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【雄手舟瑞物語#26-インド編】旅の中間地点、ムンバイへ(1999/8/12-15)

皆既日食を見た翌日、僕ら4人はブジからアーメダバードを経由し、ムンバイに着いた。寝台列車で15時間の旅。

8月13日朝7時。ムンバイはインド最大の経済都市であり、ヨーロッパ風の街並みがとてもきれいだ。これまで見てきたインドとは全く違う雰囲気。自ずと緊張もほぐれる。

僕らはまず宿を探した。すぐにチェックインできるという宿が見つかったので、そこにした。そして、寝る。寝る。寝る。僕とトラは、二人で昼を軽く食べに出たりしたものの、女子二人は分からない。ずっと寝てるのでなかろうか。

夕方になっても、女子二人に動きがなかったので、僕らは彼女たちの部屋に行き、ノックをしてみた。最初は反応がなかったが、2、3回ノックするとカトミが出てきた。本当にずっと寝てたらしい。でも、そのおかげで大分疲れが取れたようだ。そして、ずっと列車でトラが、「ムンバイに着いたら肉だ、シシカバブだー」と呪文のように言っていたのを覚えてくれていて、「シシカバブ食べたいんでしょ?」とカトミがお母さんのようにトラに言い、「チカブン、夜ごはん食べに行こー」とチカブンに声を掛けてくれた。チカブンは、まだ寝ていたようだ。

二人ともすぐに支度をしてくれて、宿を出た。今日は「ブジはベジの州なので肉が食べられなかったから、奮発しよう」ということで、初めてちょっと高級そうなレストランに入った。

トラお待ちかねのシシカバブ。「肉とビールだ!」と盛り上がったが、その日はドライデーといってアルコールを出してくれない日だそうで、レストランでビールを飲むことができず、不完全燃焼。


宿に戻り、スタッフに「どこかでアルコールを買えないか?」と聞くと、こっそりと売ってくれる場所を教えてくれた。路地裏のタバコ屋のような店だった。黒いカーテンがかかっている。「すいませーん」と何度か声を掛けると。店主らしきインド人が出てきた。

「なんだ」

僕らは「アルコール売ってますか?」と聞いた。

店主は「なんでこいつらが知ってるんだ」と言わんばかりの怪訝な顔をしながらも、「何が飲みたいんだ?」と聞いてきた。「キング・フィッシャー」と答えた。キング・フィッシャーはインドのメジャーなビールのブランドだ。悠長にしてたら売ってくれなくなりそうなので、選択肢はそれしかなかった。

店主は黙って奥に行き、大きめの瓶ボトル2本を取ってきた。僕らがお代を払うと、「隠せ」と念を押すと、周りを見渡し、誰もいないことを確認するとすぐにカーテンを閉めて奥へと戻っていった。

兎にも角にも僕らはビールをゲットした。喜び勇んでホテルに戻り、女子たちの部屋に集合した。

しかし、

栓抜きを持っていなかった。宿にもないらしい。。


この時、最初で最後、テニスサークルでの経験が役に立つ。

「歯で開けられるよ」と僕は言った。

「えー、やめなよー」とチカブン始め止めたが、僕は「やったことあるから大丈夫!」と言って、皆のヒーローになろうと頑張った。

が、ダメだった。結局、テニスサークルは何の役にも立たなかった。その代わり、持って来ていたハサミで、ちょっとずつ王冠の裾を広げた。無事瓶の蓋が開いて、カトミが持っていた水筒のコップにビールを注ぐ。そして、乾杯。

僕らは早々に次の旅程を話し合った。

トラは「俺はエローラの石窟群でドラクエ気分味わいたいんだよなー」と言うと、カトミも「いいねー」と乗る。チカブンは「わたしはワラナシで沐浴して、ネパールのポカラに行きたい」と言う。チカブンはヒッピー・コースがご所望のようだ。

トラは「あとゴアのビーチに行って、RAVEパーティーも良くない?それにバターボール知ってる?インディージョーンズみたいなデッカイ丸い岩で転がりそうで転がらないんだって。それも見たいんだよなー」と、また違う角度からの提案を出す。トラは日本ではヒップホップをやっていて、おしゃべりなラッパーなのだ。「あとどっかでピンクのイルカ見れるらしいよ。見たいなー」とアンダーグラウンドに似つかないカワイイことを言う。

全然まとまらない。「お前は?」とトラは僕に聞いてきた。正直リサーチ不足で行きたいところがない、というか知らない。でも、何となくネパールに行ったらエベレストが見られると思ったのと、折角だから二か国行きたいと思ったので、「ネパール行きたいかも」と答えた。それと、「それじゃあ、2-2で分かれる?」と提案してみた。

皆その提案に「いいかもね。そうするか」と賛同し、チカブンと僕、カトミとトラに分かれて旅することになった。トラは嬉しそうに「おい、女子と二人旅だな」と、同じことを考えていた僕に言った。もちろん僕らは分かっている。この先、我々は姉さんたちの給仕として仕えることになるだろうという予想をちょっとだけ忘れたかっただけなのだ。

それぞれのチームに分かれて、次の場所への行き方を調べた。チカブンと僕はワラナシ。カトミとトラはプネー、バターボールの場所。プネーはムンバイから4時間弱くらいで、比較的近い。一方、ワラナシは電車で30時間。。。チカブンは事前に調べていたようで平然としていたが、僕は「えっ、30時間。。。」と弱気が漏れてしまった。「インドは大きいからねー」とチカブン姉にサラっと言われる。

15時間移動、中2日で30時間。これが一人だったとしたら。。もはやこの時には、一人旅のつもりでインドに来たことをすっかり忘れていた。仲間って良いな、と改めて思った。


翌日は4人でムンバイをゆったりと観光した。マーケットというより電気街のようなところを散策して、ヒンディー音楽のカセットテープを買ったり、近くにエレファンタ島という観光地に行ったりした。

エレファンタ島はムンバイからフェリーで一時間。木製のボートのようなフェリーで行く。僕が覚えているのは、全員船酔いになったこと。なので、カトミの気持ち悪さを耐える鋭い眼光以外、島のことは何も覚えてない。

思えば、4人が出会ってからまだ一週間ちょっと(僕以外の3人は知り合いだったけど)。たった一週間だけど、人生の中でも、なかなか体験できない本当に濃い時間を連続ですべて共有した。「家族になるための儀式だったのかも」と思うような時間の流れだった。

ぼったくりツーリスト・オフィスで客引きとして働かされていた僕が、デリー空港から市内に向かうバスに乗り込み、客引きと客という立場でトラ、チカブン、カトミと出会った。僕の逃亡計画に二つ返事で乗ってくれたのに、計画は失敗して捕まった。そこに奈良県で修業していた料理人のインド人が日本人への恩返しと言って僕らを救ってくれた。そしてブジという遠い町まで行き、砂漠で皆既日食を見た。

僕たちは家族だ。僕はそう今でも思っている。

ムンバイ3日目の8月15日。チカブンと僕はワラナシへ。カトミとトラはプネーにそれぞれ旅立った。


1999年8月15日のノートをめくると、トラとカトミからのメッセージが残っている もったいないので要約だけ。

トラからはトラが好きな格闘家のエンセン井上の言葉「男で生きたい 男で死にたい 男でありたい」

カトミからは「男は30歳から いろんな経験をしてイイ男になるんだよ」という叱咤激励

あれから20年。僕はどうなったでしょうか。二人も元気にやってるかな?

そして、次回からはチカブンとの二人旅に移っていきます。いざワラナシへ。


photo(cover) by John Hyun

(つづく、次回は8/16)※2日に1回くらい更新してます。
(前後の話と第一話)

※この物語は僕の過去の記憶に基づくものの、都市伝説的な話を織り交ぜたフィクションです。

合わせて、僕のいまを綴る「偶然日記」もよかったら。「雄手舟瑞物語」と交互に掲載しています。





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