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テクノロジーの進化速度は人間の想像力を超えている? SFプロトタイピングが持つ可能性とは

SFプロトタイピングとは、人間が持つ想像力を源泉に、企業や人類社会、そして地球の未来社会をデザインし、バックキャスティングのアプローチで実装を試みる手法で、社会の不確実性が高まる中で注目を集めるようになってきました。私たちsfp design(sfp:Sci-Fi Prototypingの頭文字)は、起業家、研究者、クリエーター、メディアプロデューサーなど、ジャンルを超えたトップランナーたちが集い、2020年から活動をスタートさせた団体です。

今回は、ショートショート作家の田丸氏が監修したワークショップを沖縄で実施し、そこで見えた手応えや課題について対話形式でお届けします。

当日参加したメンター

妄想が新たな技術をうみ、社会変革の原動力となってきた

國井:SFプロトタイピングという言葉自体はよく耳にするようになってきましたが、そもそもどういったコンセプトで、なぜ注目されるようになってきたのでしょうか。

奥田:世界的にSFプロトタイピングが必要とされるようになってきたのは、2010年代からだと思っています。その背景には、不確実性の高まりに加えて、科学技術の進化が早すぎて、そのスピードに人間の方が追いついていないのではないかという課題意識があります。

そして、これを打開するためには、私たちの妄想力を駆使して未来の地球や社会のあり方を規定し、理想からバックキャストしないと、真のイノベーションを起こすことはできないのではないかという危機感から、世界的なSFプロトタイピングの流れが始まり、日本では3〜4年前に一時的なムーブメントとして盛り上がりました。本が出されたり雑誌の特集が組まれる一方で、一過性の活動で終わってしまい、継続的な活動があまり出てこなかったんです。そこで私たちは、多少荒削りでもいいから、アジャイルに試行錯誤していきましょうというところからsfp designをスタートさせました。

sfp発起人の一人である常間地

また活動の継続性に加えて私たちが重要だと考えているのは、アイデアを実際にプロトタイプしていくために、科学者やエンジニア、経営学者など異なる専門性を持った人たちを集め、粗くても具現化させることです。自由に妄想し、大きな発想をした後に、このアイデアを実現するにはこの領域の技術が足りていない、こういう社会的な枠組みが足りてないといった課題を、現実の世界から分析していくこと。この点がまさに、sfp designの活動のコアになってると私は思っています。

ワークショップ全体のファシリテータを担当した奥田

國井:社会全体が近視眼的になりすぎていて、1〜2年、あるいはもっと短い時間軸の中での成果が求められるので、そのキャップを一回取っ払って自由に妄想する必要があるのではないか、という課題意識も当初からありましたね。

岩澤:そうですね。SF的なアプローチが求められた背景には、VUCAと呼ばれる不確実性があると思うんですよね。例えば30年くらい前までは、環境汚染や気候変動に関して合意形成が十分にできていなかったと思います。レオナルド・ディカプリオが気候変動対策に熱心に取り組んでいても、最初はなかなか伝わらなかった。それが近年になって、みんなで頑張らないと本当にマズイぞという合意が取れてきているように感じています。

また、ドラえもんなどの作品が描いたような近未来の世界観が、iPhoneの登場や、メタバースの技術進歩によって具現化してきていますよね。sfp designが立ち上がった3年前をいま振り返ると、時代とかなりシンクロしていると思うんです。時代の要請であり、僕らもそれに応えたというか。

でも、世界的なパンデミックや、ロシアウクライナ戦争など、大半の人々が予期しなかったことが平然と起きるような不確実性が増す世界で、いままでの現実と地続きで考えて、一つ一つの出来事に振り回されていられないと思うんですね。

そこで、自分たちの想像力を働かせて、目指したい未来や、反対にあってはいけない未来をプロアクティヴに考え、ヴィジョンを描き、足元までバックキャストすることが求められるようになってきたのだと認識しています。時代はもうその方向に動いているのだから、もっとこの活動の輪を大きく広げていきたいなと個人的には思っています。

大切なのは「覚悟とオーナーシップ」と語る岩澤

國井:僕はsfpの活動の中でよく、”We chose to go to the moon”というフレーズで有名なJohn F. Kennedyのスピーチを思い出します。当時の科学技術では月面に人を送れなかったけれど、彼がヴィジョンを打ち出し人々を巻き込んだことで、月面にいくために必要なさまざまなテクノロジーが開発され、やがて現実になりましたよね。

さらに、その過程で培われた技術が地上の暮らしにも役立つようになっているので、歴史的にみてもヴィジョンやその実現に向けた戦略は必要で、これからの時代はその重要度がさらに増してきているのだと思います。

誰よりも沖縄感をかもしだす千葉県出身の國井

妄想を形にすることに意味がある

奥田:この3年間、本当に遅い歩みでありながらも着実に進化していて、最初は妄想だけで終わっていたけれど、人のアイデアに乗っかりながらそこに向かってしっかりと作り上げていくことができるようになってきています。私たちのグループには多様なジャンルで活躍している研究者が揃っているので、妄想からさらに具体的に落とし込んでいくために人的リソースの最適化が次の課題かなと感じています。

この取り組みを数日で終わらせずに、半年とか繰り返していったらもう本当に物凄いことになるんじゃないか。数日で終わるものじゃないなっていう手応えを感じたのがすごくよかったと思います。

國井:リソースの観点では本当に凄まじいものがありますよね。言葉は悪いですけど、僕らが持つリソースを使い倒せるようになったら、加速度的におもしろい事例を生み出していけるポテンシャルがあるなと感じます。

本題からかなり逸れてしまうのですが、sfpの中で絶滅アカデミーというテーマでディスカッションしました。絶滅アカデミーというのは、人口減に伴う地方自治体数の減少といったリアルな日本の課題にフォーカスを当てながら、sfpの活動を通じて貢献できることはないかと、sfpメンバーでディスカッションした時のテーマです。その中で、「企業に死というものがプログラムされていない」という話が出たんですね。その発想が面白くてすごく印象に残っています。持続可能性の反対に来る概念ですが、あえて短命にして強制的に終わらせる、というのはどんな視点なのでしょうか?

奥田:大人は悲壮感を持った未来を描きがちな印象がありますが、それも悪いことじゃなくて、なにかしらの終わりや、わずかな変化が企業や組織内で設計されなさすぎだなっていうことに気付いたというか。絶滅アカデミーの会でも、まさに足りていない価値観が見えてきたとすごく感じましたね。

例えば、自分が勤めている企業で「この商品はそのうちすぐに終わりますね」、なんて発言は絶対できなくて、みんな終わると思っていても言えない。「100年つづく会社」みたいなヴィジョンやミッションが見られる中で、逆に「3年で終わらせましょう」みたいな会社が出てこないのが私にとってはすごく不思議で、そういう面白い取り組みを肯定できると、新しい価値観を提起できるんじゃないかなと。最初はどちらかというと科学技術を中心とするアイデアが出てくると思ったら、意外と社会的変化みたいなことにみんなの関心が集まって、そことじっくり向かいあうことができたのがよかったなと思います。

ワークショップを提供したFrogsとsfpの出会い

奥田:沖縄を中心に、2008年から有志の活動として立ち上がったのが琉球Frogsで、いろんな課題を抱えている沖縄という土地で、若い人たちが希望を持てるような社会を実現するために、その変革を担うような人材育成プログラムを提供してきました。

プログラムの最後にはシリコンバレーに行き、そこでみたものを沖縄に持ってこようっていう取り組みだったんですけれども、14年やってみて、才能のある人材をたくさん見出してきたと思います。その卒業生がすでに起業家になっていたり、沖縄における社会的活動の中心になっていたり、今回応募してくれた学生のお母さんが、Frogsの卒業生ですみたいな人が出てくるぐらい成熟してきています。

いまは日本全国の5か所で行われている活動ですけれども、今回sfpを取り入れようと思った背景として、子供たちが沖縄の地域課題に注目しすぎていて、大人が本来対処すべき課題に偏ってしまっているんじゃないか、という疑問が出てきたんですね。

今回のワークに取り組んでいただいた皆さん

それは沖縄に限らず、探求学習とか社会課題解決とか、社会が子供たちに次の未来を作っていただきたいとか、次の社会を良くしていただきたいみたいな、大人の勝手な理想を押し付けるような社会になりすぎてるんじゃないかなと5年前ぐらいから私も感じてきました。子供たちからしたら、その課題作ったのは誰ですかって言ったら、10代や20代の若い世代ではなく、上の世代なわけですよね。

既存の社会課題に向き合うことはとっても素晴らしいことだけれども、この現代は嫌だ、未来をちゃんとしようっていうエネルギーだけではなくて、もっと子供たちがワクワクする未来を考えて、その実現に向けて生じる課題やハードルを自分たちで解決していくことも大切だと思うんです。Frogsに限らず、そういった人材はどうすれば育つのかということに私自身も向き合ってきて、いまでも日本全国で言い続けています。

それがぴたっとはまったのは去年ぐらいからで、Frogsも社会課題解決は当然やるよと。でもその社会課題の解決というエネルギーがどこを起点に子どもたちの心を揺らしているかっていうと、過去の課題なのか未来のあり方なのかの違いが出てきた。課題における多様性が感じられるようになってきたと言えます。

岩澤:いまのお話聞いて思ったんですけど、特にプロトタイピングの有用性を考える時に、こういう未来がいいよねっていうベクトルでユートピアを考えるのもすごく大事で、それとは反対に、ディストピア的な発想も非常に素晴らしいと思うんですよ。

先日たまたまWIREDの小谷さんと会って話した時に、「やっぱりナラティブって強いよね」という話題で盛り上がったんですけど、ユートピアも然りディストピアを自分事化するには非常にナラティブが有効だと思うんです。つまり、こういう未来にはしたくないということを、子供たちにも想像してもらう。もしかしたら『風の谷のナウシカ』のような話かもしれないですね。それがいいプロダクトやサービスにつながっていく力になれば、非常に素晴らしいことだと感じました。次のワークショップの機会に、こういう未来にしたくないから、こういうものを作りたいっていう観点からの発想も強調したいと思います。

國井:そういう観点で言うと、人口動態やGDPのようにデータや統計に基づいて予測できるスコープの未来は、ワークショップ前のインプットとして共有できると思います。そういった情報もsfpのメンバー間で持ち寄って、事実を積み上げた結果高い確率で起こりそうなことを前提としながら、発想を自由に飛ばすことができるとさらに密度を高めていけそうですね。

本田:私はこのワークショップに関わるのが2回目だったんですけど、常にメンターとして何をするのがいいのかっていうのはまだまだ試行錯誤中でして。一回目の時よりかは上手く子供たちを促すことができたなとは思っているんですが、それでも自分の中でまだメソッドが確立できてないなというのはあります。

「赤坂のマンションに住んでいます」という自己紹介で見事にすべる本田

國井さんが言っていた、ある統計的な事実からこうなり得るだろうなっていうデータを、ちゃんと自分の中で知っておくこととか、本当にいろんな科学技術の進歩に関して、専門家ではないにしてももう少しちゃんとアンテナを張っておかないと、「自由に発想していいんだよ」とか、「ちょっとありえないぐらいのことを考えていいんだよ」っていくら言ったとしても、自分自身がちっちゃくまとまっちゃっているなっていうのが過去2回の反省としてあります。

沖縄の子どもたちからしたら、この5人はぶっ飛んだ大人だなって思われてるかもしれないですけど、まだやれること、ストレッチさせられることがあるなって思ったのが次回への宿題かな。もちろんFrogsのプログラムとの接合も思ったよりうまくいったと思うので、sfp designをこれから展開していく上で一つのいい試金石になったというのはポジティブに評価しています。

國井:ちょっと突っ込んだ質問ですけど、本田さん的にもっとストレッチさせるためにこういうことできそうみたいなアイデアっていま時点であったりしますか?
僕も似たような課題意識があって、子供たちが自分で自分の発想や言動にキャップをはめちゃうじゃないですか。その本質的な原因っておそらく正解ありきで進む教育にあると思うんですけど、僕らのワークショップの中ではこうアプローチしたら良さそうみたいな仮説がもしあればお聞きしたいなと思って。

本田:直接的な回答にはなっていないのですが、子供たちがいろんな妄想をして斬新なアイデアを出してくれた時に、それを私が理解できちゃううちはまだまだ伸び代があるなと思ったんですよね。自分が理解できるアイデアじゃなくて、もっとぶっ飛んだアイデアが出てくるようになるとよかった。だから考え方や対話の仕方について、一種の方法論みたいなのがあるといいのかもしれないですね。良くも悪くもまだまだ各メンターの個性やバックグラウンドに依存しているところはあるので、どうバランスさせていくかという点について考えてみたいです。

多様性こそが真のイノヴェーションエンジン

岩澤:ワークショップ全体を通じて、もしかしたらベンチャー業界全体に言えることかもしれないし、10~20代の方々がやってるからさらに感じたのかもしれませんが、ベンチャーと言うと、ロールモデルとして出てくるのはスティーブ・ジョブズやイーロンマスクといったアメリカ人が先に出てきて、その後ジャック・マーとか孫さんが出てくるわけですよね。

みなさん実際に成功してる方々ですけど、子供たちからしたら、自分たちが本来親しんでいるカルチャーからやや離れたところにあって、同じ土俵で同じように頑張らなきゃいけない感じがあるんじゃないかって気がしたんですね。でも国民性とか県民性、あるいは時代背景などはやっぱり無視できないと思うんです。

今回は沖縄の県民性を特に感じたので、バックグラウンドの違いをお互いにしっかりと尊重した上で掛け算できればいいと思うんです。鹿児島でも沖縄でも、国内外どこであろうと馴染みのない土地に行けば必ず文化的な差はあるはずなので、ワークショップ自体も参加者間の違いを踏まえて設計を考えられると、より自然に自分たちの力を出してもらえたり、それぞれのローカルに根ざした発想も出てくるのかなという期待があります。

もう一つ、本田さんとのお話とも重なるところではありますが、ワークショップ全体の設計に関してメンターがどういう風にアプローチすると本質的なメンタリングができるか?という問いに向き合う必要もあるのかなと。Frogsさんも何年もやってこられて知見をすごくお持ちだと思いますし、そもそもsfp designが提供したワークは評価を前提としていませんが、メンタリングする人が、「本当にいい才能を見出せるようなシステムとはなにか」を、改めて問い直すことも必要なのではないかと感じました。自戒も込めて、イノヴェーターの熱意や才能、未来の可能性に本当に応えるための関わり方をもっときわめていけるといいなと。

國井:確かに、こういう突拍子もないアイデアを出すようなワークだと心理的安全性をどう担保するのかは本当に大きなテーマですよね。岩澤さんの話に乗っかると、多様性をどう組み込むかというのは課題だと思いましたし、特に今回は沖縄を中心とする参加者が多かったので、同質性がネックになっているなという印象を強く受けました。

日本における多様性って男性・女性といったジェンダーの観点で語られることが多いと思うんですけど、個人の属性やバックグラウンドなど、目に見えないところも含めて真の多様性ですよね。だから「私はこういう価値観の人間で、それはこんな経験のなかで培われて、どんなことに課題意識を持っているか」ということも、多様性として内包していく必要がある。ワークショップでグループを作るときに、自分の個性をしっかりと伝えられる心理的安全性をどう醸成するかという部分の設計も次の課題だなと思います。

岩様:あと素晴らしいなと思ったところで、歴史教育 x エンタメ案と、ゾンビ体験の方が最終選考に残ってましたよね。会場でも言いましたが、歴史教育のアイデアも、学校の試験や受験対策なんかを超えた話で、おそらくその発案した方も気付いてないような凄まじいポテンシャルがあると思うんですよ。

発想はあるんだけど、大半の人は気付かないようなさらに深いところにポテンシャルがある。その価値に気づくためには一定レベルの知見を持った人が必要で、ここに大人が入ってくると面白い事例がどんどん出てくるんじゃないかとワクワクしています。
ワークショップを通じて、私にとってこれはすごい学びだったしポテンシャルを大いに感じたところでしたね。

奥田:もはや企業のような、ある枠組みで一括りにされている組織とか、学校のようにある年齢で区切られたコミュニティで何かをやるっていう単位の作り方自体の限界がもう見えてきたなっていうのを感じましたね。その一つには、子供たちの力だけで頑張って作れ、みたいな時間を作りましたけど、子供たちの力だけでっていう発想自体がすごく古いし、その反面大人が教えるっていうのも古い。人材育成プログラムのなかで、大人や子供、学年など、同質性に基づいた区切りがうっすらとある気がしていて。もはや私たちが人間の最大の能力を発揮するには、そういうのを崩したコミュニティが絶対に必要だなと強く感じました。

異業種間の交流が必要みたいな話もそうですけど、もう学校みたいな組織の限界が見えてきた。つまり大人も一緒にいないとそういう発想も引き出せないし、大人・子供関係なく、多様な人がいることで個々人の真価がちゃんと担保されていくよねみたいな場所の可能性を凄く感じたなと。

ものすごい技術の専門家みたいな人って、その多くが先端企業とか先端大学の中に閉じこもっていますよね。でもそういう才能を開放して、子供たちに限らずあらゆる人と接点を作れば面白い発展があるかもしれないし、壁をどんどん取り払った学びの在り方や、製品開発のあり方みたいなのも真剣に考える必要があるんだと感じました。

例えば、核融合の知識って私たちがいまの学びの仕組みに乗っている限り、20歳以降にしか成立しないんですよね。ある学部が終わって専門に入るコース。その枠を外して、ある子はもう5歳ぐらいから触れられるとか、そういう柔軟な学びの必要性を考えると、規格統一された仕組みを外す時代が来たんだなと再確認しました。

國井:そういう意味でいうと、1日のワークショップを軸にしつつバリエーションを増やして、もう少し長期的に取り組んでいく場も作っていきたいですね。週1回とか、月に数回集まるくらいの頻度で、半年とか1年間のプログラムも作れるととんでもない成果が生まれそうな予感がします。

ちなみに、研究者など尖った人材を解放することを考えた時に、なにができそうでしょうか?研究者との接点を増やすというのも一つだと思うんですけど、ある程度プログラムとして提供する前提で考えると、どういうアプローチが取れそうでしょうか。

奥田:例えば1週間単位ぐらいで、夏休みのこどもインターンみたいな形で研究所の中に興味のある子を送り込むとかは面白そうですよね。自分の興味と関係なく、夏休みの見学とか多くの子がやらされているけれども、こういったプログラムの中で、自分は飛行機に興味があるとか、エンジンに興味があるんだとか、核融合に興味あるんだみたいに興味あるものが分かってから見学に行くのは大違いだと思っていて、単純に企業視察とかじゃなくこういう発想をマーケティング部の人とやったり、あるいは開発部門の専門家とやったりみたいなのはものすごい子供たちの才能の開花にもなるかなと思います。

國井:なるほど。少し別の切り口ですが、ハンディキャップを持った子向けの教育プログラムを提供している知人がいて、そのプログラムの中で、伝統的な炭焼き窯を作る職人のところに子供たちを送り込んで、実際に窯造りから炭を作る体験をやったんですね。たしか北海道に窯を作る技術を持った方がいらっしゃって、本当に人間国宝級で日本にはその人しかいないみたいな。

窯から炭を作るっていう一つの目的の中で、さまざまな学問の意味、例えば化学的に、何と何がどのように反応するとこうなる、といったことをリアルに経験することで、すごく深い学びになったという話を聞いたんですね。
僕らもここから学べることってたくさんあると思っていて、様々な分野で活躍されている研究者の方々とのつながりをより太くしていって、ワークショップのプログラム作りから一緒に考えられたら、本質的な学びを提供するだけでなく、仕組みとしてもサステナブルな取り組みができそうだと思いました。

あともう一個の観点で、海外との接続をどうするかみたいなところも考えたくて。ある程度英語を使える人に限られてしまうかもしれませんが、世界中の人たちと同じようにワークショップをやってみると、全く違う発展をしそうで面白そうだなと。

岩澤:国民性とかそれに根差した違いが色濃く出て、ものすごく多様な発想や妄想が出てくるんじゃないかなっていうのはすごく感じます。例えばアフリカ諸国でフィンテックが伸びた背景として、もともと彼らは土の中にお札を入れて隠していたところから、たった3年でオンライン決済が普及していったように、日々の暮らしや文化背景の違いに加えて、未来の描き方もすごく違うんじゃないかなと思いますよね。
例えば家族観が違うだけでも発想は違うでしょうし、お金に対する考え方が違ってもアイデアは変わってくる。

多様性ってすごい賞賛されてから、みんな違いすぎてやってられないよみたいな時期を経てまたいい感じに成熟してくるので、中長期のプログラムならワークするかもしれませんね。

國井:合理性の観点から考えると多様性の維持ってめちゃくちゃコストじゃないですか。ある程度同じような考えを持った人たちを集めて、こっちだよーってディレクションすればいいので、コミュニケーションコストも低く済むしすごい楽だと思うんですけど、それだとディストピア的な世界観が早々に来てしまう可能性が高くなる。多様性の重要性を本当に理解するためには、みんな違っていてまとめるのも本当に大変だけど、いろんな価値観や視点を持った人たちが集まったからこそ達成できた、という成功体験を早い段階で得られると、その後の人生につながるんじゃないかなって思います。

奥田:インド人が世界で成功しているのがまさにそうで、インド国内にいると多様性の担保のためにものすごい労力を使っているんですよね。凄く言動に気を使って日々の生活をすごす一方で、例えばアメリカのシリコンバレー、それこそGoogleの中でだけだったらインドの百分の一ぐらいの多様性だから楽勝みたいな感じなわけですよね。
でも日本人は多様性に対するコストをほとんど払わないまま育って、そのまま海外に行っていきなり100ぐらい払わなきゃいけなくなったら、もうしょぼんってなっちゃう。
性差や宗教など、様々な差異を内包する多様性がインドでは所与のものとしてあるので、グローバルでもしっかりと存在感を発揮できる人材が育っているのかなと思います。

さらにいうと、SFの面白さっていうのは、発想の枠を外していいよっていう前提で、いろんなバックグラウンドを持った人たちと戦わなきゃいけないわけですよね。
世界には一定のルールがあって、みんなそのルールに守られているんだけれども、SFだとその制約を外していいよというところから始まるから、そこで日本人が海外の人と戦ってみたらどうなるだろうっていうことに対して、すごいワクワク感はあります。打ちのめされて帰ってくるっていうか、確かにそれはやってみたいですね。

國井:打ちのめされる経験ってすごく大事じゃないですか。僕も東アフリカ諸国に滞在していたころは価値観を揺さぶられる経験ばかりで、着いて二日目に強盗に遭って殺されかけたり、本当に辛い時期もあったのですが(笑)
その過程で得られる内省とか気付きを通して価値観が複層化していき、世界が拡張される面白さに気づけると、同質性に対する違和感を無意識的に持つようになりますよね。

奥田:そう、私インドで一時間友達に待たされた時に、向こうが凄い元気にやってきて(笑)
どうして遅れたのって言ったら、「あなたがまだ待ってるから大丈夫だよね」って言われたんです。要は怒ってたら待てないから帰ってるはずで、でもあなたはまだ待ってるからオッケオッケーって言われて(笑)
いいとか悪いではなくて、そういう人たちに新幹線が一秒たりとも遅れないシステムなんか作る気もきっとないでしょうし(笑)

國井:僕もアフリカで「あと5分で着くから!」って言われて3時間待つみたいなのが多々あったので、すごくよくわかります。。。笑

これからの教育に求められる社会的な機能とは

國井:個人的な話にはなってしまいますが、教育事業を自分でやりたいなと思って最近はイベントに参加したりいろいろと勉強しています。オルタナティブ教育の一つとして、アントレプレナーシップがすごく取り沙汰されてると思うんですね。
でも、そろそろその先の世界観を描かないといけないんじゃないかっていう個人的な妄想が始まっていて、まだなんかこれじゃないかっていう仮説も持てていないのですが、皆さんの視点からこういう教育がこれからあったら面白そうという考えはありますか?

前提として、アントレプレナーシップ教育で教えているような、課題発見能力とか課題解決能力、リーダーシップとかも大事だと思うんですけど、みんながみんな起業すればいいって世界観も息苦しいと思うんですね。起業やビジネスにそこまで関心を持っていない人たちもいる中で、なんかインクルーシブじゃないよなみたいなところに課題意識を持ち始めました。
で、その先の世界観って何が来るだろうかみたいなことを考えているんですけど、何かパッと浮かぶものがあれば教えてほしいです。

奥田:投票制みたいな仕組みでアイデアを選んじゃうと、みんなが理解できるものを選ぶことになるので、それは可能性を見出し切れないなと思いました。これから私たちが教育で探していくべきは、大衆性にはないところにある価値を見出すために、それこそsfp designの手法はすごく有効なのかもしれないなと思います。これまでの教育の原点は軍隊じゃないですか。どの国も強い軍隊を作るっていうのが根底にあった。でも従来の教育を脱構築して、尖っていて他の人からはなかなか理解されないけれども、おもしろいと一人だけに共感されるような価値観がもっともっと広がるといいなと思います。

あとはリーダーシップっていうことのあり方自体が、軍隊式リーダシップじゃない形、まさにカオスリーダーシップって私はいつも表現していますけど、そのカオスの中に一人一人のルールを見出してあげられるリーダーが必要だと考えています。ちっちゃな集団の中には当然違うルールがあって、それが集まってばらばらだからカオスって言われるだけなので、リーダーは個々人の自分のあり方とか価値観がちゃんと存続しつづけられる場を作る役割を担う時代になってきています。でもいまの教育では教えてくれない。

岩澤:アントレプレナーシップを超えていけるかどうかは分かりませんが、ビジネスであろうと、大人や子ども関係なく、そして国内外問わずより多くの人ができるようになったら世の中いい方に変わるだろうなと思っているのは、聞いている人がワクワクするようなストーリーメイキングの力かなと思っています。まさにsfp designのコアにありますよね。

言い換えると、ある未来をイメージする力に加えて、自分の言いたいことをストーリーに落とし込む力です。全員がSF作家レベルになりましょうっていう話じゃなくて、基礎教育として自分の考えていることを他者に伝える技術を持った人が増えると、それこそディストピアを避けることだったり、人類の能力の底上げに繋がるんじゃないかなと思います。

本田:対象が起業するかどうかは本人の意思であって、ビジネス的な落とし込みをするしない関係なくアントレプレナーシップっていうアプローチは全然悪くないと思っています。その前提でさらに必要なのは、自分が主体的にもっとワイルドな思考をすることな気がします。おそらく全員は起業しないだろうけど、主体性を日々の生活の中で体現すること。

雇われることを当然と思ってるような人であっても、普通の学校教育では得られないようなワイルドさを持ってアイデアを考えられるかっていうところに何か価値があるとすると、オルタナティブ教育の一環になるのかなと思いました。

國井:奥田さんの話を聞いて、「1000人の忠実なファン」というフレーズを思い出しました。これはWIREDをつくったケヴィンケリーの言葉で、1000人のファンとの関係を太くして、彼らがあなたに年間100ドル払ってくれたら十分生きていけるという意味で、大衆から好かれなくてもいいという、数字がものをいうカルチャーに対するカウンター的な発想です。

あと主体性とすごくつながるなって思ったのが、ウェルビーイングなんですよね。自分にとっての善き生を自分でちゃんと定義して、それを実践する能力がすごく大事なのかなと。自分のライフステージや、自分が生きている時代の要請によって柔軟に軌道修正していくことも求められると思うので、その主体性としなやかさみたいなものを身に付けられたらいいんじゃないかなって。最近流行っているレジリエンスという概念は、人生にも当てはめられそう。

奥田:今のウェルビーイングに重ねて、外側にある物差しじゃなく自分がこれを思いついた自分をすごいと思うとか、自分の発想にワクワクするとか、なんかよくわからないけどイケてんじゃねえかみたいな、そういうことがこのプログラムだったら作れるんじゃないかな。
前回は発表したらすぐに投票してチームを作り始めるみたいな感じでしたけど、もう一回フィードバックを受けて自分の妄想をさらに膨らませる時間を設けたほうが、本当は一人一人の才能が開花するんじゃないかなと改善点として思いました。自分の心の中のワクワク具合は他の物差しでは測れないですからね。

最近はウェルビーイングの講演しか来ないぐらいになっていて、歩くウェルビーイングなんですけど(笑)
本来は一人一人の中に物差しがあるんだから、全員が歩くウェルビーイングになるっていうのが教育の目的でいいと思ってて。私の最高の価値観っていうのは、自分が自分にスタンディングオベーションできるかどうかっていう物差しなので、そこに関してはsfpの中で培えるんじゃないかなと。「私すごい発想しちゃったよ!?」みたいな。そういうオルタナティブ教育の可能性を感じましたね。

岩澤:ブルーオーシャンですからね(笑)
それを外の物差しに当てはめると、例えば記憶力とか論文の展開力になってしまうけれども、妄想力みたいなところに当てていくと結構な人がワクワクして自分を面白いって思うんじゃないかな。

sfpは本当にブルーオーシャンですから、気持ちいいし楽しいしワクワクするじゃないですか。それをこれからもっともっと実現したいですね。今の奥田さんのウェルビーイングの話で思い出したのが、今回のFrogsはどうしても選考があったのでそれは仕方ないですけど、みんなそれぞれが自分のウェルビーイングの軸を持てるような取り組みもできるといいなっていうのは私も同意見です。それがSF思考の中で実装できたら面白いなって思いました

國井:そうですね。自分は何にワクワクするかという問いに対して、sfpのプログラムを通して発見を促したり、ウェルビーイングを自分で定義する機会にもできるかもしれないなと思うので、そういう観点にも注力しながら幅広く取り組んでいけるといいなと思いました。

ファシリテータ・メンターの5人が一番楽しんでいた?

執筆:國井 仁

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今回琉球Frogsの選考会で実施したワークショップの一部をご紹介

sfpメンバーでもある、作家の田丸 雅智さんが監修した超ショートショート講座に基づいたアイデア発想ワークと、その応用として実際のサービスやプロダクトを考えてもらうプログラムを提供しました。田丸さんが提供しているショートショート作成シートはどなたでも無料でダウンロード可能ですので、ぜひストーリづくりに挑戦してみてください。

田丸氏監修のショートショート書き方講座の一部
当日実施したワークショップの概要


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