見出し画像

ジャンク小説 「Exists」

※ジャンク小説とは…筆者が気まぐれに書き殴ったもの。



「Exists」


左腕にできたカサブタを爪で剥がした。
うっすらと滲んだ血が傷口に合わせて少しずつ広がっていく。
この傷だけ、どうしてもカサブタを剥がしてしまう。
何度もこれを繰り返し、もう三ヶ月ぐらい経ったような気がする。
薬用箱から絆創膏を取り出し、なんとか片手で貼り付けた。
明日にはこれを剥がし、また数日後にカサブタを剥がし、絆創膏を貼るのだろう。
絆創膏を見る度に思う。
傷口はすぐにカサブタとなり再生するのに、どうして僕自身は再生できないのだろうと。
四年前、最愛の彼女を亡くした。
手を伸ばせばすぐに涙を拭ってやれる距離に、彼女はいつもいた。
今はもうどんなに手を伸ばしても、触れることすらできない程、遠くへ行ってしまった。


ブルーノがやって来て、遊んでくれと言わんばかりに何度も膝にちょっかいを出してくる。
僕はブルーノを抱き上げた。
彼女が旅立ち、ほどなくして我が家にやって来た黒猫ブルーノ。
出会ったのは彼女とよく訪れた公園。
ベンチで泣いていた僕の足元にやって来て、涙が枯れるまでじっと座って僕を見ていた。
生まれ変わりなんて都合のいいことは信じないけれど、僕は彼女と暮らしていた部屋に連れ帰った。
そして、彼女が大好きだった「Bruno Mars」から「ブルーノ」と名付け、一緒に暮らし始めた。
僕が彼女のことを思い出すとき、ブルーノは必ず隣にやってくる。
ブルーノを抱き上げ、iPhoneでBruno Marsを流すと、いつだって彼女と過ごした日々を鮮明に思い出す。
彼女は写真を撮るのが大好きで、至るところに写真が飾ってある。
僕が彼女の誕生日にプロポーズした時の写真。
普段は切れ長な目は笑うとなくなる。
写真立ての中の彼女は、瞳から涙をあふれしている。
「またカサブタはがしちゃったよ」
写真立ての中の彼女は、そんな僕を満面の笑みで見つめている。
僕の頬には、反対に涙がつたった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?