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3月のShhh - 手触りを求めて

アピチャッポン監督の映画『MEMORIA メモリア』の公開にあわせて、これまでに同氏が制作した短編映画『BLUE』『ASHES』『THE STATE OF THE WORLD』といった作品を続けて観た。素直に面白かったり感動するといった映画ではない。素描とも呼べるような、これらの小品によって監督は一体どのようなアイデアを試みていたのだろう。ときには荒々しくも生の質感が残る日記映画的な手法で、ときにはシンプルで詩的なスーパーインポーズを用いて、映画がスクリーン/モニターに単純に映し出され、流れて去っていくことを拒んでいるように見えた。

目の前を途切れることなく24~30fpsの速度で進む映画の流れを、様々な手法で映像に摩擦力を帯びさせることで抵抗しようとする。そこには、もっと観客に留まる何かがあるはず、もっと手触りを持った共感が作れるはずと、まるで星に手を伸ばすように、届かないものを触れる方法を模索するような実験性があった。

そして『MEMORIAメモリア』である。驚いたことに、アピチャッポンは大胆に「音」を使うことで物理的に実際的に観客の鼓膜へと触れようとした。その手付きにやや強引さは否めないけど、文字通り映画に触れられたというその「感触」は驚きと共に今でも耳の奥に残っている。

今月の映画

『怪談』(監督=小林正樹、1965、日本)

小泉八雲が採集したという古くから日本各地に伝わる「怪談話」をオムニバス形式で映画化した作品。カンヌ映画祭では審査員特別賞を受賞している。

「雪女」や「耳なし芳一」といった民間伝承が基となっているので、あらすじとしては既知の話が多い。大胆な解釈による息を飲むような展開などはここにはない。ただただ、圧倒的な幻想世界が3時間に渡り繰り広げられていく。

映画の中で舞台はくずれ、やつれ、ほろびていく。人物は惑わされ、夢うつつを見て、果てていく。そして風景は意思を持ったかのように変容していく。

舞台美術の驚愕的な作り込みによって、現実/非現実というリアリティの枠を超えた魔術的な時間が生まれている。そしてその魔術的な時間を体験できることこそが「怪談話」の真骨頂であることを知らしめてくれる。

今月の本

『かざる日本』(著=橋本麻里、2021、岩波書店)

「かざりとは、この世ならざる聖性を招き寄せること」

削ぎ落とすだけの簡素であれば、さほど難しい事ではない。それを筆者は「貧しい簡素」と呼んでいる。一方例えば、本質が剥き出しになったかのような茶室「待庵」には、一見して「簡素」に見せるために周到な計画と高度な操作、つまり「豊かな簡素」が凝縮されている。

その言わば「日常を聖化」するための豊かな簡素=「かざり」の営みに着眼する新たなかざり論であり、日本美論が本書。

帯、紐、紅や香り、音、味とあらゆる領域に目を向けることで、何が私たち日本人を「かざり」に向かわせるのか?を浮かび上がらせ、再発見の視点を与えてくれる。こんな本を求めていた、と思う一冊。

今月のデザイン

『コ・デザイン』(著=上平崇人、2020、NTT出版)

デザイン思考などに代表される、近年の「デザイン」の流行を問い直し、社会におけるデザインの価値を改めて眼差していくための多くの示唆に富む一冊。デザイン系書籍のクラシックとして、今後もずっと読みつがれる本だと思う。

内容については、とにかく良いので読んでみて、に尽きるけど「第2章デザインにできること、できないこと」の結びの文章が、この本の大きなテーマを総括していたので引用してみます。

そこで、「いま」の時代における一つの道として、これまで積極的に切り離されてきた、つくる/つかう、力になる/力をもらうなどの人々の関係性を再びとらえなおし、私たち自身がともに愉しみを生み出すような活動に、もう少し生活の配分を向けていくことを検討してみる余地はあるのではないでしょうか。その基盤になるものとして、次章では「いっしょに」「デザイン」することの意味を考えてみたいと思います。

『コ・デザイン デザインすることをみんなの手に』第2章 p.85より

デザインやクリエイティブ全般に関わる多くの人に手にとってもらいたい一冊。

今月のリリース

『JAF Mate Online』

JAF(日本自動車連盟)会員へ向けた、日本一の発行部数(1,300万部)を誇る冊子『JAF Mate』の新たなオンラインメディア『JAF Mate Online』の制作に携わりました。

日本一の発行部数が持つ信頼感や、会員様のカーライフに寄り添う身近さといったこれまでのブランドを引き継ぎながら、より誌面が持つコンテンツの魅力や楽しさが伝わるよう、オンライン版では雑誌的な第一印象が感じられるデザインや、記事ごとで豊富に展開されるカラーバリエーション、様々な車窓の形をモチーフとしたサムネールなど、気軽に楽しんでもらえるような設計およびデザインの工夫を盛り込んでいます。ぜひご覧になってみてください。

Credit:
Client: JAF MEDIA WORKS Co.,Ltd.
Producer: 柏木鉄也 (Loftwork Inc.)
Project Manager: 北島識子 (Loftwork Inc.)
Director: 伊達善行 (Loftwork Inc.)
Technical Director: 小野村香里、大森誠 (Loftwork Inc.)
Director: 重松佑(Shhh inc.)
Art Director, Designer: 宇都宮勝晃(Shhh inc.)
Illustrator: 金安亮
Front-end Developer: 坂田一馬 (Good rings)、原國政司
CMS Developer: K.K.Sidethree

今月のメディア掲載

『ソトコト5月号 地域をつくるローカルデザイン集』

ソトコト5月号『地域をつくるローカルデザイン集』のサスティナブル・ブックガイドのWebカテゴリーで選書しています。

編集部の方に「攻めた選書でも大歓迎」と言っていただいたので、風の彫刻家として知られる新宮晋さんの絵本や、ガーデンデザイナーのピエト・オードルフの写真集を巡って、Webにつながる話をさせていただいています。

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