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おばあちゃん日記その6【私は水虫じゃない】

高齢者の多くは白癬菌、いわゆる水虫にかかっているという話を聞いたことがあるだろうか。

これまで33年間の人生で、水虫にかかっている人に遭遇したことがなかった、いや、気がついていなかっただけかもしれないが、いずれにせよ私の記憶上、接したことがなく、最初におばあちゃんが水虫だと診断されたときは「えっ。マジですか。」と、ちょっと白目を剥いた。

ことのきっかけは、お世話になっているデイサービスからの連絡だった。

おばあちゃんの生きがいでもあるデイサービスのスタッフさんに、

「爪の状態から白癬菌感染の可能性が高いと思いますので、一度皮膚科の受診をおすすめします」

と告げられ、確かにそれまでもおばあちゃんの爪を見ては、多少巻き爪なのはあるものの、濁った感じの爪で、分厚さがすごくあって、

「この爪、普通の爪切りじゃ切れないよね…!?剪定ばさみで切る?」

と大真面目に言っていたこともあるほど、爪の状態に関しては気になっていた。とはいえ、まさか水虫だとは想像もせず、高齢になると、爪もこうやって白くなっていくんだなあ…と高齢化を理由だと思い込んでいた。

(これは私の手ですが…)

もしも白癬菌感染の場合、ひどい場合だと、私たち家族を含め、デイサービスの他の利用者さんにうつすリスクもあるだろうと考えると、申し訳なさすぎるので、嫌がるおばあちゃんを連れて、すぐさま皮膚科へ向かった。

これまた「なんで病院なんていくのよ!必要ないわよ。元気なのよ!」の一点張りのおばあちゃんだが「水虫のリスクがあると言われたからには一度診てもらって、違うかったら安心でしょ」と言って、なんとか説得して連れて行った。

しかし、近所の総合病院内にある皮膚科では初診の場合、予約制ではないため、とにかく待ち時間が長い。

2時間半ほど待っただろうか。

想像できるだろうが、この待ち時間の間に一体、何回「何しにきたんだっけ」というおばあちゃんへの質問に答える必要があったか…。

そうこうしてると、答えるのに飽きてきた私が「秘密!」と言ってしまうので、ここでもまた『秘密主義のセイカちゃん』という概念がおばあちゃんの頭を洗脳する。

参照↓

そして、水分補給量の少なさのわりに、頻繁にトイレに向かっては、皮膚科がどちらだったか迷うおばあちゃんに何度か手を振って呼び寄せる…ということを繰り返していくと、ついにおばあちゃんの名前が呼ばれた。

靴下をなんとかふらふらしながら脱いで、先生に足を見せる。

「うーん、顕微鏡でみてみるから、ちょっと皮膚とらせてね」

とピンセットで皮膚と爪の2箇所の皮を一部とって、顕微鏡でのぞいて一言。

「白癬菌ですね。」

…そうですよね。

これには、おばあちゃん自身もびっくりした様子で、なぜこの私が?という感じだった。そりゃ不潔だからなってもおかしくないよ…。

爪のみならず、足全体に白癬菌がいる可能性が非常に高いということから、2種類の薬が処方され、そこからなんとか頑張って、翌月の受診には白癬菌感染の部分が少し減り、それ以降は爪の薬のみが塗る必要があるとの判断になった。

しかし、おばあちゃん自身もまさか自分が水虫だなんて思いもよらなかったので、ことあるごとに「私は水虫じゃありません」と言う。

(いつも「眠りの小五郎」になってるおばあちゃん)

保険適用でも1本1,000円もする高級薬を処方されておきながら、私の内心は、何を言うのだ…と鬼の表情にたびたびなりそうになりつつ。

とにかくできることとしては、このおばあちゃんの爪を含む足の清潔さを保つこと。

そのため、これまではなんとなくおばあちゃん自身でやらせていた着替えも徹底させるようにした。

まずは靴下を毎日取り替えることから。

普通に考えると、同じ靴下を何日か連続して履くなんて不潔極まりないし、想像しただけでも臭い。

しかし、その「普通」ができないから「認知症」と診断され、要介護というサポートが必要なレベルになっている。

そんなわけで、靴下を新たに色違いの物を購入し、試しに「曜日」を足裏に記載してみた。だけれども、この作戦は失敗に終わった。

(曜日なんて生きるのに関係ないのだ)

最初はおばあちゃんも、この曜日が書かれた靴下をみて喜んでは「これで毎日、曜日がわかるようになるわね!」と、るんるんだったが、そもそも最初に曜日がわからないから、どの靴下を履けばいいかわからない。

それならば、孫の私が毎日用意してやればいいじゃないかと思われるかもしれないが、0歳5歳6歳のいる我が家において、そんな余裕はない。

結局、前日に何色の靴下を履いていたか、家族みんなが記憶をし、翌朝に違う色の靴下でなければ、また出直してもらう…ということを、しつこくしつこく繰り返していくと、驚くことに「靴下を毎日取り替える」という至極普通なことではあれど、新たな習慣を身につけることに86歳という年齢で成功した。すごいよ、おばあちゃん!

成功した日は、褒めちぎるということも意識しており、当たり前なことをこなしているだけなんだが、おばあちゃんもどこかうれしそうな表情をみせる。

やっぱりどんなことでもいいから、褒めることって大事…!

あとは晴れた日に、足を日光浴してもらったり、デイサービスが長期休みで在宅の日が続いたときなんかは、私がおばあちゃんをお風呂に入れるなんてこともやってみたり。

とにかく「汚(お)ばあちゃん」を脱してもらわねば。

爪の水虫に関していえば、皮膚科の先生からもここまで悪化していると、治療していても完治するまで、最低1年はかかると言われているので、長期スパンで、とにかく清潔にすることを習慣化させていくことで、おばあちゃんの爪の未来もきっと明るくなるはず。

今日もまた「水虫じゃないわよ!」と言われつつも、口うるさく愛情を持って接していくのみ。

介護されているみなさん、今日もおつかれさまでした。

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