力してつくろう」とすることです。

意味のあるものをつくろう

「意味のあるものをつくろう」は「役に立つ便利なものをつくる」と比較するとその位置づけが分かりやすいかなと思います。つまり「多機能、高スペック、利便性」を重視するのではなく「なにか肯定感を高めてくれるもの」「なにか自尊心を与えてくれるもの」「なにか私がこれを使う理由のあるもの」に価値があるという考え方。定性的な判断軸となるので、そこには共有できる分かりやすさが必要で、多くの場合にリサーチ、ワークショップ、プロトタイプ、ユーザーテストといったプロセスを通して、おざなりではないリアルな反応を集めるための試行錯誤を日々繰り返す。ロフトワークはそんな実験場のような場でもありました。そのためプロジェクトを進めていく中で、当初の想定を覆した判断に決まるときや「Less is more」といった考え方をプロダクトに落とし込めたときには、いつも言葉では表せないような達成感や到達感と、ある種のエクスタシーのようなものまで感じました。

(「意味のあるものをつくる」は「体験をつくる」とか「ストーリーをつくる」という言葉に置き換えても良いかもしれません。ただ自分としては「意味のあるものをつくる」という言い方が今は一番しっくりきています。)


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↑僕が考えるロフトワークの強みの図。特に「協力する」はロフトワーク最大の特徴であり、また協力先のコミュニティーが非常にユニークなのが魅力だと思う。


協力してつくろう

ふたつめの「協力してつくろう」は、ロフトワークの理念でもある「クリエイティブの流通」の行動指針とも言えることでした。プロジェクトをオープンにして、様々な領域で活躍している社外の方や、ときには退職したロフトワークメンバー、元クライアントでさえチームの一員として巻き込み、多様な視点から考えることでバイアスブレイクが出来るはず。バイアスを超えることによって、そこに潜む価値の再発見が為せるだろう。という考え方。(バイアスブレイクという大げさなことでなくても、外の視点を入れることで「分かる」「伝わる」を言語化して定義する必要性がでてきますね。)

言葉では単純なことのようにも聞こえますが、実際にプロジェクトをオープンにして社内外のメンバーと一緒に進めていくのはとてもむずかしい。多様性を持たせればもたせるほど「違い」が生まれ、何かしらの壁が生じる。その壁を超えるには相互理解の時間と工夫が必要。けれどプロジェクトの納品日は常に迫っているという矛盾の中で、いつもトライアンドエラー(というか失敗と反省)をしていたように思います。

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↑バイアスは色眼鏡ともいえるので複数の視点を持つことによって、そこに在る価値の全体像をきちんと見える化することが出来る。一方、視点がひとつ(1色)しかない場合には、そこにあるはずの価値の全体像は見えにくい。


ロフトワークではプロジェクトをオープンにしつつ、しっかりとマネジメントしていくという高度なプロマネスキルが徹底されているところに大きな学びがありました。プロジェクトマネジメントを「失敗しないために」行うのではなく「リスクをとるために」導入していること。守りではない攻めのプロジェクトマネジメントに挑戦できること。きっとPMBOK導入当初はロフトワークにも「プロジェクトマネジメントへの挑戦」みたいな意識はそんなになかったんだろうと思いますが、何千ものプロジェクトを工夫してきた積み重ねが今の姿なので、心からすごいなと思います。

じゃあなんで独立するのか?

さて、ここから「じゃあなんでロフトワーク辞めて独立するのか?」について書いていきます。自分でもうまく説明できるように書けるかわからないけど、キーワードとなるのが「成長のメタファー」と「好奇心の危険性」なのかなと考えています。

成長のメタファー

ロフトワーク自体の成長を「メタファー」として喩えるならば、それは森みたいな感じなのかなと僕は思っています。ひとつの樹が大きくなっていくのではなく広葉樹の森のように色んな樹々や場の生態系が育っていく感じ。これまでになかった植物が風や鳥によって運ばれてきて芽吹いていたり、樹冠ではなにかの関係性が出来ていたりと。「新陳代謝の活発な生態系」がロフトワークのメタファーとして思い浮かびます。

一方で僕は、ごく個人的に成長のメタファーを樹や森のようなダイナミックに見た目やスケールが変化するものに置きたくないという思いが湧いてきていました。どちらかといえば樹ではなくて「土壌」のような、あまり変化しないことへの憧れ。それでも季節ごとに葉を分解する小さな虫や微生物の働きによって健康さを保ち続けるルーティンの強さ。そうした養分を蓄えられる保肥力のある在り方っていいなと。これからも長くこの仕事を続けていきたいから、もっと自分の内側に向けて力を貯めないと。という焦りというか危機感のようなものが常にどこかありました。

好奇心の危険性

また好奇心は大体どこでもポジティブなこととして捉えられているように思いますし、僕もないよりあったほうが全然良いと思います。ただ好奇心があることは刺激にさらされやすく常に活性している状態になりやすいという、ある種の危険性も孕んでいることが少し気になるようになっていました。

出会う人や本や映画や音楽でも世の中に面白いものは本当に多く、アンテナをちゃんと張っていれば毎日のように創造的な刺激に触れることができる環境がいまここにある。そして「創造的な環境」に身を置くことは自分が昔から強く求めているものだったとさえ以前は考えていました。

けれど、そうした考え方に変化がでてきたのは約3年くらい前のこと。きっかけは自分が原因不明の心臓病となってしまい約半年間の入院と心臓手術をすることになってしまったことでした。

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↑入院中に読んだ本。贅沢な時間だった。


毎日点滴に繋がれたベッドの上で、同じ時間に起きて、同じ時間に食事をして、同じ時間に寝る。こうした生活はいわゆる「創造的な環境」とは真逆のように聞こえます。しかし自分でも不思議なことに、実際には僕の感覚としては「これ以上ないくらい創造的な環境」だったと断言できます。いや「創造的」という言葉はちょっと違うというか、どうでもよくなってしまっていて、それ以上に「大切な」環境だったといったほうがしっくりきます。

食事が自分の身体になり体重が増えていくこと、薬が体内の菌を減らし熱が下がっていくこと、家族や友人がお見舞いに来てくれて安心する時間を過ごせること。自分自身や自分の周りを慈しむことで健やかに自然な感情を持てることが、僕にとっては最も「創造的かつ大切な」環境であるということにはっきりと気づきました。病気によってでしか、そこに気づけなかったのは情けなくもあるのですが。

そして、そうした環境を日常の中にもイチから作ってみたいという想いは日が経つにつれて強くなっていきました。家族や友人との生活だけでなく仕事をする中でも「大切なものを最優先する(好奇心を惹かれることや面白いことではなく)」「大切なものをつくる(話題性や利益や流行ではなく)」といったことを、これから長いあいだ継続するにはどうしたらよいかと思い続けている中で、次第に自分で環境をつくることに挑戦してみようと考えるようになりました。

大切なことを長く続けるトレーニングのようなもの

3年、5年といった短い単位ではなく、30年間この仕事を続けていきたいと考えた際には、自分で会社を作ることに対する不安やリスクは余り気にならなくなっていました。なぜなら「大切なものを最優先できないこと」が自分の人生にとって最大の不安だからです。もちろん会社に所属しているとそういうことが起きると言っているわけでは全くありません。ただ何があっても自分で責任を取れるようにしていたほうが良いなと思っているだけです。(僕は遠藤周作の「沈黙」やミシェル・ウェルベックのいくつかの小説が大好きなので人間の意思は環境に負けると信じています。なので、その環境にも自分で持てる範囲の責任を持ちたいということです。)

一方で、変化が激しい世の中なので30年後も同じ仕事なんかないよ。と僕もなんとなくそうなんだろうと思っています。同じ仕事を続けていきたいというのは、実際に「行うこと」が今と同じで在りたいということではなくて、同じ気持ちで仕事に向き合っていきたいということ。健康でポジティブに日々の生活の中に豊かさを見出し、発見したことや学んだことを素直に形にすること。その繰り返しを飽きずに長年継続できることを目指して、これからShhh inc.をやっていこうと思います。

色々と書きましたが、単純な理由としてロフトワークの代表をつとめる千晶さんや諏訪さんがなんだか楽しそうにやっていたので、なんだか面白そうだな、自分もやってみたいと思ったということもありますね。みなさま今後ともよろしくおねがいします。

😄

↑ Shhh inc. (STUDIOを利用してひとまず作ったWebsite)

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