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【偶然日記#20】NHKドラマ「だから私は推しました」の話

昨晩ヘビー級のとんでもないパンチを一発繰り出した女の人を目撃した。といってもテレビドラマの中の話。

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僕はテレビドラマが好きだ。ワンクール三本くらい観る。そんな僕は、展開が決まってるから頭を休ませるために観ている、とドラマを途中から見始める父親がずっと理解できなかった。水戸黄門や大岡越前ならいざ知らず、映画さえもだ。

高校や大学の頃、僕は「アルバムは通して聴かないと、聴いたって言わねぇんだよ」と先んじた趣味を持った同級生たちのカッコ良いセリフをたくさん吸収しては吐き出していた。

「アルバムもドラマも通してみるべきものだ」と考えていた僕にとっては途中から観るなど有り得ない。そんな体育会出身の父親に、文系的な何かを解さない野蛮人というレッテルをまた貼るのだった。

それから20年以上経った今、僕がテレビドラマを観るのは、頭が休まるからである。ここで視覚と気持ちのデトックスをしている。たぶん。さすがに最近はビデオやTVerがあるので「途中から」というのはあまりないが、途中からでも意外に大丈夫なのはもう分かっている。

これが映画だとちょっと違う。少なくとも90分くらいはある。それなりの集中力が必要だ。リラックスしたいとき、どの作品だったら気軽に観られるか?をサッと選べるほど詳しくない。それに90分間もテレビの前にいるのならば、しっかりした作品が観たいと貧乏根性というか、欲が出てしまう。

そんな時はやっぱりテレビドラマが丁度いい。今クールでハマっているのは『だから私は推しました』。脚本は『JIN-仁-』や『義母と娘のブルース』の森下佳子で、NHKの土曜午後11時半の「よるドラ」枠で放送されている。(「よるドラ」枠では『ゾンビが来たから人生見つめ直した件』も面白かった。)

<以下、あらすじ>※ネタバレ含むので注意飛ばしてください。


主人公は30歳目前のOL、名前は愛。冒頭、同期の女子3人での食事のシーン。恋愛、仕事、恋愛と話題という名の技を互いに次々に繰り出し、マウンティングを取り合う。こういった愛たちの日常が描かれる。この時は「彼氏の海外赴任が決まった」という愛が勝利する。そして、彼氏に呼び出される愛。プロポーズされると思いきや振られてしまう。彼氏は、愛が勝手にラブラブな写真をインスタに投稿したり、周りからの「いいね!」集めに終始するのが嫌だったらしく、節目に別れを申し入れたのだ。公園で泣き崩れる愛。そのとき愛はスマホを落としてしまう。

失くした自分のスマホに電話を掛ける愛。男が出る。ライブハウスに取りに来いと言う。愛は仕方なくライブハウスに行き、扉を開ける。そこには熱狂するオタクたちの姿とパフォーマンスをする地下アイドル5人。その内の一人の女の子、ハナ。歌もダンスも全然ついて行けてない。愛には、その子がグループにしがみついてるように映った。まさにそれは自分自身だった。自分に対する苛立ちをハナにぶつける。愛の罵声で会場は静まり、震えるハナ。「泣いたってどうにもならないんだからね」と愛は捨て台詞を残し、会場を逃げるようにして出ていく。

ハナに八つ当たりしたことを後悔する愛は、翌日謝りに行く。しかし開始時間になってもハナは現れない。心配する愛。すると前髪を切ってきたハナが慌てて入って来る。昨日、愛に前髪をコミュ障呼ばわりされたのだ。「歌とかダンスとかすぐに上手くなるのは無理だけど、ここならすぐ直せるかと」という逃げずに前に進むハナに、愛も「前向きに進まなきゃ」と心を揺さぶられたのである。

こうして愛は、ハナのファンになっていくのであったが、例の会社の同期には言えずじまいだった。愛はオタク仲間から「周りから引かれるのが怖い」という気持ちがハナに引け目を感じさせていると指摘される。

そんなときリア充感満載のショッピングモールでサニーサイドアップ(地下アイドルのグループ名)が急遽ライブをすることになる。愛も応援に向かうが、たまたま同期女子に会場の目の前で会ってしまう。まだバレていない。舞台の目の前のテラスでお茶をする三人。ハナが愛を見つけて声を掛けてしまう。雰囲気を察したハナは人間違えだったと誤魔化して、その場を後にする。

同期女子の内、仕事に打ち込む一人の方が、地下アイドルとオタについて「リアルの世界では満たされない者同士が承認欲求満たし合ってる」とディスり始める。さらに地下アイドルについて、「オタクよりもひどい」「学校ではカースト低い女子が」「誰にも望まれてないのに勝手にアイドル宣言なんて、身の程わきまえろよ」とさらに憎悪を伴いディスすは激しくなる。

ついに愛は立ち上がる。同期女子に「なぜ身の程をわきまえないといけないの」「そんなルール誰が決めたの」と反論し、ついにハナのオタであることを告げる。


<あらすじ、ここまで>

そんな愛に同期が放ったヘビー級のパンチ並みの一言。軽蔑した眼差しを向けて放った


「共依存」


総合職の同期女子は持てる力を全て使いエリア職の愛をぶっ倒しにかかった。彼女が今まで築いてきた友達という名の階級社会。その社会における基準、価値感が自分より下の人間である愛によって危機に晒されている。彼女は全力で暴力を振るい愛の戦意を喪失させようとした。しかし愛は負けなかった。「共依存」しているのは、まさに彼女自身なのだ。

そして彼らは決別した。

彼女は不安から自分が空っぽであることを取り繕いたかっただけ。しかし、自分の中心点は、そもそも空。あると思っていたのがない。思い込んでいたものがひっくり返されると不安になる。でも人間は慣れる。というか元々は食うために放浪してきた。本能的な感覚を鍛え直せば、空の中で生きるチカラは本来備わっている。

そのために行動する。行動次第で彼女は愛に、愛は彼女にもなる。アナキンでありダース・ベーダー。変わろうとすることに厳しくも導く仲間と、自分の領域から逃れさすまいとする悪魔。自分が変わりたければ悪魔から離れなければならない。悪魔は自分を肯定するために、あなたを利用するために、あなたを所有しようとしているだけなのだ。そこに愛はない。

周りに変わろうとする仲間がいたら、追わずに見送る。その仲間は、あなたが変わろうと思ったいつかそのとき、きっと厳しくも導いてくれる存在になる。

そしてまた、悪魔の力の反作用によって、あなたは打ち破れなかった殻から飛び出せる。悪魔のおかげでもある。だから、悪魔が変わろうとしたときは厳しくも導こうとしたい。

二千年以上蓄積されてきたメッセージを伝えるための知恵、シナリオの魔力。この一話30分のドラマで改めてその強大で深遠な力を感じた。

悪魔にも届けメッセージ。

僕の挑戦もつづく。


※次回の「偶然日記」は8/13予定。「偶然日記:今の日常を綴る」と「雄手舟瑞物語:青い鳥を探し続けた男が見つけたもの」を毎日交互に掲載しています。明日は「雄手舟瑞物語」です。


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