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【雄手舟瑞物語#14-インド編】仕事6日目(前編)、事件(1999/8/5)

僕は今、インドのぼったくりツーリスト・オフィスで働いている。

大学のテニスサークルのしがらみー皆で仲良くワイワイ合宿(強制)ーに妄想的反骨心で計画したインド一人旅(初海外旅行)。

インドに着いた初日に僕は騙され、約1ヶ月分の旅行資金の3分の2を一瞬で失う。ギリギリの予算だったため、どうにか食い繋ぐ必要があった僕は、僕を騙したインド人の仲間のところで客引きとして働かせてもらうことになったのだ。

デリーに来てから10日が経った。最初の4日間は、騙されるがままにボッタクリ側の運転手ラジャとジャイプル、アーグラを回った。デリーに戻った後は、今度は僕はボッタクリ側に回り6日が経った。給料が貰えるわけではなかったが、食事代と泊まると場所は提供してくれていたので、お金を使わずに済み、残りの滞在期間の資金の目処が立ってきた。

この10日間、ずっとデリーにいる。最初のジャイプル、アーグラなぞ楽しい思い出とはほど遠い。おまけみたいなもんだ。折角、反骨心でインドにバックパッカーしに来たのに、ずっとデリーにいる。

そして、客引きの仕事は心が痛む。ここはボッタクリのツーリスト・オフィスである。初日からこの仕事は嫌だったが、大袈裟かもしれないが、彼らに見捨てられたら路頭に迷い、自分の命にも関わるかもしれないと思っていたので、致し方なく・・・。

初日から「高いツアー代で吹っかけるボッタクリだから逃げて」という助言をバックパッカー達に続けてはいたものの、毎日、何組かのバックパッカーを店には連れてきていた。インド人達には働いている風に見せる必要があるからだ。

一応、客引き初日に高額なツアーを組まされてしまった大学生4人組以外のバックパッカー達はうまく逃げるか、インド1泊目のホテルをツーリスト・オフィスのグルのホテルにさせられるか程度(ちょっとボッタクられる程度)で済んでいた。

ところが昨日の夜だった。

「お前、さっきあいつら(日本人バックパッカー)に”タカイ”とか”ヤスイ”とかに言っていたな。」

ツーリスト・オフィスで最長老の爺さんが疑いの眼差しを向けてきた。

僕は一瞬焦ったが、多分文脈までは分からないだろうと思い、「ええ、あのホテルは”タカイ”とか”ヤスイ”とか話してましたよ。」と、「何か変なこと言いました?」的に「ん??」という表情を浮かべてごまかした。爺さんは鋭い眼差しを向けたまま釘を刺すように「俺は少し日本語が分かるんだからな。」と言ってきたが、それ以上は追求してこなかった。

そろそろバックパッカーを逃しているのが完全にバレてしまうかもしれないと思った。そしてその晩、立て続けに事件は起こった。

爺さんから疑惑を抱かれた直後、外で客引きをやっていたラジャが戻ってきて、「今日の仕事はここまでだ。家に帰るぞ。」と、ラジャの家に帰ろうと二人でオフィスを後にした。そして、デリーの街を歩いていた。この仲間のホテルの前に差し掛かったときだった。ホテルの一階フロント脇の部屋の前で、顔を知っている5人くらいのインド人たち(ボッタクリ関係者)がワイワイした雰囲気で集まっていた。

「あいつら、何してるんだろう。」ラジャもそれに気づき、僕らはホテルに入った。ラジャがそのリーダー格の男に声を掛けると、「俺たちのツアー客と明日からの打合せをしに来たんだ。」と言ってるらしかった。

リーダー格の男が部屋のドアをノックすると、昼間に街中で見かけた大柄な白人の女性が出てきた。「明日からのツアーの打合せをしに来たから、中に入れてくれ。」と男が言うと、その女性は渋々な表情を浮かべながらも「どうぞ。」と部屋に入れた。

ドアが閉まると、外に残っていた男の仲間たちは部屋のドアに耳を当て、部屋の中の様子を伺い始めた。ラジャは「行くぞ」と、ちょっと苛立ちながら僕を外に連れ出した。

ラジャの車で家まで戻る。僕は、彼らは女性を襲おうとしてたのではないかと言った。ラジャは厳しい顔つきのまま「あいつはツアーの打合せだと言っていた。だから本当に分からない。」としか言わなかった。


(前後のエピソードと第一話)

※この物語は僕の過去の記憶に基づくものの、都市伝説的な話を織り交ぜたフィクションです。合わせて、僕のいまを綴る「偶然日記」もよかったら。「雄手舟瑞物語」と交互に掲載しています。


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