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【インセンティブ型社債】新たな資金調達手法の可能性を見出す

はじめまして、名刺キャッチャーです。

私は大学卒業後、新卒で金融機関に勤め、顧客企業のそれぞれ異なる企業ステージでの資金調達を支援する中で、より適切な資金調達手段が無いかということについて模索していました。今回、頭の整理を含め、既存の調達手法と、私が考案した「インセンティブ型社債」による調達について、記載させて頂きます。率直な感想やコメントを頂けると嬉しいです。

以下で詳しく記載しますが、一定の条件下では企業(スタートアップ(EXITを狙う)、中堅中小企業(EXITなしの前提)、大企業(上場企業))にとって、従来の借入や出資などの資金調達よりも“インセンティブ型社債”がより良い資金調達になり得る可能性があると思っています。
※全ての状況でこの資金調達手法が最善策になるという意味ではありません

“インセンティブ型社債”とは、償還(返済)時に一定の指標と連動させて償還金額を決定するというもので、未だその資金調達手法を取った企業を聞いたことがなく、私が勝手に命名しました(笑)。
例えば企業価値を指標とした場合、社債発行時の企業価値が100、償還時の企業価値が200になっていれば、額面金額の120%で償還し、企業価値が70に下がっていれば額面金額通り100%で償還されるといったものをイメージしております。
つまり、投資家の観点から考えると、指標が上昇すれば投資家はインセンティブを享受することができ、指標が不変or下落すればインセンティブを受け取れず元本(+少額の利払い)を享受するという内容です。

一方、発行体(企業側)の観点から考えると指標、つまりは経営状況が良くなれば通常よりも高い利払いを行い、経営状況が悪化すれば低い利払いで済むという内容です。
また、“インセンティブ型社債”は伝統的な負債調達・資本調達の中間だと考えられます。弁済順位の観点から考えると、負債調達がローリスク・ローリターン、資本調達がハイリスク・ハイリターン、あくまで負債調達であるインセンティブ型の社債はローリスク・ミドルリターンとなります。
※インセンティブ型の社債において、インセンティブの設計でリターンの期待値を伝統的な負債調達と同様にすればローリスク・ローリターンになるのではないかという意見があるとは思います。但し、発行体(資金調達側)にとっては経営状況が悪化した時の保険になるというメリットがある為、設計上リターンを伝統的な負債調達より高くすることは可能だと考えております。

以下は現状どういった負債調達・資本調達手法があるのか、それぞれの企業ステージ(スタートアップ、中堅中小企業、大企業)が一般的にどのように資金調達を行っているのか、またインセンティブ型の社債はどのように活用できるのかという流れで記載しております。

<現状の調達手法に関して>
調達手法はざっくりとこのように分類されます。
※この辺りはファイナンスの一般的な知識である為、ご存知の方は次の題まで飛ばしていただいて大丈夫かと思います。

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伝統的な負債調達(デットファイナンス)に関して
伝統的な負債調達は大きく融資・普通社債・(補助金・助成金)に分けられます。
・融資
銀行等の金融機関から資金を借りることで、最も一般的なものです。
・普通社債
投資家から直接資金を調達し、利子の支払いや満期償還がある資金調達手法で、別名一般無担保社債や優先社債、シニア債と呼ばれます。

資本調達(エクイティファイナンス)に関して
資本調達手法としては主に普通株式の出資が挙げられますが、種類株や転換社債型新株予約券付社債(以下、CB)といった商品も存在します。このような資本調達は、負債調達と比較し、原則的に返済期限がない資金調達手法となります。そのため、銀行等から借入れをする時のように利払い必要が発生しないため、必要な資金が無駄なく確保できます。また、株主を増加させることにより資本が増えることから、財務体質を強化出来る効果もあります。
一方で、資本調達の実施は、既存株主にとっては新株として発行株式が増えた分、一株の価値が薄まる資金調達手法となります。そのため、株主割当以外の資本調達の場合、既存株主に対して合理的な説明を行って、理解を得る必要があるほか、新株の多くを第三者が握った場合には、経営に介入されるリスクが高まり、会社の支配権や配当方針に影響が出る可能性もあります。

・普通株式
自己資金と他者からの増資の2種類に大別できます。
自己資金は、自身の持っているお金です。重要なことは他社からの資金との割合で、株の保有率に伴う経営権はもちろん、補助金・助成金の中には、自己資金要件があるものもありますので、多いに越したことはないでしょう。一方、事業精算をした場合には、自分の資産を失うことになります。
他者からの増資としては、企業ステージの初期段階ではVC・エンジェル投資家と呼ばれる投資家からの出資が挙げられます。
特に企業ステージの初期段階で、纏まった金額を調達したい場合はVC等らの出資を得たい企業も活発な動きを昨今見せています。株の対価として受け取る資金だけでなく、投資家が持つ人脈やコネクション、事業に対しての知見を利用させてもらえることもあり、金銭面以外のメリットが大きいことからも、上記の投資家からの資金調達は注目される傾向にあります。またVCやエンジェル投資家からの出資を受けられるということは、投資家達から「将来性のある事業」だと評価されたことになるため、箔をつける意味でも注目度の高い手法です。
また上場以降の企業ステージにおいて、時価で新株を発行し、資金調達をする方法を公募と呼びます。そのため、公募は時価発行増資とも呼ばれます。額面ではなく時価で新株を発行するということは、自社の株価が高ければ高いほど、少ない発行株で多額の資金を調達できますので、大きなメリットとなります。

・CB
一定の価格で発行する企業の株式に転換できる権利がついた社債(転換社債)を発行する方法です。
英語では「Convertible Bond(CB)」と呼ばれています。
発行時には社債として発行されますが、当初に定められた行使請求期間に一定の行使条件に従って、発行後に株価上昇に伴う株式への転換が促進され、その結果デットが自己資本に転化されることで財務体質の改善・強化がなされます。
また、普通社債に比べ株式への転換権という甘味材により、普通社債と比べると利回りは低く抑えることが出来ます。
なお、株式への転換は、あらかじめ転換価格が決められていますので、株価がその価格以上に値上がりしたときには、大きな利益を得られる可能性があります。
また、株式に転換しなければ、普通社債と同じように毎年一定の利払いがあり、満期には額面金額が償還されます。

・種類株
種類株とは2種類以上の異なる権利内容を有する株式を発行した場合の各株式のことで、優先株式と劣後株式等が挙げられます。
普通株式は、全ての株主に平等の権利を有するように定められる一方で、種類株式では、株主が所有している株式の種類によってそれぞれ異なる権利を有します。
例えば、株式を買いたいと考えている人の中には、配当金や優待に興味があり議決権は重視していないという人もいれば、経営などに関わりたいので配当金よりも議決権を重要とする人もいます。種類株式を発行することで、上記のようなそれぞれのニーズを満たすことができるので、より多くの株式の販売が可能となり資金調達を容易にできます。
また、発行会社としても、外部の人に会社の経営や人事について介入されたくないと考えていることが多く、種類株式の発行により会社側のニーズも満たすことができます。
上記のニーズに沿って、配当や残余分配の側面において普通株式より「優先」させる等、条項次第で様々な商品設計が可能です。

・ハイブリッド証券
負債の特徴と資本の特徴を併せ持った資金調達手段です。負債と資本の両方の性格を有することから「ハイブリッド(混生物)」ファイナンスと一般的に呼ばれます。
厳密には資本(普通株式資本)では無いですが、資本に準ずる役割を果たすことから「疑似資本」「負債性資本」と呼ばれることもあります。
一般的には、3点(①継続的な支払義務が無い事②永続性を有する事③劣後性を有する事)の要件を満たしつつ諸条件を組み合わせることで、最適な資金調達が可能となります。
具体的な発行事例としては、大型のM&Aを実施した企業等が、株式の希薄化を避け、格付資本増強を目的とした発行が国内では多数見られます。
その中で劣後債に関して説明します。劣後債は普通社債と比較して元本および利息の支払い順位が低く設定されている為、債務不履行のリスクが大きい分、利回りは相対的に高く設定されます。企業の清算時に残余財産の弁済順位は普通社債・融資⇒劣後債⇒資本となります。

<各企業ステージにおける一般的な資金調達手法とインセンティブ型社債を導入した場合>
・スタートアップ

スタートアップは中小企業と同義ですが、ベンチャー企業は創業時特有の資金調達方法を取っています。
スタートアップ企業は成長ステージや各時期に必要な調達額を鑑みて資金提供者が大きく異なります。
以下の図はスタートアップの一般的な資金調達手法を記載したものです。

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もちろん一概に上記の資金調達手法が最適だという訳ではなく、私の主観で記載しております。
スタートアップは創業者の自己資金を活用することから始まり、創業融資やVC・エンジェル投資家からの出資を受ける流れが一般的です。
創業融資は最近では日本政策金融公庫から無担保・無保証で借入を行うことができると注目を浴び始めました。無担保・無保証というメリットはありますが、審査の難易度が高いと言われており、公庫のホームページを拝見しても様々な条件設定があります。
一方、エンジェル投資家やVCからの出資に関しても、資本調達に該当しますので性質上は無担保・無保証となります。事業を見る観点が資金の貸し手と出資者で異なり、もちろんエンジェル投資家やVCにも依りますが、一般的には金融機関からの融資よりも難易度が低いと言われています。

この出資を受ける際、起業家観点で留意が必要となるのは出資割合です。

起業家は設立時に資金が枯渇していることから、長期的な目線を持たずに安易に出資を受け入れることがあります。出資割合(議決権割合)は企業価値と出資金額によって決まりますが、企業価値は起業家とエンジェル投資家・VCとの合意に基づいた言い値で決定してしまいます。ざっくり申し上げると企業価値1億円とした場合、2,000万円の出資を受けた場合、20%の出資割合をエンジェル投資家に渡すことになります。
一方、企業価値が10億円とした場合は、同じ2,000万円の資金調達をする場合でも、たった2%の出資割合で済むことになります。言い値で決まる企業価値が重要になるのですが、起業家は資金を強く欲している為、エンジェル投資家・VCから言われる低い企業価値で合意してしまうことがあります。
起業家以外の出資割合が高くなればなるほど、EXIT(M&Aでの売却や上場)した際に起業家が受け取れる金額が小さくなります。
これは普通株だけでなくても、前述したCBであっても同様の問題が発生してしまいますので留意が必要です。また、上場を目指す場合、社長や安定株主の持株比率が低いと上場できないといったルールが存在するわけではないですが、これが低いことで資本政策上、日本では上場が様々な面で難しくなったりするケースがあります。上場しにくい資本構成になったり、創業者の持ち分が少なく上場するインセンティブが低そうな会社は、EXIT可能性が低いとみなされ、投資を受けられる可能性自体も低くなります。従って、創業期の資本政策は後々のEXITにまで大きな影響を及ぼすものであり、より一層丁寧に進めていく必要があります。

上記のような資金調達を経て、銀行からの融資を受けられる企業規模になり、晴れて上場するということに繋がっていきます。

ここで、上記の出資割合に関して私が考えているインセンティブ型社債を導入すればどのようなメリットがあるのか考察してみました。

図のイメージはこんな感じでしょうか。

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・インセンティブ型社債とは
冒頭にも記載しましたが、KPI(企業価値・売上等)を基にした償還時のインセンティブを付与した社債のことを指します。償還前のバリュエーションと償還金額を連動させることで、企業サイドは、KPIが大きく増加した場合、発行時の契約内容を基に元本返済金額に上限を設定することが可能となり、出資してもらうことに比較し、中長期的な調達コストの抑制が可能となります。
一方、投資家サイドは、株式よりも高い弁済順位(社債扱いとなるため融資と弁済順位は同様)の投資を行うことでリスクを抑えつつ、投資先企業のKPIに応じて一定のインセンティブを受け取ることができ、ローリスク・ミドルリターンが見込める投資が可能となります。

・インセンティブ型社債を活用する場合
前述の例の通り通常の出資の場合、企業価値が1億円から10億円になり、スタートアップがEXITできた場合、通常の出資で出資割合20%を持つ投資家は出資金額2,000万円の10倍である2億円を得ることができます。一方、起業家側は議決権100%(あまりありませんが)持っている場合と比較すると8億円の手取りとなり2億円手取りが減額してしまいます。
インセンティブ型社債の契約条件が連動指標を企業価値として企業価値が10億円以上になった場合、調達金額2,000万円の200%を返済するという内容だった場合の考察をします。

起業家目線:
企業価値10億円でEXITした場合、起業家は投資家相手に4,000万円の支払を行うこととなり、通常の出資と比較すると2億円-4,000万円=1億6,000万円コストが浮くことになります。起業家の観点では、スタートアップにおける不適切な資本コストを抑えることが可能であり、投資家の観点では一般的な出資よりもリスクの低い投資手法を取ることができます。

投資家目線:
投資家にとってはインセンティブが小さくなる為、一見何のメリットもないかのように思われますが、社債は弁済順位の観点からリスク自体が小さい為、もしスタートアップが倒産した場合も返済される金額が大きくなるというメリットがあります。

・中堅中小企業
中堅中小企業の資金調達は銀行融資が一般的です。
中堅中小企業の資金調達は運転資金や設備資金等、資金使途が定まっていることが多い上、事業計画の見通しがつきやすい為、銀行からの融資を受けやすくなります。もしその中堅中小企業の財務体力・収益力が弱い場合は、保証協会付の融資や担保差入型の融資で銀行から調達することが多いです。

・インセンティブ型社債を活用する場合
一案ですが、インセンティブ型社債の指標を売上とすることが良いと考えています。
中堅中小企業は企業価値を算定するタイミングがあまりなく、利益は簡単に調整できる為、企業の経営状況をリアルタイムで把握できるのが売上だと考えているからです。
売上が下がった際に支払うコストが小さくなるという点で保険としてのメリットを享受できると思います。

しかし、今の日本では負債調達における金利が低く、経済的な観点で大きくメリットを得られる訳ではないと思われます。また、上場を狙わない中堅中小企業がコストの高い資本調達を選ぶ可能性は低いと考えられます。インセンティブ型社債は簡単に言うと伝統的な負債と資本調達の中庸である為、伝統的な負債で済む中堅中小企業にとってはメリットを得られる状況は少ないのかなと思います。

一部考えられるニーズとして、投資家である金融機関がインセンティブを享受する為にビジネスマッチング等、企業の売上向上を支援することはあり得ると思います。それが実現できれば金融機関にとっても中堅中小企業にとってもWin-Winな資金調達となります。

・大企業(上場企業)
大企業の資金調達手法は多岐に亘り、エンジェル投資家・VCからの出資を除いて前述の負債調達・資本調達手法ほぼ全てを活用します。
但し、上場企業といっても売上10億円程度から10兆円程度の企業まで幅広く、企業規模が大きくなればなるほど、幅広い手法を活用しているイメージはあります。
それは企業規模が大きい企業ほど財務担当の知識が豊富だということなど様々な理由があるとは思います。
上場企業の中では小さい企業は前述の中堅中小企業と同様の銀行からの資金調達が主であり、大きい企業は公募増資や劣後債、転換社債等も活用しているとざっくりイメージしています。

全体での資金調達コストを最も抑えられるとされる「最適資本構成」を目指して企業は資金調達手法を選択しております。
(MM理論など米国CFAの受験勉強で学んだのが懐かしいです)

多岐に亘る為、詳細は割愛します。

・インセンティブ型社債を活用する場合
上場企業におけるインセンティブ型社債は指標を企業価値(上場株価)として、普通社債と劣後債の活用が有効なのではないかと考えております。

上場企業は全体での資金調達コストを最も抑えられる「最適資本構成」を目指しており、資本調達手法に関する説明でも述べた通り、エクイティ側のコストの面では株価が重要になります。もし株価が下がれば株主資本コストは上がってしまい、全体での資金調達コストが上がってしまいます。ここでインセンティブ型社債を活用した場合、株価が下がった時、株主資本コストは上がりますが、インセンティブ社債に関するコストは小さくなる為、資金調達コストにおける保険としてメリットがあります。
また、上場企業は中堅中小企業やスタートアップと比較すると信用力がある為、インセンティブ型劣後債も活用可能だと思っております。

金融機関等の投資家としても融資等で得られる利息金額が小さい中、適切に実態把握を行い、負債という資本と比較して安全性の高い投資方法でインセンティブを狙いにいくことは相応のメリットがあるのではないでしょうか。

<まとめ>
このように、事業者側・投資家側の双方に一定のニーズがどの企業ステージでもあるのではないかと考えており、これが拡がれば面白い調達手法になりうると考えています。

以上、つらつらと記載し、初めてnoteに投稿してみました。
ターゲットや指標は一例を挙げたのみであり、その他幅広く考えることは可能になると思っております。

あまりnoteの仕組みはわからないですが、ご意見お伺いできれば幸いです。


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