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運命の荒野をとぼとぼと行くたびに深まるのは物語そのもの。そのあやふやさと残酷さを気だるいオフビートの芝居の中に取り込んだ三浦大輔の才能が炸裂する…★劇評★【舞台=物語なき、この世界。(2021)】

 人生はいつでも自分が主人公、なんて言うけれど、本当にそうなのか。人の数だけ物語があって、その物語同士が一瞬どこかで重なり合うことこそが人生、という人もいる。これは物語論や哲学としての物語が語られ始めたころから存在する理論や議論のテーマなので、特段新しい考え方ではないのだが、人は普段は平々凡々と生きていて、自分は自分の物語の中でさえわき役だと思っているほど物語というものは他人事なのに、ある日運命の裂け目のようなところに自分が巻き込まれそうになると、とたんに自分はこの恐ろしい運命の主人公かもしれないとおびえたり、いやいやわき役だと自分を安心させてみたりする。そんな物語というもののあやふやさと残酷さを気だるいオフビートの芝居の中にものの見事に取り込んでみせたのが、演劇界・映画界が誇る鬼才、三浦大輔が作・演出の舞台「物語なき、この世界。」。都会の中や人生の森をふらふらとさまよっている根っこのない、ややくたびれた若者たちを演じる岡田将生、峯田和伸、柄本時生らが醸し出す所在なき現実感を、寺島しのぶや星田英利、宮崎吐夢らが演じる人生の先輩たちの切羽詰まった絶望感と、まだ定まっていない人生を割りきりの中で突き進んでいく若者たちの超越感が包む眠れぬ夜の一大俗物的絵巻。人生や物語などという大それた哲学的思考に包まれながら、運命の荒野をとぼとぼと行くたびに深まっていくのは、不思議なことに物語そのものだ。私たち観客は、三浦の魔術に惑わされ、物語の一番深いところに連れてこられたのかもしれない。(画像は舞台「物語なき、この世界。」とは関係ありません。イメージです)

 舞台「物語なき、この世界。」は7月11日~8月3日に東京・渋谷のシアターコクーンで、8月7~11日に京都市の京都劇場で上演される。

★序文は阪清和のエンタメ批評&応援ブログ「SWVEN HEARTS」でも読めます。舞台写真はブログでのみ公開しています。

★ブログでの劇評は序文のみ掲載し、それ以降の続きを含む劇評の全体像はクリエイターのための作品発表型SNS「阪 清和note」で有料(300円)公開しています。なお劇評の続きには作品の魅力や前提となる設定の説明。岡田将生さん、峯田和伸さん、柄本時生さん、内田理央さん、寺島しのぶさん、星田英利さんら俳優陣の演技に対する批評や、三浦大輔さんの演出、舞台表現などに対する評価が掲載されています。

【注】劇評など一部のコンテンツの全体像を無条件に無料でお読みいただけるサービスは2018年4月7日をもって終了いたしました。「有料化お知らせ記事」をお読みいただき、ご理解を賜れば幸いです。

★舞台「物語なき、この世界。」公演情報

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