新興運用会社にチャンス到来

A:金融庁が8月28日にアセットオーナー・プリンシパルを公表しましたね。

T:政府は2023年末に資産運用立国実現プランを策定。その中で、アセットオーナー・プリンシパルの策定も明記されていた。

A:これが策定されて、今後どのような変化があると思われますか。

T:公的年金、共済組合、企業年金、保険会社、大学ファンドなどがより高度な資産運用を行っていくことになる。資産運用業の高度化という国策がより推進されると思う。

A:上場企業の立場からはどのようにとらえたらいいでしょうか。

T:とにかくIRにおける対話の重要性が増していくから、IR体制の強化などが必要。

A:はい。でもまだ、アセットオーナー・プリンシパルの重要性はあまり理解されていないように思います。

T:そうかもね。ただ間違いなく、大きなうねりになっていくと思う。2014年に日本版のスチュワードシップ・コードが策定された。この時に、機関投資家は投資先との対話を図り、投資先の持続的成長を促進することが求められた。にもかかわらず、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)や日銀などの物言わない株主が、物言わないまま、日本の上場企業の株式を取得し続けてきた。

A:投資先と対話せよといいながら、対話しない株主ばかりが増え続けるという異常事態でしたね。

T:対話しないばかりではないよ。GPIFなどから資金を受託して実際の運用を行ってきた資産運用会社による議決権行使に関しても批判が多い。

A:議決権行使の基準が形式的という批判ですよね。

T:そう。また、議決権行使助言会社であるISS(Institutional Shareholder Services, Inc.)やグラスルイス(Glass, Lewis & Co., LLC)の判断に関しても、同様な批判が根強くある。

A:企業側はコーポレートガバナンス・コードを受けて、企業統治改革を進め、それが昨今の株式市場の活況につながったわけですし。今度は、アセットオーナーと資産運用会社の改革が求められているのですね。

T:まさにそうだよ。

A:アセットオーナー・プリンシパルは資産運用会社にはどのような影響を与えますか。

T:新興の資産運用業者にとって千載一遇のチャンスが到来。中でも、次の記述が大事。「アセットオーナーは、運用委託先の選定に当たっては、過去の運用実績等だけでなく、投資対象の選定の考え方やリスク管理の手法等も含めて総合的に評価すべきである。その際に、知名度や規模のみによる判断をせず、運用責任者の能力や経験(従前の運用会社での経験を含む)を踏まえ、検討を行うことが望ましい。例えば、新興運用業者を単に業歴が短いことのみをもって排除しないようにすることが重要である」

A:新興の運用会社がGPIFなどの資金を受託できる可能性が出てきたのですね。

T:そう。「新興運用業者促進プログラム(日本版EMP)」は資産運用立国実現プランの中にも明記されていた。今では大きくなったスパークスやレオスなども、創業時は小さな存在だった。けれど、世界最大級のSWFであるNBIM(ノルウェー銀行の資産運用部門。運用資産残高200兆円)はスパークスやレオスが有名になる前から両者に運用を委託してきた。GPIFだけでなく、地方公務員共済組合連合会や国家公務員共済組合連合会、日本私立学校振興・共済事業団がNBIMと同じような存在になる可能性が出てきたわけ。これら4団体の運用総額は300兆円だからね。影響は大きいよ。

A:IR活動において、新興の資産運用会社も軽視できなくなりそうですね。

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