スガハラで働く#09|窯の守り人
お久しぶりの更新です!これまでひと通り、職人をはじめとするスガハラのさまざまな部署で働く人たちを紹介してきましたが、今回はめったに見ることのできないガラス製造にとって最重要な仕事とその担い手を紹介します。それではどうぞ!
広い工房の真ん中にドンと鎮座する、まるで宇宙船のような?設備。このなかにぐるりと一周、10個の坩堝(るつぼ)が設置してあり、それぞれに約1400度に熱されたガラスが水飴のような状態で入っています。ここから竿の先にガラスを巻き取り職人たちはガラスを成形していきます。この設備を通称「窯」と言い、基本的には365日24時間、火を絶やすことはありません。この窯を夜間も通して絶えず管理し、ガラスの材料を投入し、常に窯とガラスの状態をベストに保つ仕事がスガハラにはあります。それが「窯炊き」と呼ばれる仕事です。
ベテラン職人の塚本さんいわく「もう大事も大事、一番大事。それが上手くいかなかったら俺たちは仕事まったくできないんだから!」と力が入るぐらい、大事な仕事。まさに心臓部と言っても良いのかもしれません。今回、記事制作のため「窯炊き」の仕事を取材させてもらったのは、鈴木俊也さんです。職人や他の部署にとっては終業時刻である17時よりはじまる夜勤(交代シフト制)に密着させてもらいました。
「今日はあんまり良くないな」「泡が入っちゃってだめだ」なんて言葉をガラス職人から聞くたびに、素材としてのガラスの状態って日々違うのだなと気づきます。もちろんガラスの状態が悪ければ製品にならないので、それでは困ってしまいます。一言で言えば、そんな生き物のようなガラスの状態を管理するのが窯炊きの仕事です。
鈴木さん、17時に出勤をしてまずガラスの原料である砂を窯に投入します。この原料をぐつぐつと超高温で約10時間ほど煮ることで、製造に使えるガラスができあがります。つまり、17時に投入すると夜中の3時に煮上がるということ。原料の投入をひとまず終えると、この日の日勤で同じく窯炊きの仕事をする江面さんと一緒に、高温で劣化していく窯の修繕などを行います。
「記録を取るのはすごい重要ですね」と、鈴木さんが記入している窯日報には何時にどのくらい原料を入れたのかが細かく記載してあります。また原料の記載だけでなく、窯自体の温度も記録して推移を管理します。原料、時間、温度、それらをきちっと管理してもなお「ちょっとしたことでガラスの質って変わるんですよね」と鈴木さんは言います。そのちょっとしたことを見極め、微妙な塩梅でコントロールしていく仕事は窯炊きの仕事も、まさに職人を支える職人と言えそうです。
22時頃、原料である砂に追加して製造工程で出たガラスくずを加えて蓋をしたら、夜中3時頃まで仮眠の時間です。
夜中の3時、原料が煮上がる時間です。暗く静まる工房のなか、放熱のため鈴木さんが蓋を開けると一面が真っ赤に染まります。ガラスは生き物、ということを実感します。普段、ガラスの職人でもこの光景を見ることはめったにないそうで、貴重な体験でした。この煮上がった時のガラスの量においても、職人が日中に仕事をし易いような量に工夫をしているとのこと。量が多すぎると溢れてしまい、少なすぎるとガラスが足りなくなってしまいます。ガラスを巻き取る時にちょうど良い量加減があるそうで、そのあたりも鈴木さんの塩梅が効いてくるのです。そうこうしているうちに夜明けが近づいてきます。
こうして朝8時、職人が仕事をはじめるのを待ちます。それまで、鈴木さんは雑務を行います。特に細かく指示されているわけではなく、自分で考えてやることも多いそう。
「妥協できないですから」あらためて仕事について鈴木さんに聞くとそう答えてくれました。こうして夜勤に密着させてもらうことで、その言葉にとても説得力を感じます。ひとつのハンドメイドガラスが生まれる背景には、365日24時間火を絶やさない窯炊きの仕事があるのです。