セウユ

ショートショートを書いてみようと思い立ったアカウント。

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最近の記事

超ショートショート「Macbookを閉じる音」

 俺はMacbook Proを使っている。ネットサーフィンしたり、たまにカフェに行って文章を書いてみたり、とにかくこのPCの前で過ごすことが多い。  仕事では残念ながらWindowsの性能の良くないものを使っているが、プライベートではやっぱり自分の好きなものを使いたいじゃないか。1年前に思い切って2年ローン(金利ゼロ)で購入してしまったが、全く後悔はしていない、むしろQOLが格段に上がったと思う。人付き合いが少なく平日の夜も休日も誰かと会ったり飲んだりすることもないので常に

    • ショートショート「雷飲み」

      「今日、雷飲みやるよ!1時間後にいつものRoomで。みんな大丈夫?」  西山からグループチャットのメッセージが届いた。時刻は午後6時半、外は天気予報どおり、雷雨。 「とーぜん。」 速攻で返信すると、堀北と南沢も直ぐに返信した。俺はよしっと腰を上げる。  西山、堀北、南沢とは小学校からの同級生で、中学までいつも一緒にいた。俺の名前が東なので、東西南北の4人組としてなぜか馬があった。  雷飲みとは、その名の通り雷雨の日にそれぞれの家からビデオ通話を使って雷の音と光を肴に

      • 超ショートショート「熟成下書き」

         下書きを熟成させるという文章の作成手法があると知ったのはもう随分前のこと。寝かせれば寝かせるほど熟成され、クオリティが高くなるという。僕は早速この手法について試してみる事にした。  とある投稿サイトにエッセイや日々の生活で感じたことなどを毎日投稿することが日課となっている。毎日1本公開しなければならないので、1日に2本以上執筆していかないと下書きを増やすことはできない。僕は、日常のいろんなテーマを探し出してはエッセイや短編小説を執筆して下書きにストックしていった。  数

        • 超ショートショート「解雇」

           「すまないサム、君をもう雇い続けることはできない。今すぐ荷物をまとめて出て行ってくれ。」  ボスから解雇通告を言い渡され、僕は空を仰いだ。  今のポジションを得てから早10年になるだろうか。とうとうこの時が来てしまった。いや、僕も薄々気づいてはいたのだ。ここ数年、世界のマーケットは僕の仕事分野に厳しいものとなってきていて、先日職場が変わってからボスの要求に応えられないことが増えていた。いつ切られてもおかしくない状況だった。  今までのポジジョンは居心地の良いところだっ

        超ショートショート「Macbookを閉じる音」

          超ショートショート「レベル上げ」

           子育てにおける子供のレベル上げは忍耐が必要だ。経験値(exp)を積み、スキルを上げていくのにもテレビゲームのようにサクサクと上がらないし、メタルスライムのようなチート級の経験値で爆上げすることもできない。忍耐忍耐忍耐、特定の経験値稼ぎイベントの周回周回周回の連続である。  言語スキルや脳の処理スキル(INTと略すことが多い)を上げる王道は絵本の読み聞かせだ。一つの絵本を読み聞かせると、多いもので10exp獲得できるが、1レベル上げるのに数百から数千expを必要とするため、

          超ショートショート「レベル上げ」

          超ショートショート「クリップ」

           100均で買った、木製の小さなクリップ。110円で30個も入っている。非常にコスパが良い。  このクリップ、用途も多彩で、日常のあらゆるシーンで活躍する。例えば、お菓子の袋を開けてしまって食べきれなかった時、これを使って留めておく。冷蔵庫の中でも使えるので、残ったちくわの袋を留めておくとか、ソーセージの袋を留めておくとか、あらゆる袋が守備範囲となる。  ただただ袋を留めておくのがクリップの仕事ではない。カーテンのタッセルにクリップを引っ掛けて、カーテンの端に留めて吊るし

          超ショートショート「クリップ」

          超ショートショート・600文字「判断基準」

           何事も判断するときの基準をあらかじめ決めたおくと都合が良い。例えば、天気予報。朝たまたまつけたニュース番組の天気予報で「降水確率30%以上であれば大きな傘を持っていく」といったルールをあらかじめ設定しておくのだ。そうすれば、朝の忙しい時間で「雨降るのかな、大きな傘必要かな」というような小事に前頭葉を使わなくて済む。  なんでも人は何かを決断したり判断するときには大きなエネルギーを消費するそうだ。日常の些細な判断事については事前に行動を定めておき、脳のエネルギーを蓄える。そ

          超ショートショート・600文字「判断基準」

          超ショートショート「地球は自転車である」

           「地球は自転車である」  この文章だけ読んで、興味なさげに画面をスクロールして何処かへ行こうとしている諸君。ちょっとだけ吾輩の話を聞いて欲しい。2分だけ、諸君の時間を吾輩の思考実験にお付き合い頂きたい。  さて、「地球は自転車である」という命題が真であることをどうしたら証明できるか考えてみたい。まず始めに確認すべきポイントは、等値ではない、つまり「地球=自転車」という等式は成立しないということだ。すなわち「地球は自転車である」が、「自転車は地球ではない」。自転車が地球で

          超ショートショート「地球は自転車である」

          超ショートショート「ウォルシング」

           オリンピックチケットの抽選が当たった。ミーハーな僕は、特定のスポーツが特別好きというわけではないので、オリンピックの雰囲気を感じることができればなんでも良いと思っていた。そこまでメジャーではないスポーツならば倍率も低いと考え、比較的家から近い会場で開催されている、「ウォルシング」の平日3回戦のチケットを応募し、見事当選したのだ。  とはいえ、このウォルシングというスポーツについて僕はほとんど知らない。たまにスポーツニュース番組でやっているのを見るくらいだ。せっかく当選した

          超ショートショート「ウォルシング」

          超ショートショート「スクロール」

           仕事が終わり、帰路に就く。最寄り駅の改札を抜けて、深夜の住宅街をひとりスマホを見ながら歩く。今日は残業し過ぎてしまった。  スマホのスクリーンの上に水滴が一つぽとりと落ちた。その数は少しずつ増えていく。雨が降り出したのだと気がついた。そうか、今日は夜から雨だったな。いつもは折り畳み傘をカバンに入れているが、今日は家に置き忘れてしまったようだ。急いで帰ろう。  次第に雨が強くなり出した。慌てて走り出すが、家まではまだ距離がある。ふとスマホから顔を上げると、目の前に電話ボッ

          超ショートショート「スクロール」

          超ショートショート「ランニング」

           正体不明のウイルスが世界中で猛威を奮い、人々は外出自粛ムード、最近ではランニングするにもエチケットが必要らしい。  毎朝のランニングを日課とし、何十年も続けてきた俺にとって、ランニングを自粛するなんてことは考えられない。不要不急の外出はもちろん控えているが、ランニングは俺にとって恒常的に絶対に必要なものなのだ。ただ、そこまで風当たりが強くなっているのであれば、こうしよう、「ランニング中、半径5m以内に人がいるときは息を止める」。このルールで走るのであればどうだろうか。

          超ショートショート「ランニング」

          超ショートショート「サイドテーブル」

           リビングにサイドテーブルがある。スチールウールで編まれたカゴ状の土台に、丸い天板が乗っている。直径は50cmくらいだろうか。全体が藍色で統一されていておしゃれだ。  カゴの中は一人暮らし用の洗濯機くらいの容量があって、割となんでも入るのだが、何を入れたら良いのか悩ましい。例えば、おしゃれなクッションや膝掛けを入れておくのが定石だ。ただし、センスのない僕が手掛けると、クッションや膝掛けは潰れ、なんだか不格好な構図となってしまう。  他に入れられるものはないだろうか。例えば

          超ショートショート「サイドテーブル」

          超ショートショート「財布」

           今どき珍しいかもしれないが、外出するときはいつも財布を持ち歩いている。現金を受け付けてくれるお店を殆ど見なくなった最近では、スマホによる決済、あるいは事前決済がほとんどを締め、財布を持ち歩く文化はあっという間になくなってしまった。  正体不明のウイルスが蔓延してから、オンラインでのショッピングや決済が爆発的に増加し、実店舗での決済においても「現金にウイルスが着いている」との不安が広がり、キャシュレス決済に輪をかけた。  病院の診察券や、ポイントカードも軒並みアプリと化し

          超ショートショート「財布」