「精神の時代」象徴する家族の愛憎劇を最高限度にまで振り切った会話劇として昇華させる仕上がり…★劇評★【舞台=夜への長い旅路(2021)】
精神分析への理解が進んだ時期だからというわけではないが、20世紀は「精神」の時代である。娯楽主義からの脱却を目指してリアリズムを採り入れ始めた20世紀前半や中盤の米国の演劇において、人間の精神の逼迫や荒廃が戯曲の材料として注目されたのはむしろ自然な流れである。ユージン・オニールしかり、後のテネシー・ウィリアムズしかり、精神的に追い込まれていく登場人物の描写を通して、現代人の精神性をリアルに描き出す傑作を産む作家が次々と現れるようになった。中でも家族との関係性の中にそうした精神の揺れを採り入れた作品は主流となり、オニールの「夜への長い旅路」は、その最高到達点と言ってもよい作品だ。日本を代表する女優、大竹しのぶと「地獄のオルフェウス」や「欲望という名の電車」でタッグを組んできた英国人演出家、フィリップ・ブリーンが三たび大竹を主役に据えて、そのセンシティブな傑作「夜への長い旅路」を上演している。オニールが最晩年に自らの青春時代の家族の悲劇を普遍的な人間劇として描いたと言われる半自伝的な究極の家族劇を、大竹の壮絶な演技や、大倉忠義・杉野遥亮のビビッドな感性、池田成志の多層的な表現によって最高限度にまで振り切った会話劇として昇華させることに成功しているという事実は、ブリーンの類まれなる手腕とともに日本の演劇のレベルの高さがあらためて証明された結果と言っていいだろう。(画像は舞台「夜への長い旅路」とは関係ありません。イメージです)
舞台「夜への長い旅路」は、6月7日~7月4日に東京・渋谷のシアターコクーンで、7月9~18日に京都市の京都劇場で上演される。
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★「SEVEN HEARTS」舞台「夜への長い旅路」劇評ページ
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