「楢ノ木大学士の野宿」と地学(その四)
四---野宿第三夜---
頁岩(ケツガン)というのは、堆積した泥が長時間かけて固まってできた岩石です。泥の中についた動物の足跡が、頁岩上の化石となり残ります。頁岩に残された雷龍の足跡を大学士がたどって行くうちにタイム・スリップしてしまい、あたりは中生代白亜紀の海岸になってしまいます。
「その灰いろの頁岩の/平らなきれいな層面に/直径が 一メー卜ルばかりある/五本指の足あとが/深くくい込んでならんでいる/.........足あとはずいぶん続き/どこまで行くかわからない。/それに太陽の光線は赤く/たいへん足が疲れたのだ。/.........なんだか足が柔らかな/泥に吸われているようだ。/堅い頁岩のはずだったと思って/楢ノ木大学士は後を向いた。.........」すると自分の足跡が点々と続いていた。さあ大変だ。一億年も前の時代にまぎれこんでしまった。そこは海岸。柔らかい泥の上で雷龍たちが生活している。そのまっただ中に大学士はでてしまったのだ。
---エピロ ーグより---
貝の火兄弟商会の/鼻の赤いその支配人は/こくっと息をのみながら/大学士の手もとを見つめている。/大学士は無雑作に/背のうをあけて逆さにした。/下等な玻璃蛋白石が/三十ばかりころげだす。
「先生困るじゃありませんか。先生、これでは、なんでも、あんまりじゃありませんか。」.........
「何があんまりだ。ぼくの知ったこっちゃない。ひどい難儀をしてあるんだ。旅費さえ返せばそれでよかろう。さあ持って行け。帰れ、帰れ。」.........
「先生困ります。あんまりです。」
貝の火兄弟商会の/赤鼻の支配人はいいながら/すばやく旅費の袋をさらい/上着の内ポケットに投げ込んだ。
「帰れ、帰れ、もう来るな。」
「先生、困ります。あんまりです。」
とうとう貝の火兄弟商会の/赤鼻の支配人は帰って行き/大学士は葉巻を横にくわえ/雲母紙を張った天井を/斜めに見ながらにやつと笑う。
付録
次の地図は、宮城一男の著書をもとに作成したものです。
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