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忘れたくないことだけでいい

夜道、ぼーっと下を見ていたら散った桜が前を通った。街灯でぼんわり光る白い花。こんなに命が短いのに、春だという自覚がわたしを苦しめる。

うまく言葉がでてこない。最近、〜ない、ってよく使っていて、それがなんだか気持ちがよくない。ほら。ほらね。書いて言い方を変えたりしても、この気分の沈み具合には言い負かされている。何度か書きかけの文章があって、どれもなんだか言葉がとがっている気がして、あとで読んだ自分が悲しそうだからそのまま投げっぱなしにしておく。破片は大事。ストレートに出たその言葉が本当のこと。それをそのまま出すことだけがすべてではないのを知っている。

自分の言葉に守られすぎて、壁みたくなっている気がする。誰と何を話したら救われるのか。救われようとしてること自体が間違いなのか。結局わかってほしいのに、あなたにはわからないだろうとも思う。

雨の中、海を見た。丘に登って水平線が見えた時、その境界線が曖昧になって溶けているようだった。このまま沈んでいくような時間。赤い傘をさしているひとが立っていた。
雨粒に写真のピンを持って行かれて、なんでマニュアルレンズできちゃったんだろうと思ったけど、50ミリの単焦点で見える距離が今のわたしの視界だった。外では桜が咲いてるのに、そこは冬みたいに寒くて、さびしくて、遠くで釣りをしている人を見ていた。

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