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地域型交通のデジタル化事例①(Medibus/伊那市)

前回の記事では都市型交通のデジタル化事例(ニューサウスウェルズ交通)についてのご紹介をしました。今回は地域型交通のデジタル化を見てみましょう。面白いなと思ったのはドイツにおけるMedibusというプロジェクトです。ドイツはEU圏内にあるということで、人の往来が自由になっています。そのような状況から労働者もかなり自由に居住地と異なる国で職に就くというケースは稀ではありません。

そのような状況の中、ドイツでは近年医療従事者がスイスなど他の国へ流出するという事態に直面しているとのこと。また日本でも同様な傾向があるように若年層の都市部への集中が起きており、中山間部は医療リソースに乏しい地域として取り残されています。2018年には1万を超える診療所・クリニックに空きがあり、40%近い医師が60歳以上ということで、同地域で取り残される交通弱者である高齢者に対する医療アクセスの改善策を見つけることが求められていました。

国内物流の一端を担うドイツポスト社は地域のバス会社や病院と連携し、巡回型バスにリモートでも医師が診察と患者とのコミュニケーションが行えるように医療機器とビデオ会議専用端末を車内に搭載しモバイルクリニックを開設しました。開設時には山間部6つの村を巡回するルートを持ち、利用する患者の30%は後期高齢者が受診していることから、当初設定した課題に合致したサービスを提供している事例と言えるかと思います。

現在、このモバイルクリニックは利用用途も拡大しており公的検診や新型コロナウィルスのPCR検査車両、またロシアによるウクライナ侵攻などここ数年続いている難民キャンプへの医療サービス提供など活用が進んでいるとのことです。

日本でも医療ではありませんが、近しいコンセプトで公的サービスを提供している自治体があります。長野県伊那市は県内でも広い面積を持つ自治体で地域交通網の再編とともにモバイル市役所「もーば」が運行しています。この車両は地域交通のピーク時には地域住民の足として通勤・通学に利用され、オフピーク時にコンシェルジュが同乗して市役所として活躍するそうです。車内にテレビ会議システムを設置し、様々な相談を車両内もしくは専門的な相談を行う場合にはオンラインで本庁の職員とコミュニケーションができるということです。中山間地域における交通網のほとんどは赤字路線であり地方自治体は路線維持のため財政支援を行っているケースが少なくありません。多様なサービスを実装することで稼働率が向上し、市民にとって無駄がなく満足度の高い行政サービスを提供している良い事例と言えます。


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