超ショートショート「地球は自転車である」

 「地球は自転車である」

 この文章だけ読んで、興味なさげに画面をスクロールして何処かへ行こうとしている諸君。ちょっとだけ吾輩の話を聞いて欲しい。2分だけ、諸君の時間を吾輩の思考実験にお付き合い頂きたい。

 さて、「地球は自転車である」という命題が真であることをどうしたら証明できるか考えてみたい。まず始めに確認すべきポイントは、等値ではない、つまり「地球=自転車」という等式は成立しないということだ。すなわち「地球は自転車である」が、「自転車は地球ではない」。自転車が地球ではないことは自明だろう。「りんごは赤い」が、「赤はりんご」とは必ずしもならないことと同じくらい自明である。この部分は良いね?

 さて、もう少し文章を分解してみよう。「地球は自転車である」という文は、「地球は自転する車である」と置き換え可能であると考える。「自転車」本来の意味からはこのタイミングで外れてしまうが仕方がない、あえて外れよう。そうしないと話が終わってしまうからね。ところで、

 「地球は自転する」

 これは吾輩からすれば当たり前の話なのだが、現代人の諸君であれば問題なく理解しているだろう。天動説をいまだに信仰している人々もこの世界にはいるようだが、マジョリティーは地動説で間違いないね?そう考えた場合、この「自転する」という動詞は「地球」の性質を説明しているに過ぎないので、命題から除外できる。最初の命題は形を変えてこうなる。

 「地球は車である」

 さて、次はこの「車」の解釈を考えていく必要がある。「車」の意味をGoogle先生(吾輩よりも偉い)に聞いてみると、0.47秒で返答があった。

くるま
【車】
1. 心棒を中心に回る仕組みの輪。車輪。
2. 荷車・電車・自動車・人力車(じんりきしゃ)など、車輪を回して移動する仕掛けの物の総称。

  1の定義を見てみよう。「心棒を中心に回る」とは、地球の自転軸のことを指していると見て間違いない。問題は「輪」の部分だ。Google先生(吾輩よりも偉い)に再度、教示頂こう。


【輪・環】
1. 細長いものを曲げて丸くしたものの総称。また、その形。円形のまわりの部分。
2. 車の軸に付いて回転し、車を進める役目をする、円形のもの。また、おけのたが。

  1の定義が「地球は自転車である」を証明するとすると、逆説的に、二つの仮説が浮かび上がる。

 一つは、「地球は元々細長い形をしていて、何かの拍子に曲がって丸くなった」説。地球はかつて棒だった。名付けて、地「球」ならぬ、「地棒説」。二つ目の仮説は、地球の自転軸が通る部分にすっぽりと穴が開いていて、北極点から中に入ると、南極点に出られる構造となっている、「ブラジルの人聞こえますか?説」もとい、「地ドーナツ説」。北極点も南極点も普段は氷で覆われているため、実際に穴が開いているかどうかは視認しづらい。

 諸君、お分かりいただけたであろうか。「地棒説」「地ドーナツ説」どちらかの仮説が証明されれば、「地球は車」であり、「地球は自転する車」であり、「地球は自転車である」が自動的に証明されるということが分かったと思う。ところですまない。2つの仮説の証明については、大変遺憾ではあるが、諸君らに任せる。

 吾輩は、ちょっとお月様を拝借して、アンドロメダ銀河に帰る事にするよ。お月様を平らに伸ばして折りたたんでサーフボードの形にすれば、天の川を滑って帰れるからね。諸君、仮説が証明されたら吾輩に連絡して欲しい。あと、月がなくなってお月見が金輪際できなくなってしまう事については先に謝っておく。それでは諸君、さらばだ。

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